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114、家族とロペス商会

 工房を出てまず向かったのは、路地を奥に進んだ先にある小さなお店だった。紙やノートを売っているらしいそのお店のカウンターに向かうと、ダスティンさんは店主に手紙を渡して「クレールへ」と一言だけ告げる。


「かしこまりました」


 店主の男性が手紙を受け取ると、ダスティンさんはすぐにお店を後にした。


「あの、さっきのお店って……」


 聞いて良いのか分からなかったけど、好奇心に負けて問いかけると、ダスティンさんは周囲に人がいないタイミングで教えてくれた。


「王家に雇われた、情報収集などを仕事とする諜報部員が運営している。基本的には他国へと派遣されるのだが、国内情勢を把握するために少数は国内にいるのだ」


 要するに、スパイ的な仕事をしてる人ってこと? 本当にそういう人がいるんだね……なんだか現実感がない。


「まあ、あの者は私のために派遣されたようなものなのだがな。兄上が私と連絡を取れるようにと、信頼できる諜報員を派遣してくれた」

「そうなんですね……」


 諜報員の希少性がどれほどなのか分からないけど、専門性の高い仕事だろうし、人手が余ってるってことはないだろう。そんな諜報員をダスティンさんのために一人使うって、結構凄いことだよね。


 お兄さんとは仲が良いって言ってたけど、それどころかかなり必要とされてるんじゃないだろうか。


「レーナ、次はレーナの両親、兄を迎えに行く。私は詳しい場所を知らないので案内してくれ」

「分かりました。ではまずは両親から行きますね」


 それからお父さんとお母さんの屋台に向かい、二人を連れてお兄ちゃんのお店に向かった。

 詳しいことを説明できる環境はなかったので、皆は不思議そうにしながらも付いてきてくれている感じだ。


「レーナ、次はどこに行くの?」

「次はロペス商会かな。そこで色々と説明するよ」


 ダスティンさんから私の家族とギャスパー様にだけは全てを明かしても良いと言われているので、ダスティンさんの素性も話す予定だ。

 ジャックさんやニナさんたちには、創造神様の加護を得たから仕事を続けられなくなったとだけ伝えようと思う。


 それと、エミリーたちへの伝言も頼もうかな。しばらく会えなくなっちゃうのが悲しいけど、また絶対に会いに行きたい。


「……レーナがいなくなることはないよな?」


 私がフードを被っていることから悪い話だと確信している様子のお父さんは、さっきから私と手を繋いで離そうとしない。

 もうお父さんと手を繋ぐような年齢じゃないんだけどな……そう思いつつ、さすがに今は振り解く気持ちにはならなくて笑顔でお父さんの顔を見上げた。


「お父さんの近くからいなくなることはないよ」


 それからは皆が口を閉じ、無言のままロペス商会に到着した。全員で商会の中に入ると、ちょうどポールさんが休憩中だったようだ。突然現れた私たちの姿に不思議そうな表情を浮かべている。


「レーナちゃん、どうしたの?」

「ポールさん、突然すみません。ギャスパー様に話があるのですが、商会長室にいらっしゃいますか?」

「えっと……今の時間ならいると思うよ。来客の予定も入ってないから。何か急用?」

「はい。ギャスパー様に話をしてから、皆さんにもできる限り話せたらと思っています」


 私のその言葉にポールさんは何かを感じ取ったのか、真剣な表情で頷いてくれた。


 商会員の皆に不思議に思われつつ商会長室に向かうと、ポールさんの言う通りギャスパー様は一人で書類仕事をしているようだ。


「突然どうしたんだい……って、たくさんいるね」


 ギャスパー様は私の後ろにいる家族とダスティンさんを見て、少しだけ瞳を見開いた。


「今日は神々への祈りの儀式だったはずだけど、何かあったのかい?」

「はい。実は私の今後に関する重大事項がありまして、ギャスパー様にも話を聞いていただきたいのですが、今お時間は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ。じゃあ……まずは皆さん座ってください」


 ギャスパー様が座ったソファーの向かいに私とお父さん、お母さんが並んで座り、机の横に設置された一人用のソファーにダスティンさんとお兄ちゃんが腰掛けた。


「それで、何があったんだい?」

「まずはこれを見て欲しいのですが……」


 少し緊張しながら手袋を外していくと、私の指輪に嵌っている金色に輝く宝石を見て、誰もが驚愕の表情を浮かべた。


「レ、レーナ、それって……」

「創造神様の、加護なんだと思う」

「まさか、本当にそんな加護が存在しているなんて……」


 それから教会で加護を得てからダスティンさんの工房に逃げ込むまでを説明すると、お父さんは涙目で私を抱きしめてくれた。


「レーナ、無事に戻ってきてくれて良かった……本当に、本当に良かった」

「うん。私もちょっとヤバいかもって思ったよ」

「ダスティンさんも、娘を保護してくれてありがとう」

「別に構わない。私もレーナにはいつも世話になっているからな」


 ダスティンさんはお父さんの言葉にそう返答すると、さっきまでは無言で聞く姿勢だったけど、ソファーの背もたれから体を起こして皆を見回した。


「これからのレーナについて話をしても良いか?」

「別に構わないが……何かいい案があるのか?」

「ああ、レーナとはすでに話し合って決めてある。レーナは王家が保護をするという形にして、貴族の養子にする予定だ。教会は貴族には手が出せないからな」

「お、王家の保護? それに貴族の養子って……そんなの無理だろう」


 お父さんが尤もな疑問を口にすると、ダスティンさんは全く気負う様子もなく自分の秘密を口にした。


「可能だ。私が兄上に頼んだので、明日か明後日には騎士がやってくるだろう。私は……現国王の次男だからな」

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