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105、兄妹で散策

 お兄ちゃんは二つも買っていたラスート包みにさっそくかぶりついていて、私はまず冷製スープだ。


 スープはトマトに似た味がするミリテという野菜がふんだんに使われ、他にもたくさんの野菜が細かく刻まれて入っている。少しだけ肉も入っているので、予想以上にお腹に溜まりそうだ。

 大きめのコップみたいな木の器によそられているスープを、スプーンはないので飲み物のように流し込んだ。


「うわぁ……めちゃくちゃ美味しい」


 やっぱり暑い日には冷たいものだよね。さっぱりとした味付けだけれど、旨味もちゃんとある。


「そんなに美味いのか?」

「うん。ちょっと飲んでみる?」

「ああ、レーナもラスート包みを食べるか?」

「じゃあ一口もらう」


 一口ずつ交換すると、ラスート包みもかなり美味しかった。暑い季節だからか味が濃いめに作られてるみたいだ。


「おおっ、確かに美味いな」

「でしょ? この器を返しにいくと小銅貨一枚もらえるらしいから、返しに行くついでにまた買えるよ」

「それは良いな。うちの近くだし後で戻るか」


 そんな話をしながらスープはすぐに食べ切ってしまい、次は冷えた果物だ。いろんな果物が串に刺して売られていたけど、私はベルリという水色の果物を選んだ。

 ベルリは頑張れば一口で入り切るぐらいの大きさで、中の果肉は白い。そして味は苺みたいな感じだ。


「うぅ〜ん、冷たい!」


 冷却魔法で冷やされたベルリは、一気に食べたら頭が痛くなりそうな冷たさだった。でも甘くて瑞々しくてとても美味しい。


「レーナはベルリが好きだよな」

「うん。甘味が強くて瑞々しいところが良いんだよね。お兄ちゃんはミルカでしょ?」


 買っておいたミルカの串を差し出すと、お兄ちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべて受け取った。

 ミルカは鮮やかなオレンジ色で、見た目を裏切らずに蜜柑みたいな味がする。ただ皮は必ず剥かないといけないほどに固くはなく、そのまま食べる人も多い果実だ。


「この皮が美味しいんだよな」

「ちょっとだけ苦味があるところが良いよね」

「おお、やっぱり冷えたミルカは最高だ」


 それからミルカとベルリも一つずつ交換し、二人ともお腹が満たされたところで、お母さんとお父さんの屋台に向かってみることになった。


 路地に入っていつもの市場に向かうと、そこもかなり賑わっている。広場に面した建物の窓には、いろんな展示が飾られているみたいだ。


「おっ、二人の屋台、盛況みたいだぞ」


 お兄ちゃんが指差した先には、忙しそうに働く二人の姿があった。お客さんが引くまで他の屋台を見て回り、余裕ができたところで声をかける。


「お母さん、お父さん」

「おっ、レーナとラルス。来たのか?」

「うん。たくさんお客さん来てたね」

「ええ、ありがたいことに忙しいわ」

「これフルーツジュース。暑さで体調崩さないように飲んでね」


 さっき近くの屋台で買ったジュースを差し入れすると、お母さんは嬉しそうな笑みを浮かべながら受け取ってくれて、お父さんにはガシガシと頭を撫でられた。


「ありがとな。これでまた頑張れる!」

「そうだ。二人はご飯って食べた?」


 お兄ちゃんが焼きポーツの肉巻きを一つもらいながらそう聞くと、二人は一斉に首を振った。


「そんな時間はなかったんだ」

「じゃあ俺たちで買ってくるよ。何が食べたい?」

「あら、良いの? それならお母さんは冷たいものが良いわ」

「父さんはガッツリとした味が濃いやつがいいな」


 二人の要望を聞いた私とお兄ちゃんは、近くの屋台を巡って美味しそうな食事をいくつか買った。そして二人に渡したところで、邪魔をしないようにと屋台から離れる。


「あと一刻ぐらいで売り切れちゃいそうだったな」

「そうだね。でも売り切れたら二人もお祭りを楽しめるし、ちょうど良いかな」

「確かにそうだな」

「この後はどうする?」


 路地からまた大通りに戻りながらお兄ちゃんの顔を見上げると、お兄ちゃんは少しだけ悩んでから街の内側を指差した。


「向こうにあるっていう噴水を見に行かないか? かなり暑くなってきたしな」

「それ良いね。火の展示はどうする?」


 お兄ちゃんは火の女神様から加護を得ているから暑くても見に行きたいかなと思ってそう聞くと、お兄ちゃんは悩むことなくすぐに頷いた。


「もちろん見にいくぞ。俺の精霊も喜ぶだろうしな」

「確かにそうだね」


 いつもお兄ちゃんの周りをふわふわと漂っている精霊に視線を向けると、たくさんある展示の中でも火の展示に近づいていくみたいだ。


 もう精霊が漂ってるのが当たり前になりすぎて意識もしなくなったけど、改めて不思議な存在だよね……。

 お兄ちゃんみたいに魔法が下手で使わない人と契約して、精霊にメリットってあるのだろうか。精霊とは意思疎通ができないし、そもそも意思を持っているのかも定かじゃないし、こんなに身近な存在なのに分からないことばかりだ。


「まずは火の展示から見に行こうか。暑くなってから涼しい展示に向かった方が、気持ち良いと思わない?」

「確かにそれもそうだな。じゃあ火の展示に行くか!」


 行き先を決めた私とお兄ちゃんは、どんな展示があるのかと期待に胸を膨らませながら大通りを進んだ。

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