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102、帰還の翌日

 昨日は自宅に戻るとお父さんに泣いて喜ばれ、お母さんとお兄ちゃんにお土産話をせがまれ、楽しくも忙しい夜を過ごした。


 そしてやはり疲れが溜まっていたのかぐっすりと眠りに落ち……目が覚めたら、ちょうどお昼の時間だった。時計を見て愕然とした私は、とりあえず着替えてリビングに向かう。


「レーナ、やっと起きたのね」

「あれ、お母さん家にいたの?」

「ええ、レーナが起きなくて心配だったから、少しだけ戻ってきたのよ。でもそろそろ行くわ。お昼ご飯、焼きポーツの肉巻きを持ってきたから食べなさい」


 テーブルの上に置かれたお皿を見てみると、三つも美味しそうな肉巻きが載せられていた。


「美味しそう……」

「ふふっ、食べたら疲れも取れるわよ。じゃあお母さんは行くわね」

「うん。ありがとう」


 私はお母さんを玄関まで見送って、穏やかな気持ちで焼きポーツの肉巻きを食べた。少し濃いめの味付けが疲れた体に染み渡り、まだぼーっとしていた頭が覚醒していく。


「やっぱりお母さんの料理って美味しいなぁ」


 朝食兼昼食を食べ終えて一杯の水を飲んでから、しっかりと戸締りをしてうちを出た。まずはダスティンさんのところに行って、次はロペス商会だ。


「ダスティンさん、こんにちは」


 工房のドアを叩いて声をかけると、少ししてからドアが開かれた。中から出てきたダスティンさんは……酷い顔だ。


「……もしかして、寝てないのですか?」

「ああ、買ってきた素材を見ていたら研究をしたくなってな。ただそろそろ寝る」

「絶対に寝た方が良いですよ。クレールさんはもう帰ったんですか?」

「昨日すぐに帰した。あまり長く私の側にいるのは良くないんだ」


 確かによく考えたら……クレールさんが頻繁に出入りしてたら、ダスティンさんがここにいることがバレる危険性が高まるのか。だから今までほとんど会わなかったんだね。


「屋台で食事とか買ってきましょうか? 何も食べてないですよね?」

「……頼んでも良いだろうか」

「もちろんです。ちょっと待っててください」


 私は工房に入らず回れ右をして、近くの市場に向かった。そして消化に良さそうな料理をいくつか買い込んで、両腕で抱えて工房に戻る。


「ダスティンさん、開けてもらえますか?」


 今度はすぐにドアが開き、ダスティンさんは着替えたのかラフな室内着になっていた。部屋の中に入って、リビングのテーブルに買ってきたものを置く。


「これ、色々と買ってきました」

「ありがとう。これで足りるか?」


 ダスティンさんは料理に視線を向けてから、寝ぼけた表情で私の手首を掴むと手のひらに金貨を一枚置いた。


 ……金貨?


「ちょっ、ダスティンさん! 多すぎます! 全部で小銀貨二枚ぐらいですよ」


 慌てて金貨を返そうとすると、ダスティンさんは面倒そうな表情で私を見つめてから首を横に振った。


「……気にしなくて良い。買いに行ってくれた礼も込みだ」


 そう言ったダスティンさんは、椅子に座って食事を始めてしまう。私はそんなダスティンさんの様子に金貨を返すのは諦めて、しっかりとお財布に仕舞った。


「ありがとうございます。じゃあこのお金で、また美味しそうな料理をお土産として買ってきますね」


 そこでお金に関する話は終わり、私はリビングをぐるりと見回した。すると端にある台の上にメイカが載せられているのが目に入る。


「メイカ、置いておいてくださってありがとうございます。ロペス商会に三つ運ぶんですけど……大きな鞄とかってあるでしょうか?」

「工房にいくつかあるから使うと良い。布は工房のテーブルの上に置いてある」

「分かりました。布の方はロペス商会に行った帰りに持っていきますね。そっちは自宅に運ぶので」

「分かった。……揃いで仕立てると買った布はどうするのだ?」


 少し躊躇うように発されたダスティンさんの言葉に、私は思わずニヤニヤしてしまった。やっぱりダスティンさんもお揃いの服が楽しみだったんだね。


「ダスティンさんが贔屓の服飾店にでも頼みますか?」

「それで良いのか?」

「はい。デザインはプロに任せた方が良いでしょうし」

「分かった。では頼んでおこう」

「よろしくお願いします」


 それから私は大きな鞄にメイカを三つ入れて、肩にかけた鞄を両腕で抱えながら工房を後にした。


 ロペス商会の裏口から中に入ると、ちょうどジャックさんとニナさんが休憩時間だったようで、テーブルでお昼ご飯を食べている。


「お久しぶりです」


 そんな二人に声を掛けると、二人ともすぐに食事を中断して私の近くまで来てくれた。


「レーナちゃん、帰ってきたのね」

「早かったな」

「昨日の夜に帰ってきました。買い付けがスムーズに終わって、予定を前倒ししたんです。ジャックさん、ちょっとこれ持ってもらっても良い? 凄く重くて……」


 予想以上に重かったメイカ三つに腕が痺れていたので助けを求めると、ジャックさんは軽く鞄を持ち上げてくれた。


「おおっ、結構重いな」

「ありがとう。助かったよ」


 解放された両腕を軽く振ると、一気に血が巡るような感覚がある。


「何が入ってるんだ?」

「皆へのお土産だよ。メイカって果物なんだけど……知ってますか?」


 ニナさんとジャックさん、二人に問いかけるようにすると、二人とも首を横に振った。


「メイカ……聞いたことないわね」

「俺もだな」


 ジャックさんが鞄を置いてメイカを一つ取り出すと、ニナさんが興味深げに顔を近づけた。その口元には楽しそうな笑みが浮かんでいる。


「本当に見たこともないわ。質感は……ツルツルしていて気持ち良いわね」

「匂いはあんまりしないな」


 二人が知らないってことは、本当に王都には流通してないみたいだ。これは良いお土産になったかも。

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