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100、衝撃の事実

 私は二人の会話に割って入るように、御者席から飛び降りた。少し足がジンジンと痺れたけど、そんなことを気にしている場合じゃない。


「お二人とも何でそんなに強いんですか!? ダスティンさんは凄い突進を止めて、クレールさんは見たことがないような武器を使いこなして、さらにダスティンさんの魔法の威力と精度は信じられないほどに高くて。そ、それに――殿下って、呼んでませんでしたか?」


 緊張しつつ勢いのままにその質問をすると、ダスティンさんが「はぁ……」と大きく息を吐き出してクレールさんを睨んだ。


「確かに呼んでいたな。クレール、どうしてくれる?」

「……いや、あの……大変申し訳ございませんでした。焦ったらなぜか昔の呼び方が出てしまって……」


 クレールさんはかなり反省しているのか、珍しく顔を俯かせた。昔の呼び方って……


「ダスティンさんは、その……王子様、なんですか?」

「……その呼ばれ方は嫌だな。ただまあ、その通りだ。私の父は現国王だからな」


 私はダスティンさんが肯定したのを見て、何を言えば良いのか見当もつかなかった。口をはくはくと動かすけれど、声にならない。


 なんであんな場所で工房をやってるのか、他の人たちは知ってるのか、魔道具師っていうのは嘘なのか、色々と聞きたいことはあるけど…………何よりも。


「申し訳ありませんでした!」


 とにかく頭を下げた。だって王子様だなんて知らなかったんだ。今まで私がダスティンさんにしてきた所業の数々が思い浮かぶ。

 めちゃくちゃ不敬……だよね。明らかに不敬な態度だったと思う。


「なぜ謝る?」

「いや、あの……王子様であるダスティンさんに対して色々とわがままを言ったり、ご迷惑をかけたりしたので」


 私がチラッと顔を見上げながらそう伝えると、ダスティンさんは溜め息を吐いてから私の頭を少し乱暴に撫でた。


「気にしなくて良い。私に対しては今まで通りに接してくれ。今の私はただのダスティンだ」

「……良いのですか?」

「ああ、構わない」


 私はダスティンさんの表情を見て、これは本心から言ってるなと判断して頷いた。


「分かりました。ありがとうございます。……では遠慮なく聞きたいのですが、ダスティンさんはなぜ魔道具師をやっているのでしょうか?」

「ははっ、直球だな。……レーナ、この事実は絶対に秘密にしてほしい。守れるか?」

「もちろんです」


 ダスティンさんに真剣な表情で問いかけられ、私はしっかりと頷いて見せた。こんな重大事項、絶対に誰にも言えないよね。下手に誰かに話して私のせいでダスティンさんに不利益があったら嫌だし、何よりも私の身の安全を保障できなさそうだ。


「分かった。では話そう」

「ダスティン様、よろしいのですか?」

「良い。レーナのことは信頼している」


 私はダスティンさんのその言葉を聞いて、絶対にこの信頼を裏切らないと決意した。


「……かしこまりました。ダスティン様が決められたのでしたら、従います」

「クレール、ありがとう。レーナ、まず私は王子と言っても第二王子だ。それも正妃ではなく側妃の子なんだ。正妃と側妃という言葉は分かるか?」

「はい。ロペス商会で皆さんに教えていただきました。国王陛下には側妃が二人いらっしゃるとか」


 確か正妃に子供は二人いて、側妃にそれぞれ一人と三人、子供がいるんだったはずだ。


「合っている。私の母は第二妃でな、正妃に男児が産まれてから私は作られた。正妃の子が第一王子で私は側妃の子で第二王子。どちらが王位を継ぐかは明白で、私が十二歳になる頃まで問題はなかった。しかしレーナも知っていると思うが、私には魔法の才があったんだ。兄上はとても優秀な方なんだが、魔法の才にだけは恵まれなかった。そこで正妃は、私が王位の座を奪っていくかもしれないと思ったのだろう。私に対して当たりが強くなり、いつしか暗殺者まで送ってくるようになった」


 うわぁ……本当にそういうことってあるんだ。物語の世界の話を聞いてるみたいだ。王宮って怖い。


「最初こそ正妃に対して、私は王位を継ぐ意思はないと理解してもらうための努力を尽くした。しかしあの人は少し感情の揺れが激しいところがあってな、受け入れてもらえなかった。そこで王宮にいるのが嫌になった私は、離宮に引きこもっている魔道具にしか興味がない第二王子になったんだ。ただ引きこもり生活は半年が限界で、たびたび隠れて市井に降りるようになり、今では何年も王宮には帰っていない」


 ダスティンさんはそこで言葉を切ると、「まあよくある話だ」と締め括った。


「大変ですね……あの、聞いても良いのか分かりませんが、陛下は何をしているのでしょうか」


 どうしてもその部分が気になって思わず聞いてしまうと、ダスティンさんは虚を突かれた表情をしてから、微苦笑を浮かべて口を開く。


「そこを聞いてくるのはさすがだな」

「すみません。さすがに不敬でしょうか……?」

「ここには私たちしかいないから問題はない。ただ王家への批判は口にしないほうが賢明だな」

「分かりました」


 私がすぐに頷くと、ダスティンさんは少しだけ口端を上げた。そして顎に手を当てて考え込むような仕草をしてから、ゆっくりと口を開く。

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