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10、初めて見る騎士

 森での採取を終えた私達は、採取したものを家に置いて皆で外門に向かった。家に帰った時にちょうどエミリーと会ったので、エミリーも一緒だ。


「私、外門って初めて見に行くよ!」

「私もだよ。ちょっと興味ない?」

「うん。今までは意識もしてなかったけど、言われてみればこの大きな壁にある門なんて気になるかも」


 私とエミリーがそんな会話をしていると、お兄ちゃんとハイノ、フィルも楽しみなのか頷いて同意を示してくれた。スラム街で暮らしてると日々生きていくのに精一杯で娯楽って考えがないけど、やっぱり未知のものを見に行くのはドキドキするよね。


「外門ってどのぐらい遠いの?」

「家から森に行くのと同じぐらいらしいぞ」

「ならもう少しだな」

「なんか俺たちが住んでるとこより人が多くなって来たな!」


 フィルのその言葉に辺りを見回すと、確かに家の密集度合いが上がって来ている気がする。やっぱり外門の近くの方が人がたくさんいるのかな。


「あっ、もしかしてあれじゃない?」


 エミリーが指差した方向に視線を向けると、いつも見ている外壁にいつもと違う部分があるのが見えた。


「うわっ、思ってた何倍もでかいな。あれって……全部鉄で出来てるのか?」

「マジかよ。何個フライパンが作れるんだ?」


 お兄ちゃんとハイノはそんな感想をまず抱いたらしい。私はなんでフライパンと思わず吹き出しそうになりながらも、確かにフライパンが何百個も作れそうだなと思ってしまう辺り、スラム街に染まっている。


 門の正面に伸びている街道から門の全容を見てみると、一番目立つ大きな門の他に、普通に人が通れるサイズの小さな門が二つあるみたいだ。この大きな門は基本的に開くことはなくて、あの小さな門が日常では使われてるんだろう。


「街の中ってどうなってるんだろう」

「俺達は入れないんだよな?」

「……私、ちょっと聞きに行ってくる!」


 せっかくここまで来たんだから何も聞かずに帰るのは勿体ないと思って、二つある門のうち豪華じゃない方に向かってみた。すると門の中には……兵士みたいな格好をした人達が立っていた。スラム街では絶対に手に入らない金属の槍を手に持っている。


「市民権を、なければ銀貨一枚をお支払いください」


 私が顔を出すと怖い顔の兵士にそう声をかけられた。市民権がなくてもお金があれば入れるのか……でも銀貨一枚って、めちゃくちゃ高い。この前市場で買った布団が小銀貨二枚とかだ。その五倍もするなんて……


「あの、銀貨一枚払ったら、何度も街を出入り……できます、か?」


 辛うじてなんとか知っていた丁寧語で話しかけてみると、兵士は嫌な顔をしながらも答えてくれた。


「いえ、毎回銀貨一枚が必要です」

「そうなんだ……」

「嬢ちゃん、スラムの子だろう? 残酷だけどスラムの子は街中に入ることはできないんだ」


 隣にいた人当たりの良さそうな兵士がそう教えてくれる。うん、そうだよね……知ってた。でも無理だってことを知ることも、一歩前進だよね。


「教えてくれてありがとう」

「良いってことよ」

「次の人が来たから退いてくれ。――市民権をお持ちですか?」

「はい。持ってます」

「ありがとうございます。――確認できましたので通って構いませんよ」


 私が門から退くと、スラム街の市場でお店を出しているのだろう男性が、兵士とやりとりをして門の中に入っていった。ここで会話を聞いてたら敬語を学べるな……今の少しのやり取りだけでも勉強になった。


 でも私は歓迎されてないみたいだし、ここにはいられないかな。


「レーナ、突然行くなよ!」

「もう、驚いただろ?」


 私が門から少しだけ距離を取ったところで、お兄ちゃん達が駆け寄って来てくれた。かなり心配をかけたみたいだ。


「ごめんね。本当に入れないのか聞いておきたくて」

「もう、驚くからやめてくれ。それで……入れるって?」

「市民権がないとダメで、ない人は銀貨一枚払えば入れるって」

「ぎ、銀貨一枚!?」


 金額にまず反応したのはエミリーだ。銅貨三枚のミリテがたまの贅沢なのに、銀貨一枚なんてあり得ないほどの金額だよね……


「そんなに大金が必要なのかよ」

「そうみたい。だから私達は入れないね」

「レーナ……元気出せよ。街の中に入れなくたって、楽しいことはたくさんあるぞ!」


 フィルはそう言って私を励まそうとしてくれる。フィル、意外と良いところあるじゃん。


「ありがと。皆、付き合わせてごめんね」

「ううん。外門を見れて楽しかったよ」

「そうだな。こんなに大きいなんて予想外だったし」


 私達はそうして皆で笑い合って、じゃあ夜ご飯になるし帰ろうか。そう話をして外門から離れようと歩き出した。

 門の入り口は街道を渡った先にあったので、また街道の上を歩いて私達の家がある区画に戻ろうとすると……その瞬間に、外門に付いている大きな鐘が激しく打ち鳴らされた。


「え、なんだ、何かあったのか?」

「なんか……怖いね」


 私達が街道上で困惑していると、さっきの兵士が私達の方に走り寄って来て強く手を引かれる。


「お前達、早く街道から傍に逸れろ! 騎士が来るぞ!」

「……騎士って、何ですか?」

「国に雇われた偉い方達だ。とてもお強いんだぞ。貴族様もいる」


 兵士からそんな話を聞きながら私達が街道のそばに寄っていると、開かないと思っていた大きな門がゴゴゴ……と腹に響く音を立てて開いた。

 開いた門から見えた街の中は……スラム街とは違って、とても整っていた。そんな街中の門前広場みたいなところにいたのは、たくさんの鎧を纏った騎士達だ。騎士達は二足で立つ恐竜みたいな動物に乗っている。


「あの動物は?」

「ノークだ。乗りこなすにはかなりの鍛錬が必要だと言われてる。この数の騎士が一斉に出立するってことは、ゲートが現れたんだな」

「ゲート? ってなんですか?」


 兵士の話は知らないことばかりで気になることが多すぎて、私はおうむ返しのように兵士に質問をした。すると意外にも優しい兵士は答えを返してくれる。


「突然森の中や草原に出現して、魔物を排出するんだ。ゲートの向こうには魔界が広がっているって言われてる」

「マモノ……って例えばどういう?」

「この世界にいる獣とは違う。魔力を持った殺傷能力の高い動物だ。火を吹いたり土を操ったりするやつもいる」


 魔物ってことか……そんな存在がいる世界だったなんて驚きだ。ファンタジーな世界だと思ってたけど、私が思ってるよりももっとファンタジーなことがこの世界にはあるのかもしれない。


「行くぞっ、俺に続け!」

「はっ!」


 先頭にいる騎士が声をかけると、後続の騎士達は全員が一斉に声を上げた。そしてノークと呼ばれた動物が一斉に駆け出して、街道の先へと凄い速度で走り去っていく。


「凄いな……」


 そう呟いたのはお兄ちゃんだ。他の皆もポカンと口を開けたまま、走り去った騎士達を見つめている。


「お前達、もう行って良いぞ」


 兵士にそう声を掛けられて私達は解放されたけど、皆はしばらく呆然と街道を見つめていて動き出すことはなかった。そのせいで夜ご飯に遅れたのは……まあ、仕方がないよね。騎士達の出立には私もかなり興奮した。


 やっぱりスラムからは抜け出したい。そしてこの世界のことをもっと知りたい。その気持ちがより強くなって、私はこれから頑張ろうと改めて決意を固めた。

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