始まりは森の中
異世界から異世界に転生した元無能と呼ばれた青年の無敵旅が始まるよ!
なるべく主人公に関してはストレスフリーの物語を目指す予定ですので応援よろしくお願いいたします。
その日、俺はどことも知れない森の中で目が覚めた。
しかも全裸でである。
「えっ……ここどこ? それに服は?」
辺りを見回す。
しかし薄暗い森の中、湿った地面にには拭くらしき物は無い。
幸い暑くも寒くもない季節らしく、風邪を引くことは無さそうなのが救いだ。
だがそれはそれとして俺はいったいなぜこんな所で裸で眠っていたのか。
「えっと……たしか昨日は……うっ……」
一瞬頭に浮んだのは激しい炎。
そしてその炎に包まれた村の姿。
「何が……あったんだ……」
炎に映るのは無数の魔物の影。
「そうだ……俺が住んでいた村が魔物暴走に巻き込まれて……ぐうっ」
その後の記憶が曖昧だが、確かに俺の住んでいた村は燃え、滅んだ。
それだけは覚えている。
そしてそれは珍しくもない出来事であることも。
「父さんがいれば守れただろうか……」
俺の父は村一番――いや、国一番の戦士だった。
どんな戦場でも、どんな強力な魔物との戦いでも生き残り帰ってきた。
人々からは『無敵の男』とまで称されるほどの。
だけどそんな父だからこそ村に帰ってきている期間は短かった。
だから俺はそんな父とはほとんど話したことも無かったけれど。
そんな父が病でぽっくり逝くとは誰も思わなかった。
「そういや『無敵の男』の息子なのに『無能な男』ってよく言われてたっけ」
父と違い俺には何の才能も無かった。
父を目指して体を鍛え、剣術を習った時期もある。
だけどその全てに俺は才能が一欠片も無かったのである。
結果、俺は普通のどこにでもいる村男でしかなかった。
『無敵の男』の息子でさえなければ何の問題もなかったのに。
普通に畑を耕し、近いうちに村の娘を嫁に貰い生きていく。
そんな平凡な日々を送る平凡な男で良かったのに。
誰もが『無敵の男』の影を俺に見るのが辛かった。
しかしそんな村は俺の記憶が確かならあの時確かに滅んだはずだ。
「……はずなのに」
俺はもう一度辺りを見す。
鬱蒼とした森の中、どこからともなく魔物や鳥の声が聞こえる。
だがどう見ても俺が生まれ育った村の近くではない。
針葉樹が主体だった村の近くと違い、この森の木々は広葉樹だし、周りに生えている植物のどれにも見覚えがない。
山菜採りによく山へ出かけていた俺にとって未知のものばかりという時点でどこか遠く離れた場所だというのがわかる。
「たしかあの時俺は突然飛び込んで来た猫を抱きかかえて逃げて……でも逃げ切れずに」
何かが自分の胸を貫いた痛みを思い出し、俺は胸を強く押さえた。
だがそこには傷一つ無くて。
『あー、やっと目が覚めたですかぁ』
「うぇぁっ」
とつぜん脳内に響き渡った少女の気の抜けたような甲高い声に、思わず声を上げてしまった。
「なんだ! 誰がっ! どこからっ?」
上下左右。
頭をぐるぐる回して声の主を探すがどこにも見当たらない。
『どこを見ているです?』
「どこって……って、頭の中?」
もしかして俺は狂って仕舞ったのだろうか。
自分の頭の中から声がするなんて。
『失敬な。わたしは貴方の頭に直接話しかけてるだけで、貴方の頭がおかしくなったわけでも幻聴でもないですよぉ』
「じゃ、じゃああんたは何者なんだよっ!」
俺は頭の中から伝わる声にどう返答して良いのかわからずに叫ぶ。
『そうですねぇ。私は貴方からすると異世界の女神といった所ですかねぇ』
「女神っていうより子供みたいな――」
『黙らっしゃいぃ! そりゃ神としては最年少でよく他の神々から若造呼ばわりされますけどぉ、これでも貴方よりは何千倍も長く生きてるんですからねぇ』
「は、はぁ」
『それよりもです。生まれ変わって転生した気分はどうですかぁ?』
なんだか妙なノリの自称女神様に戸惑っていると、彼女は突然そんなことを言い出した。
生まれ変わった?
俺が?
『もしかして忘れちゃってますぅ?』
「ちょっと待って。何か思い出せそうな……なさそうな……」
『うーん、転生させた時にちょっと失敗しちゃったのかも。記憶の一部が欠けちゃってるのかなぁ』
怖いことを言い出した。
『でもそれ以外はきちんとアナタの希望通りの体にはしてあげたはずだよぉ』
希望通りって言われても俺はいったい何を希望したのだろうか。
そのことを聞いてみると。
『それも忘れちゃったんだぁ。あなたが望んだのはねぇ、無敵よぉ』
「無敵?」
『うん。生まれ変わるに当たって何か希望はあるぅ? って聞いたら、無敵になりたいって言うからぁ』
そんな小学生でも言わない様なことを俺は女神様に頼んだのか。
いや、まてよ。
もしかして。
「その時の俺ってどんな感じでしたか?」
俺は少し思い当たる節があった。
なのでその時の状況を詳しく聞くと。
『死んだばかりだったからかなぁ。何かうわごとみたいに【俺は父さんみたいに無敵になりたかった……無敵に……】とか言ってたよぉ』
やっぱりだ。
しかし、そんな言葉が自然に出てしまうとは。
自分が思っていた以上にに父親コンプレックスが酷かったのだろうか。
『だからてっきり【無敵】になりたいんだなぁって思って、その体を作る時にずっと【無敵になぁれ、無敵になぁれ】って言いながら作ってあげたんだよぉ』
そんな適当な方法で無敵になれるなら誰も苦労はしない。
『あれぇ? 疑ってますねぇ?』
「いや、だって信じろって方が無理があるでしょ」
『だったら試してみればいいんじゃないですかぁ。きちんと心も体も無敵になってるはずですよぉ』
「試すって言われても、どうすれば」
『底に落ちてる尖った石で自分の胸を刺してみるとかですかねぇ』
「そんな趣味はないよっ!」
とはいえ自分が無敵になっているかどうか調べるにはそれが一番簡単ではある。
だが俺に自傷行為をする気は無い。
『あっ』
「どうした?」
『そろそろ下界との通信が限界っぽい』
「えっ、限界って。ちょっ――俺、まだ無敵ってこと以外何も聞いてな――」
突然のことに俺は女神様との会話を続けようと声を上げる。
しかし。
プチンッ。
頭の中で何か細い糸が切れたような感覚がして。
自称女神様との通信は唐突に途絶えてしまったのだった。
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