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桜の木の下には××が埋まっている  作者: いぷしろんっ
2/5

2話

ギリギリ投稿ラッシュ

 「う、ぅ」


 「痛いと思うけど、大事なことなんだ。早く答えて」


 木ノ内さんは相当痛かったのか、さっきから唸ってばかりだ。日にち確認しようと思ってたんだけど、よく考えたら僕の部屋にはカレンダーなかった。しばらく住んでないだけで随分忘れるもんだな。


 もしここで木ノ内さんが虚偽の日時を言えば、彼女が僕をだまそうとしているか、それか、彼女も僕と一緒に眠るか監禁されるかして日にちが分からない状態にいたかのどちらかだ。前者の嘘は僕のスマホを見れば看過される雑なものなのでまぁないと思うけど。


 「6月、7日」


 僕の最後の記憶は、4月12日だ。随分違う。桜の下で眠るのはどんなに重症でもせいぜい3日程度なので、これほどの誤差は怪我か何かの後遺症だ。もしこれが本当なら、僕は頭部に何らかの外傷を受けたことが原因で眠っていたのかもしれない。


 「そっか。乱暴なことしてごめんね」


 「う、うん。いいよ」


 僕が解放すると、彼女は起き上がってほっとした様子だ。特に怯えた様子も見せずにきょろきょろと部屋を見渡している。僕の部屋はクローゼットと勉強机、本棚と収納付きベットが主な家具の典型的な高校生の部屋でしかない。壁に飾ってる好きなバンドのTシャツやポスターがちょっとマイナーで珍しいのかな。桜をモチーフにした曲が多くてお気に入りなのだ。


 「なんか気になることある」


 早く状況を整理した方がいいのかもしれないけど、焦っていることを悟らせるのも良くないし、部屋を見せると約束しているので、押し倒してハイ終了はいただけないだろう。


 「え、と。結構きれいだね」


 「まぁ、掃除しないと怒られるし」


 嘘だ。最近祖父母宅で過ごしているので使っていないからぱっと見奇麗なだけだ。部屋の隅に埃たまっているし。不審人物とは言え、人生で初めて女子が部屋にいるのだ。しかもこんなに美人な。改めて彼女をみると、肌は白いし、眼もやや垂れ眼気味なのが可愛い。口も小さくて、男の俺とは違って手入れしているのかツヤツヤしている。髪も長過ぎず短過ぎずで個人的に好みドンピシャだ。うん、やっぱかわいい。


 「そんなにみられると照れるよ」


 「あ、ごめん」


 バレた。けど顔を凝視していないと本当に見てはいけないところに視線が行きそうなのだ。セーラー服の上からでもわかる、かなりの重量を誇りそうな胸に。


 「ふふ、照れくさいね」


 「そうだね」


 彼女は特に何かするわけでもなく、先ほどと同じ言葉を繰り返した。彼女は照れてるのか、何を言っていいか分からないようだった。恋人みたいな雰囲気になってるのが、なんか気まずい。


 「まぁ、僕の部屋とか女の子が楽しいものはないし、早くスマホ取りに行こう。そんでお茶でも飲んでから家に送るよ」


 「え、それは、えっと…………困る」


 「何で」


 「え」


 「僕、スマホに連絡着てないか心配だし、まだ日は落ちてないけどこれ以上遅かったら親御さん心配するでしょ。女の子一人で返すのも心配だから送るって」


 彼女が口ごもる。部屋に行きたいといったのは時間稼ぎのためか? それか、本当は婆ちゃんの部屋にスマホはないからそこに行かれると困るとか。それならまずい。もしそうなら、祖母の部屋が二部屋あって、内片方が鍵付きという僕の家の詳細情報がばれてしまっている。そうなると、僕の家の間取りを探索して把握されてしまっているかもしれない。桜の情報も流出しているかもしれない。


 「ほら、わ、たし……お父さんと、仲悪いでしょ……」


 木ノ内さんが知ってるでしょ、みたいな口調で話してきた。


 「はい? 」


 「実は、家に帰らないでネカフェでいることもよくあるから、一日くらい帰らなくても警察とかは呼ばれないと思うの」


 木ノ内さんは俯いてしまった。どうしよう、まさか本当に時間過ぎちゃってる? しかも、その間僕と木ノ内さんの間になんかあった?


 「着替えとか、学校とかどうするの」


 ゆっくり考える時間が欲しくて、遠回しに帰らないかと提案する。いや情報流出の可能性的に帰られたら困るな。混乱してる。


 「明日は土曜日だよ」


 「そうなの」


 どうしようか。家出に協力してほしいということなのか? 木ノ内さんの家庭事情とか聞いたことがないから、これが本当か分からない。押し黙っているがこの雰囲気では多分、彼女は意地でも帰ろうとしないだろう。


 「じゃあ、単刀直入に聞くし言うけど、僕、4月の初めくらいから記憶ないんだ。僕と木ノ内さんの間で何があったのか、そもそもなんで僕が倒れたのか教えてもらっていいかな。正直、木ノ内さんの事疑ってるから全部は信じないんだけど」


 「うそ、そんなに覚えてないの……? 」


 彼女が驚愕で目を見開いている。


 「覚えてないの? 」


 「うん、覚えてな、えっ! ちょっ! 」


 「う、うぇ、うわぁぁっぁぁぁぁん!! 」


 「木ノ内さん、どうしたの、おちつ、ちょ、ええ」


 彼女は火が付いたように泣き出した。泣き方が尋常じゃない。映画とかで見る奇麗なものじゃない、スーパーとかで欲しいものが買ってもらえず全力で駄々を捏ねる子供くらいの勢いだ。何とか泣き止んでもらおうと肩を掴んで揺さぶってみても、僕が覚えていない、という事実がよほどショックだったのか全く泣き止まない。


 「うわああああああああああああああ」


 ほぼ発狂してるなコレは。可愛い顔が涙と涎と鼻水でドロドロだ。僕は正直、もうどうしたらいいか分からない。もしかしたら僕がスマホを取りに行くのを阻止するためのウソ泣き、とも考えられなくもないけど、如何せん演技でこれほど泣けるのか。これほど恥も外聞も捨てられるのか。


 「えっぐ、ぅええええええ」


 この様子では尋問もできない。完全に座り込んでいるから連れて歩くこともできない。その上、この部屋には鍵がないから閉じ込めておくことも難しい。この様子じゃ泣き止ませて連れて行こうとすると日が暮れそうなので、僕は一人でスマホを取りに行かないといけない。


 「ね、木ノ内さん、ごめんって。頑張って思い出すからさ、ね? 泣き止んでー」


 「うえっ、ひっ、ぐ、うぇえええええええ、ひっく」


 嗚咽もひどく、顔が赤い。見たところかなりのパニックだから、下手に縛り上げてしまうとその刺激で過呼吸を起こしそうだ。僕がスマホを取りに行く間にそれで死にかねない。案外人間は簡単に発狂死するんだから。


 「木ノ内さんっ、絶対、絶対、絶対、部屋から出ないでねっ!! 」


 僕はダッシュでスマホを取りに行くことにした。まず両親の部屋に行き、収納スペースを開く。そして、その中の衣装箪笥の真ん中の引き出しの中身を取る。この引き出しは二段底になっているので、一つ目の底を取り出せば、隠し収納の中身を取り出せる。その中身こそ、各家屋の予備鍵入りの金庫なのだ。八桁の数字を入力すれば開く。そこから祖母の部屋の鍵と、屋根裏の鍵を取り出して、前と同じになるように片付ける。


 「よいっしょお!! 」


 僕は屋根の上を走って、屋根裏から第四の祖母の部屋に行くことにした。屋根裏は外から鍵があれば入ることができる身体能力高い人向けの玄関があるし、それを使おう。普段なら第三、第二から第四家屋への渡り廊下の扉は鍵が閉まっている。しかもその鍵は特殊で、外からしか閉められない。実は大事な資料は第四に多くて、下手に僕が鍵を開けっぱなして木ノ内さんに侵入されるとまずいし。


 「けほ、埃くさっ」


 また掃除しないといけない。第四の屋根裏は普段使いしないから汚い。急いでそこから下に降りる。階段を下りて、そこから仏間を通り過ぎると祖母の部屋その二に着く。


 「よし開いた!! 」


 祖母の部屋はちゃんと鍵が閉まっていた。そこに少し安心する。少し部屋を見渡せば、鏡台に僕のスマホが充電器に繋がれた状態で置いてあったのを見つけた。


 「六月七日、午後2時半、あってた」


 あってたのはいいんだけど、何で記憶喪失してるの。桜の回復の副作用に記憶喪失なかったはずなんだけど。


 「僕、もしかして推理しないといけないの」


 桜守りの腕は父親似、推理の腕も父親似。僕は親戚皆に言われている。父さんは推理ドラマも探偵系アニメもうんうん唸って考えて、ドヤ顔自身で推理を披露しときながら犯人をまともに当てられたことが一回もない。当たったとしたら、本当に分からなくて推理もなく勘で答えた時くらいだ。実際の事件とは違うからと父親は毎回言い訳している。つまり、僕は今最高に向いてないことを強いられている。最悪だ。


 「うっそぉ」


 僕、不安定な怪しいクラスメイトの様子をうかがいながら推理とか、絶対無理なんだけど……。木ノ内さんを放置するのは怖いな。


 「秒で推理するしかないな」


 僕は結構な無理をすることにした。祖父母にメールしよう。そして、木ノ内さんの発狂が長時間続くことを祈ろう。


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