ご馳走様でした
少年の両親が殺された。
幼く自分の力だけで食事を手に入れる事を教わる事なく館に置き去りにされた少年は食糧を得る為に街に向かう。
しかし空腹に耐えて来た少年の歩みは遅く街に辿り着く頃には陽が落ち夜を迎えようとしていた。
門番は今にも倒れそうな少年に同情をしながらも職務を全うする為に声を掛けた。
「止まれ! 通行証を出せ!」
門番は恐らく自分が追い返せば目の前の少年は野垂れ死ぬ事になると思いながらも職務を逸脱してしまえば家族共々路頭に迷う事になる恐怖に勝つ事はできない。
頼むから目の前から消えてくれと一心に願いながら鋭い口調で少年を威嚇する。
しかし門番の予想に反して少年は懐から通行証を取り出した。
少年は声にならぬ声と共に通行証を門番に見えるように掲げる。
門番は安堵したが未だ職務が残っている。
この通行証が盗まれた物であるか確認しなければならない。
通行証に書かれている番号を書き写し少年に告げる。
「番号を確認してくる。もし盗品ならお前を捕縛しなければならない」
門番は逃げるなら今のうちに逃げてくれと願う。
門番は恐らく自分の子供と大差ない歳の子供が親に捨てられ死にそうになっていると言う事に居た堪れなくなっていた。
門番が記録を確認している間に少年は逃げ出さない。
門番は番号が無い事を願いそして叶えられた。
他者の死の恐怖から解放された門番は安堵し少年を街に迎え入れられる事に脱力してしまった。
「通っていいぞ」
門番の声に少年はゆっくりとした動作で歩き始める。
「坊主そういや何でこの街に来たんだ?」
先月まで物騒でおっかない場所であった街にわざわざ訪れる旅人は少ない。
だがそれも解決し街は連日お祭り騒ぎとなっている。
少年がもし無一文でも腹一杯食わせてやる宿屋もあるかもしれない。
しかしそれはまだ広まっていない情報だろう。
「……この街には食糧があるから……困った時に……ここに行きなさいと……両親から……」
もはや死の間際だと思える少年の姿に門番は涙が溢れる。
だが門番は安堵した。
これでこの少年は救われるのだと。
「街はお祭り騒ぎだ。無一文だと堂々と伝えて誰かから恵んで貰え! 絶対に食い逃げしようとするな! この街にはお前を救う奴が必ずいるからな!」
少年は門番の言葉に軽く礼をして街に入って行く。
◆
僕は夜間なのに食糧が沢山並んでいる光景に安堵した。
僕は門番が言っていた様に救われたのだと錯覚した。
しかしいざ食糧を得ようと行動に移すと恐怖を感じてしまう。
僕は生きている食糧を見た事が無かったからだ。
大柄で抵抗しそうな奴を避けながら獲物を見定める為に街を徘徊する。
しかし途中で食糧が沢山いると難しい事に気が付いた僕は小さな道を選んで歩いていく。
「坊や今夜休む所はあるのかい? よかったらうちに来るかい?」
人が良さそうで派手な衣装を身に纏う食糧が話しかけてくる。
僕の両親を殺した奴らの住む場所で休む事など無理だ。
今もいつ殺されるかわからない恐怖とそれでも食わねば死ぬ事を僕は天秤にかけ続けている。
周りを見る。
誰もいない。
やるなら今だ。
僕は牙を剥き出しにして食糧の喉に噛み付く。
昔父親が教えてくれた方法をぶっつけ本番で試したのだ。
僕には何故この方法いいのかはわからない。
食糧が生きる事を諦めずに暴れるが逃げなくなるまで抑え続けなければならない。
実にひと月振りの食事である。
建物の壁に食糧が飛び散り勿体ないと感じながらも溢れ出る液体を必死に飲み続ける。
頭に栄養が行き渡り視界が明瞭になる。
やがて抵抗する事を諦め動かなくなった食糧を前にして腹一杯となった僕は満足気な顔をしながら手を合わて感謝を伝える言葉を言う。
「ご馳走様でした」
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