プロローグ②
あれから、寝る間も惜しんで毎日ログインを続けている。
すぐにバイトの奴らに追いついたのは良いんだが、
「課金とかずるい」
「課金厨かよ」
あいつ以外のバイトからは白い目で見られてしまった。
俺からしたら、ゴールデンタイムにプレイしてるみんなのがずるいんだけどな…。
「まぁ店長しょうがないっす。あいつら完全無課金なんで、レベル上げもドロップもかなりきついんすよ。」
「そんなになのか?」
俺は、ほぼ最初から課金してスタートだったし、あれからも新しい課金要素があったら、全て課金して、
手に入れられるものは全て手に入れてきた。
無課金だったのは、最初の頃、こいつにあっちこっち連れて行ってもらってた時だ。
「まぁ僕は、ちょっとだけ課金してるんで、あんまりわかんないですけど。」
結局、こいつとちょろちょろやってはいたが、こいつも学校を卒業すると同時に、
アルバイトをやめて、就職していった。
最初こそ、ログインが被ったときなんかに一緒にプレイしていたが、
段々と見かけなくなり、今では【最終ログイン3ヶ月以上】なんて、表示が出てる。
まぁそうだよな。
気づけば、俺はほとんどソロでプレイするようになった。
たまに野良パーティに混ざったりもするが、ほとんど会話もなく、淡々とレベル上げをして適当に解散する。
だから、どのマップでもソロで戦えるように、装備を強化し、PSをひたすらに磨いていた。
そうして、俺は気づけば有名な課金厨の廃人と呼ばれていた。
課金額だけを見れば、全然上には上がいる。
ニートでもないので、24時間ログインなんてこともしていない。
だが、【深夜に現れるあいつ】といえば、誰もが俺のことだと分かるくらいには有名になった。
それもそのはず。
いつも一人で、どのクランにも所属していない。
いつも、最新のガチャ産の装備を持っているのに、ゲーム内での取引所には一切顔を出さない。
いや、正確には売ることはあっても、買いに来ることがない。
だが、それ以上に一番有名になった理由といえばあれだろう。
このゲームには、いろんなマップにボスが存在する。
基本的に、体力や攻撃力等がとても高く設定されており、パーティでの討伐用に作られている。
だが、そんなボスをいつも一人で攻略していたのが俺だ。
深夜には人がいないからね…。
最初の頃は、よく死んでリスポーンしていたが、最近は正直どのボスでも1人で倒せるようになりつつある。
レベルもカンストし、ステータスも今できる限りのところまで上げ切っている。
もちろん、それでも本来なら1人でボスの攻撃を耐えきることは無理だし、一人でボスの体力を削り切るなんて不可能だろう。
だが、俺には課金の力があった。
そして、ひたすらに磨いたPSもある。
何度も挑戦し、何度も死んだ。
死なないだけなら、装備でどうにでもなる。
倒すだけの火力を出すだけならどうにでもなる。
だが、それを両立するのはかなり難しい。
そもそも、このゲームでは細かく職業が分かれているが、
役割という面で見ると大きく、4つだ。
敵の攻撃を一手に引き受ける【タンク】
ひたすらに攻撃をしてダメージディーラーになる【近接アタッカー】
遠距離から攻撃と支援を行う【遠距離アタッカー】
タンクが耐えきれるように回復に専念する【ヒーラー】だ。
そして、どの職業にでも転職はできるが、ステータス次第で、向いている職業は決まっている。
タンクならVIT(体力)AGI(俊敏性)を上げて、避けることができる攻撃はよけて、それ以外は受け止めて耐えるステ振りだ。
ヒーラーなら、INT(魔力)とVITで、自身が死なないよう耐えつつ、回復力を上げる。
アタッカーは、職業にもよるが、近接なら基本的にSTR(筋力)、遠距離ならDEX(器用さ)や、ウィザード系ならINTというわけだ。
そのうえで、残りをどう振るかで役割だったり、メインにする職業を決めていくわけだ。
こういう傾向にある以上、基本的に長くプレイしているやつであれば、基本的に尖ったステ振りになる。
クランのメンバーや、いつも一緒にプレイしているフレンドと、ステータスをカバーしあうので、
どこかにとがらせることができる。
だが、俺はソロだ。
自分一人にしか、相手の攻撃は向かない。
自分一人で、HPを削り切らなければいけない。
自分一人で、回復もこなさないといけない。
そうなると、セオリー通りのステ振りではいけない。
何度も、試行錯誤し、今は基本このステータスからいじることはなくなった。
ステータス変えるのも課金アイテムが必要だしね。
そして、装備もタンク用アタッカー用をごちゃまぜで、最適になるように工夫した。
そうして、たった今、俺はこのゲームのすべてのボスを一人で倒しきることに成功した。
達成感…いや、違うな。
何故だろう、俺は悲しい気持ちになった。
もう、このゲームでやることはないのか。
オンラインゲームに終わりはないというが、このゲームはそもそも新しい方ではない。
かなり古い部類に入るのだろう。
その証拠に、現時点で一応ゲーム内に設定されているシナリオは完結となっている。
ここ最近も、過去のイベントボスの復活や、定期のイベントくらいしか更新されず、
目新しいことは何も起きていない。
「はぁ…。むなしい…。」
言っても、始めて1年とちょっとだ。
それでクリアになってしまうゲームだ。
最近は、過疎化も進んでいるようだし。
ちょうどよかったのかな…。
だが、突然事態は急転した。
◆システムメッセージ:転生しますか?◆
ん?
こんな仕様あったっけか?
◆システムメッセージ:転生しますか?◆
確かに、このゲーム内ですでに4度転生している。
それは、公式で発表されている最後の転生だ。
どちらかというと、強くてニューゲームだな。
ステータスの一部を引き継いで、スキルやアイテムはそのまま。
一度レベルだけが下がるが、ステータスの上昇量と、振り分けられるポイントとかがかなり上昇し、
新しいスキルが覚えられるようになったり、そもそもレベルの上限も引き上げられる。
転生を繰り返すたびに、必要経験値も少なくなるため、いうほど大変な作業じゃなかった。
ただ、さっきも言った通り、公式に発表されている転生システムは4度目で終わりだ。
かなり前に実装されてから、5度目の転生の話は全く出ていないという。
それが、今?そんなわけがない。
ステータスが上昇するアップデートの時には、基本的にそれを前提とした、新フィールドが出現する。
そして、もちろん新しいボスも配置される。
そうなると、かなりのボリュームになる。
それを、メンテナンスにも入らず突然導入することなんて、できるわけがない。
「…どういうことなんだ?」
だが、このメッセージを見ていなければ、きっとここでこのゲームはやめていただろう。
なら、とりあえず…と、思ったがそこで気づいた。
「転生するか聞いたくせに、選択肢とかでないのか?」
今、俺のチャット画面には、近くでワールドチャットで騒いでいる奴と、先ほどのシステムメッセージしか表示されていない。
普通、こういう選択しなければいけない場合、別枠でウィンドウが開かれるはずだが、今回はチャット機能が
それも、今気づいたが、自分宛の個人チャットだ。
「ここで、返信でもすればいいのか?」
とりあえず、試してみる。
「えーっと…『転生します』…これで、いいのかな?」
…何も、起こらない。
◆システムメッセージ:転生しますか?◆
なんだよ!鬱陶しいな!これあれか?システムメッセージって名前の奴が、いたずらしてるだけなのか??
◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆システムメッセージ:転生しますか?◆
プチっ!!!!
「転生するって言ってんだろ!!!!!!」
----それでは、転生を開始します----
ん?は?
それは確かに言った。
はっきりと聞こえた。
そう…。
聞こえたのだ…。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次からは、いよいよ本編となります。