プロローグ①
初めまして、具沢山の闇鍋と申します。
初投稿となります。
温かい目で見ていただけると幸いです。
ポチポチ…
ポチポチ……
ポチポチ………
いや、正確にはポチポチなんて音はしないんだが…。
自分以外、誰もいないこの部屋でこの男【西山 大介】が何をしているのか…。
世間では、やれVRだなんだと騒いでいるが、そういう新しいものはあまり好きじゃない。
いや、正確にはやる時間もないし、そんな金がないからできないというか。
かといって、お金に不自由しているわけではない。
有名なブラックのチェーン店で店長をしているだけあって、
身体も心もボロボロだが、お給料だけは無駄にいいのだ。
じゃあ何故…?とか、別に思うやつもいないだろうが…。
俺は、所謂スマホアプリってやつにはまっている。
昔は、そういうのも好きじゃなかった。
「そんなんやってる暇があるなら、働け!」と、
人員不足の原因になる、そのスマホアプリが憎くてしょうがなかった。
だがある日
「じゃあ店長も一緒にやりましょうよ。手伝うので!」
と、別にやることもなかった俺は、バイトの進めるがまま、
そのアプリをダウンロードしてみる。
んー…何々…
【エリース オンライン】??
「これ、オンラインでリアルタイムに友達と遊べるゲームなんですよ。」
「一緒に集まってやるとかじゃないのか?」
「んーそういう時もありますけど、基本的にはみんな別の場所からログインして、ゲームの中で落ち合うって感じっすね」
「…それ楽しいのか?」
自分らの時は…といっても、この子たちとそこまで年が離れてるわけじゃないが。
昔はよくゲームもしていた。
というか、どちらかというと、外でサッカーしたりっていうのは苦手で、
よくみんなでうちに集まって、大乱闘な格闘ゲームだの、大型のモンスターを倒して自分の装備を強くしていくようなゲームをやっていた。
そのゲームも今じゃ最新作が次々に出てきて、自宅にいながら、オンラインで友達同士で遊べるというのだ。
「まぁやってみましょうよ。最初は自分のキャラクター作成っすね。」
うん、この辺は、昔とそこまで変わらないな。
性別と髪型、顔のタイプ…ほうスタイルまで決められるのか。
声もいくつかある中から選べた。
…うん。
なんか、恥ずかしいな…。
昔は、いつもふざけたキャラにしていた。
基本的に一人でやることが多かったので、そういうゲームの時は自分の好きな容姿に近づけたりしていたが、友達とやるようなゲームの時は、冷やかされるのが嫌で、ゴリゴリのおっさんキャラや、
被り物やへんてこな声のキャラにして遊んでいた。
それでも、作成するときは基本一人だった。
今は、横にバイトの子がいる。
恥ずかしい…。
「ちょっとお前のキャラ見せてくれよ。」
「あーいいっすよ。僕は3キャラ持ってるんですけど、メインは男で、サブキャラに女のキャラが2人っすね。」
うん。なるほど。
がっつりこいつの趣味全開だ。
メインと言われているこのキャラは、背が高くてソフトマッチョっぽいスタイル。
声も、元気のいい爽やかイケメンだ。
「…お前みたいだな。」
「いやいやw俺こんなにムキムキじゃないっすよw」
くそ…昔は爽やかスポーツ男子がモテて、ゲームなんかしてるような奴は、
みんな揃って、ちんちくりんだったのに。
俺たち、駄目ンズの唯一の活躍の場に、こいつらがいつのまにか侵食してきている…。
まぁいいや。
女のキャラは…おおぉ…これは…w
2番目のキャラは、これまた長身で、スタイル抜群。
鎧もビキニアーマーで、剣の類はもっていない。
拳に何かはめてるから、モンク的な何かなんだろう。
声はこれまた元気そうな、なんというか、陸上部にでもいそうな明るい声だ。
はちきれんばかりの二つのメロンが、拳を振るうたびに上下左右に…おおう…。
「…店長、どこ見てんすか?w」
「え?い、いや、なんか装備がすごいなと思ってさ。」
危ない…こんなこと、他のバイトにばれたら明日から、馬鹿にされてしまう。
「…なんでもいいけど店長、早くやりましょうよ。自分のキャラ見てるだけじゃなくて…。」
「お前は、こんなキャラ恥ずかしくないのか?あの…なんていうか…。」
こんなメロンがたゆんたゆんしてるキャラとか、趣味全開というか…。
「ん?なんでっすか?ゲームの中くらい、自分のなりたい自分でいいんじゃないっすか?店長も別に好きなように作っていいと思いますよ?」
俺が聞きたかったのは、性癖もろばれなのが恥ずかしくないのかってことだったんだが…。
うん、まぁなるほど。
それもそうか。
「…でも、お前絶対に笑うなよ?あと、他の奴にも変なこと言うなよ?」
「言わないっすよwさぁやっとキャラメイク終わりっすね!!さっさとやりましょう!明日学校なんで、そんなにやる時間ないっすから!」
そして、ゲーム内でキャラ同士で同じマップに入って視認出来た瞬間、こいつは笑い転げやがった。
「wwwwwwwwwwwwwwww」
それは、もう声にならないくらいに。
「お前!笑わないって言っただろ!」
「いや、だってw店長に髪めっちゃはえてるwww」
「うるせえな!wしかもそこかよw」
「いや、見た目は良いと思いますよwでも、髪www駄目だ死ぬwww」
「お前笑いすぎだろwいやもういいや。早くやるぞ!!」
「はーぁwおなか痛いwでも、意外とやる気っすね!w」
あんだけ毛嫌いしていたスマホアプリだったが、その後バイトに促されるまま、
序盤の狩場につれていかれて、レベルを上げたり、序盤にしては破格の装備をもらったりと、
気づけば朝方5時までやっていた。
「そろそろ学校寝坊しちゃうし、終わりましょうか。」
「もうこんな時間か。まぁそこそこ面白いな。」
「でも、意外っすよ。店長、こういうの全然ダメな人だと思ってましたから。」
「昔はよくやってたからな。今は、時間がないだけで。でも、お前これを理由に、バイトさぼるのだけはやめろよ!」
「ちゃんとやりますよwだって、そうしないと店長休めないから、いつまでも手伝いしないといけなくなるしw」
そんな感じで解散したのが、約1年前。
そして、冒頭のポチポチにつながる。
あれから、ちょこちょこあいつと一緒にやったりしていた。
一緒にやるといっても、基本的には俺があいつについていって、
説明を受けながら、隅っこで弱そうなやつと戦っているだけで、ほとんどあいつ任せだった。
それに、今日は他のやつと約束があるからと、一人になることも多かった。
これじゃ駄目だ。
これは、店長としてのプライドなのか、はたまた昔の記憶がそうさせたのか、
「ちゃんとあいつらと肩を並べて遊べるようにしよう!けどなぁ…」
居酒屋の店長にそんな時間はない。
あいつらが、みんなで協力してプレイしてる時間は、所謂オンラインゲームのゴールデンタイムだ。
経験値にボーナスが入ったり、パーティプレイ前提の狩場もあるので、
俺みたいな、深夜か朝方にしかプレイできないプレイヤーには限度がある。
「ちょっと卑怯だけどしょうがないよな。」
俺は自分に言い聞かせるように、タイトルから飛べるショップページを開いた。
見た目が派手な武器や、おしゃれな服、かわいい飾り物など、いろんなものが買える。
「大人の力ってことで…。」
今まで自分がこんなことにお金を使うことが来るなんて思ってもみなかったが、
指は自然と動いた。
ショップにあるガチャを片っ端から引きまくった。
無論、当たるまで。
数十万円…いや、数百万…は、いってないと信じたい。
まぁ、貯金は腐るほどある。
使い道がなかったからな。
そして、一通りの装備やらなんやらを集めた後は、お得なパックだったり、
月額の課金等、そういったものも片っ端から手を付けた。
バッグ容量無限
経験値4倍
ドロップ率4倍
優待特別ワープ利用可
その他諸々
このパックだけでも1万近くする。
みんな装備が欲しいので、ガチャに課金するやつが多い。
このパックも、5つに分かれているので、うち1つだけとか購入する奴はいるみたいだが、
全パック購入する奴は、ほんの一握りだ。
普通は上位の物を購入したら、下位の特典は含まれるものだが、
このゲームは上乗せされるのだ。
そうして、次にプレイしたときには、「店長悪の道に手を染めましたね…。」なんて、
バイトに馬鹿にされながらも、快適にプレイできるようになり、ソロでのレベル上げもはかどるようになった。
のだが…
ここまでお読みいただきありがとうございました。
プロローグは次回で終わり、本編はその次からです。