俺のエロ本が禁断の魔術書!? ~読むと最強呪文を放つ俺のエロ本~
休日の晴れ間が眩しい朝に、俺はお気に入りの本で至福の時を過ごしていた。根暗で陰キャな俺にはパリピでアゲアゲなフレンズもキャッキャウフフなガールフレンドも居る訳が無く、やる事と言えばひたすらに退屈を凌ぐ事しか無かった。
「この本みたいな美人に会えたらなぁ」
―――ピカッ!
「んお?」
丁度見開きの所を開いたままの本から妙な光が漏れ出した。
―――ピカッ!
―――ピカッ!
次々と連鎖するかの様に部屋に置いてあった本達が光り出し、眩い光が部屋中に溢れ出す!!
「な、何だぁ~!?」
そしてバッと見開きから手が現れ、ニギニギとグーパーを繰り返す。
「も、もしや俺の願望が具現化してのでは!?」
俺は素早く現れた手へと近付いた。危ないとか危険とかそんな意識は微塵も無い。ただ興味の赴くままに―――!
―――ガシッ!!
「ふおっ!?」
ふいに足首が握られ俺はあまりの事についつい艶めかしいボイスを発してしまう。
「な、何をする……っ!!」
―――ググ、グ……
「あふぅっ!!!!」
しかし、その手は思い切り足首を掴んだまま俺を本の方へ引きずり込もうとし出した!
「離せっ!!」
凄い力で引きずり込もうとする手に、俺の足は限界に達していた。このままでは引き抜かれてしまう!!
自体に俺の体は光る本の方へ。既に片足は本の中に入ってしまっている。
「マズい!! このままでは俺の部屋の本達が母親に見付かってしまう!!」
俺は手で近くの本達をかき集め、両手に抱えながら本の中へと吸い込まれていった―――
(うぉぉぉぉ!!)
眩く光る空間で、俺の足を握ったままの女性がチラリと俺の顔を見た。
「詳しい話は着いてから致します! 先ずは我等をお助け下さいませ救世主様!!」
俺は混乱と戸惑いと高揚感で話の内容なんかどうでも良くなっていた!!
(一体何なんだこれは―――!!)
一段と輝くゲートを抜けると、そこは謁見の間の様な空間だった。目の前に宝石がゴロゴロとくっついた玉座に座るヒゲジジイ。そしてその脇を固める様に沢山の兵士が並んでいる。
女性が俺の足首を離しヒゲジジイに跪いた。俺は慌てて手に持っていた本を隠す。
「王様! ついに救世主様の召喚に成功致しました―――!!」
「そ、そうか!!」
「救世主殿……」
ヒゲジジイが立ち上がりゆっくりと俺に近付いてくる。
「……何なんだこれは!?」
俺は一歩引きドッキリを疑った。もし、万が一ドッキリでも許そう。何故なら女性に足首を握って貰ったからだ♪
「突然の事でお許し下さいませ……。しかし我が国は今危急存亡の時で御座います!! 我が国は魔王の侵略により国土の90%を失い今も街では魔物が暴れております!!」
―――ギィィィ
兵士が窓を開くと、近くで派手に暴れまくる酷い色のペンギンみたいな動物が街を破壊していた。
「そこで我々は異世界より強大な魔力を持った救世主殿をお呼び致しました! それが貴方様です!!」
ドドンと俺を指差すヒゲジジイ。既にこれが夢では無い事は明らかだった。今更目の前の事を疑っても仕方ないだろう…………しかし、急にそんな事を言われてもなぁ?
「今し方救世主殿をお連れした王宮魔道士のエリーをお供にお連れ致します。どうか街で暴れ狂う魔物達を倒して頂けませんか!?」
「……………………」
「救世主殿!!」
正直ヒゲジジイはどうでも良い。死ぬなら勝手に死ねよ。けど…………
―――チラッ
「お願い致します救世主様!!」
このエリーと言う女性は中々に好みだ。足首も握って貰ったしな。
「き、君……彼氏は?」
「えっ!? い、居ませんが……」
「何故俺を選んだ?」
「それは、強大な魔力を持つお方ですから……!!」
「あ、やります」
「救世主様!!!!」
俺はエリーの為にやることにした。強大な魔力だってさ(笑)
うへへへへ!! やってやろうじゃんよ!!
「それで? どうやって魔法とか打つの!? こう? こうかな!?」
俺は格好良いポーズで掌を伸ばした。でもまずは結婚して下さい……と、思ったらエリーが水をくれた。気遣いが出来る女性は好きだよ?
「救世主様がお持ちになられてます。魔道書をお使い下さいませ……」
「……へ?」
俺は思わず唖然とした。俺が手にしているのは俺がいつも暇潰しをするときにお世話になる愛読書だからだ。
「その魔道書からは計り知れない魔力が溢れております。故に私が召喚のゲートとして使用出来たのです」
「え、いや、これただの台詞付きのグラビア本なんだけど……」
「なんと! それは『台詞付きのグラビア本』と言う魔道書なのですか!!」
エリーが不思議そうに俺の愛読書をまじまじと見つめる。いや、あまり見ないでくれ…………。
「救世主様。お時間がありませぬ、後は現地で直接……!!」
エリーが俺の手を掴むと勢い良く空を飛び、窓から外へと連れ出されてしまった!!
「怖ーよ!! ちょっ!! 待ってくれ!!」
「先ずは奴から退治をお願いします!!」
「ひ、人の話を聞けー!!」
ふわりと着地し、俺は地に足が着く喜びも一塩に目の前の化け物に戦慄した!
ペンギンを腐らせた様な見た目は既に吐き気を催すほどで、その臭いはガソリンの様だった…………。
「さあ! 救世主様お願いします!!」
「何をどうするんだ!! 何も聞いてないぞ!!」
「その魔道書に書かれている呪文を詠唱して下さいませ!!」
「…………マジ?」
―――ドガァァン!!
腐ったペンギンが俺の傍にあった家具を拳で粉々に粉砕した!
「うおっ!!」
「救世主様! 早く!!」
何が何だか分からないが俺はとりあえず持ってきた一冊を適当に開いて読んだ!!
「―――ご、ご主人様の為ならワタシ……」
―――キィィィィ
俺が読み始めると同時に本からまた眩い光が溢れ出す。
「おお!! これが救世主様のお力……!!」
「ど、どんなご命令でも…………」
―――キュイィィィン!
光が束となり天を高らかに貫く。
「耐え抜いてみせ―――」
―――シュゥゥゥ……
しかし光の束は直ぐに弱くなってしまった。
「!?」
「救世主様!! 何処か詠唱を飛ばしませんでしたか!?」
俺は穴が空くほど読んだ愛読書で台詞を飛ばすなんて…………あ、もしかして擬音も読まないとダメ?
「もう一度お願いします!!」
「お、おう……」
俺は気を取り直してもう一度別なページを開いた。人前で本の朗読とか何の罰ゲームだよ……。
「ご、ご主人様もう私我慢出来ません―――もじもじ―――ご主人様の事を考えると――もじもじ――」
―――キュイィィィン!!
「ああ、ご主人様となら地獄の果てでもーーー」
―――ボハアァァァァ!!!!
本から伸びた光の束は天を貫き、腐ったペンギンの頭に激しく降り注いだ!!
「やりました救世主様!!」
「グペェェェェ……!!」
徐々に塵と化す魔物。やりきった感に満ちた俺は満足げにポーズを決めた!
「エリー見てたかい!?」
「はい! 救世主様格好良いです!!」
「さて、お次と行こうか!」
「はい♪」
俺は近くに居た別な魔物の前に立ちはだかり、今度は違う本を掌でクルクルと回した。
「見せてやる……人類の英知をな!!」
俺は本を顔の前に持っていきポーズを決めた!
「救世主様! その魔道書は何というお名前なのですか!?」
「禁書『こんな幼馴染みいるわけない』……だ!!」
俺は本を開き適当なページを開いた。どうせどのページも同じだ、何処でも良いだろう!
「ねえ? そろそろ起きないと遅刻するよ?」
「す、凄い……! 何と力強い詠唱か!!」
本からは先程より強い光が放たれていた。さっきより感情を込めているからだろうか?
―――ドガァァァアア!!!!
本から無数の波動が飛び出し魔物を飲み込む!!
「これが……救世主様のお力……!!」
俺はすっかり気分を良くし、次から次へと魔物を退治した。
「救世主様ありがとうございます!!」
「いやいや、全てエリーの為だよ!」
「救世主様……♪」
エリーは俺を尊敬の眼差しで見つめている。いやはや、これは結婚も時間の問題かな!?
「よし! このまま魔王をぶっ殺してやるか!! 着いてこいエリー!!」
「はい! 救世主様!!」
俺はエリーの手を引き走り出した。根暗で陰キャな俺が吹っ切れたらココまではっちゃけられるなんて夢にも思わなかったけど、人前でエロ本読めるんだから大抵の事は大した事じゃない……そう気付いたんだ。
読んで頂きましてありがとうございました(*'ω'*)