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作者: 芦進伸哉

わんぱくしては転んでの繰り返し そんな幼い頃

できた傷に押し当てられた消毒液が身に染みて痛かった

「自業自得だ」と押し付けられる脱脂綿に

僕は泣いていたような気がする


身体は大きくなったけど 僕の心はまだまだ子供で

自分勝手に行動しては 親を怒らせた

ある日 「心配だ」と泣きそうな母の想いが沁みて

僕は思わず泣いてしまった


寒さで悴む冬のこと 沸かした風呂に浸かって一息

火傷したような痛みにちょっと顔をしかめて

次の瞬間 染み込んできた温度に感動した

僕は冬の楽しみを少し見つけた気がした


新しい生活にまだ慣れぬ頃 口元を固く結んだ

無意識の内に頼ってはいけないと我慢していたけど

「頼ってくれ」と真剣な声色が伝える 優しさが沁みて

僕はなんだか無性に泣きたくなった


親元離れて少し経った 腹の虫が合唱を始める

下宿先の先輩が作ってくれた卵焼き

温かくて 優しくて 全てが僕に染み込んでゆく

僕は今すぐ家族に会いたくなった



痛みは身体に染みて

想いは心に沁みた

目に見えないものまで僕の心は染み込ませて

無機物さえ僕の身体は吸水していく


あれもこれも

全部今の僕を作ったものたち


今日も沢山のものを染み込ませて僕は生きている

それがとても幸せなことなのだと僕は笑った

湯船に浸かっていると、あまりにも身体が冷え切っていたのかお湯が肌から染み込んで温度を吸収しているような錯覚に陥りました。

染みる、と言えば幼少期に嫌がった消毒液に、先輩に作ってもらった出汁がきいた優しい味の卵焼きを思い出しました。

どれも全部幸せな思い出たちです。


先輩が作る卵焼きは本当に美味しくて、毎回食べさせてもらう度に泣きたくなります。

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