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今年も王国主催のクリスマスパーティの日がやってきた。

毎年行われるこのパーティは国中の名のある貴族が集うビッグイベントで、勿論ヒュート家も参加することになっている。毎年このイベントだけは家族全員で参加することになっているので、私は朝からかなり不安を感じていた。

私の手の怪我はすっかり治り、傷跡もあまり気にならない程度に薄くなっていた。


あれからエレナとの接触は全くなかった。使用人たちがより一層接触させまいと行動してくれているのもあるが、母はあれから自室に引きこもるようになったのだと聞いている。エレナが今何を思っているのか、私には分からなかったが、お互いのためにも会わないほうが賢明だと思っていた。

しかし、このパーティだけは家族で出席しなければならない。王国主催ということは、つまりは王家直々の招待という事。招待状に家族全員の名前がある以上は、出席しないと失礼に当たるのだ。



夕方、ドレスや髪型をセットして玄関ホールに向かうと、既に父のディノンやエレナ、グレイは準備を終えて私を待っていた。

グレイは笑って迎えてくれたが、ディノンもエレナも仏頂面で私を一瞥した。


「遅れてしまい申し訳ありません」

「気にしないでいいよ」


グレイは私に微笑みかけると、髪型やドレスを見て「可愛いね」と私の頬をするりと撫でた。

イケメンは本当に心臓に悪いな、とグレイから目を逸らす。


「……いいか。くれぐれも失礼のないようにするんだ。恥をかかせるなよ」

「はい、お父様」

「はい」


ディノンは遅れてきた私に文句を言うことはなく、むっすりとした顔のまま車に乗り込んだ。

ちら、と控えめにエレナに視線を送る。

グレイはそんな私を見て、同じようにエレナを見遣った。


「……」


エレナは私の事を上から下までじっと視線だけを動かして見つめると、何も言わずに車に乗り込んだ。

あれ、と思う。

エレナが遅れてきた私に何も小言を言わないなんて初めての事だったので、私は驚きに目を瞬かせた。

ぼーっとエレナを見つめていると、グレイが私の視界を遮るように正面に立った。


「さて、今夜は僕にエスコートさせてくれるかな? 僕の可愛いお姫様」


片手を差し出したグレイに、私は照れくささを感じながらもその手を取るのだった。






会場となるのは王国一の広さと設備を誇るホールだ。国中の権力者や貴族たちが集まる為に、警備も王国騎士団の団員が任されている。

私たちが会場に着くと、パーティは既に賑わいを見せていた。

父を筆頭に会場に入ると、一際人が集まっている場所がある。中心にいるのは近衛騎士を連れた国王だ。

ディノンは一直線にその一団に向かう。国王に一番に挨拶をするのがルールであることは分かっていたので、私たちはそれに従った。


「国王陛下」

「おぉ、ディノンではないか」


白い口ひげを蓄えた国王陛下は、その優し気な目元を細めて私たちに笑いかけた。


「今年もお招きいただきありがとうございます」

「なに、気にするな。それに、今年からリリスが世話になっているようだし礼を言いたくてな」


国王は私とグレイに視線を移した。


「リリスと仲良くしてくれて、ありがとうな二人とも」

「いえ、こちらが仲良くしてもらっている、と言った方が正しいくらいです」

「リリス様にはいつも仲良くしてもらって、私も嬉しいです」

「相変わらず二人とも子供とは思えん落ち着きようだな」


はっはっは、と豪快に笑う国王に、私は思わず笑みを零した。

人柄がよく人望も厚いこの人が、自分の住む国を治める人で良かったと、私は会うたびに思う。

そういえば、そのリリスの姿が見えない。


「リリス様は、今日はご出席ではないのですか?」

「いや、今は丁度席を外していてな。じきに戻ってくるだろう」

「そうですか」


この言い方だとトイレにでも行っているのだろう。

父は国王と二、三話をして、頭を下げてその場を後にした。

その後はパーティ恒例の挨拶回りの始まりだ。中にはアルグレードやダン、ハンナもいて、私たちは後で集まろうと話し合った。ギルデンツは王国騎士団の警備の仕事の手伝いをしているらしく、一緒に集まることは難しいだろうとダンから聞いた。

挨拶をするのにかかる時間も、他のパーティに比べると圧倒的に長い。大分慣れたものの、疲れることは疲れるものだ。


その長い挨拶回りも、私の記憶が正しければマストで挨拶をしなければならない人物には全員済ませるころだ。

そう思っていた時、父は何かに気付いた素振りを見せグレイに声をかけた。


「グレイ、あそこにおられるのがヒュート家が代々お世話になっている公爵家だ。お前も将来家を継ぐんだ、今から会っていてそんな人ではない。行くぞ」

「はい……」


グレイは父に返事をしながらも、注意は私に向いているようだった。

父はその視線に気づくと、私と母に向き直った。


「お前たちはここにいろ」

「……分かりました」


エレナは小さく答えた。

険しい表情を浮かべるグレイ。私をエレナと二人にすることを懸念しているのだろう。

私は大丈夫だと笑顔を浮かべるが、グレイの表情は和らぐことのないまま父に連れられて行き、私はその背中を見送った。

心配してくれるのはありがたいが、エレナもさすがにこんなに人の目がある中で何かをするなんてことはしないだろう。


私は横を通り過ぎようとしたウェイターを呼び止め、グラスを一つ手に取った。

一口飲んでエレナを見ると、彼女もこちらを見ていたのかバチッと目が合う。すぐさま逸らされたそれに、私は首を傾げた。

偶に鉢合わせるときは私に目もくれないのに、一体何なんだ。今まで一つも小言を言われてないし、徹底的に関わらない方針に変えたのだろうか。

それならそれでありがたいけど、とエレナから視線を外した途端、急激に眠気に襲われぐらりと視界が歪み、平衡感覚が保てずに近くにあったテーブルに手を付く。


なんだ、これは。


私を襲う眠気は瞬く間に私を包み込む。目を開けるのもやっとなくらいの睡魔に、私は何が起こっているのか考えることもできなくなっていた。


「……どうしたの」


薄れる意識の中でエレナが声をかけてくる。なんとかその言葉を理解して、その問いかけに答える。


「……なん、だか、とても、」

「……ちょっと、そこの。この子、気分が良くないみたいだから空き部屋にでも案内してあげて。騎士には私から話を通しておくわ」

「かしこまりました」


エレナが誰かに話している。私は誰かに腕をとられ、覚束ない足取りで歩き始めた。


「この子、体調がよくないみたいだから空き部屋を一室貸していただけない?」


暫く歩かされると、エレナの声が近くで聞こえた。

重たい瞼をこじ開けて、ここがどこなのかを認識する。見ると会場の入り口で、エレナが話しかけているのは騎士だった。

何故エレナがこんなに優しいのだろうか、なぜこんな睡魔に襲われているのか、考える頭は睡魔に侵されて残されていない。

またしばらくの間歩かされる。段々と喧騒が遠のき、周囲は静かになっていく。ガチャリとドアが開く音がしてベッドに寝かされたのだと分かったと同時に、私は完全に意識を手放した。


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