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長期休暇に入ると、まず私はローミルの元へロイとハンナと共に赴いた。初めてローミルの元を訪れたときから定期的にモデルの仕事のためにローミルの工房を訪れているが、すっかりこの三人がメンバーになっている。

……正直言って、私は毎回ローミルの元へ向かうのがかなり憂鬱だった。最初こそ「モデル」という言葉にドキドキしていたものの、工房に行ってみるとそれはもう大変だった。ローミルはとてもいい人なのだが、その、なんというか彼女の変態ぶりを甘く見ていたのだ。


ロイの運転する車がいつもの場所に停まり、車から降りる。

あの分かりにくい路地を見つけるのは私には難しく、毎回ハンナの後ろを付いて行っているのだが、最近ようやく覚えた路地に入ろうとした時だった。


「ルーナ?」


名前を呼ばれ、声のした方に視線を向けると、そこには軽装のギルデンツが驚いたように目を瞬かせていた。


「ギル! 偶然ね」

「ううん、きっと運命」


嬉しそうに駆け寄ってきたギルデンツを、阻むようにロイが立ち塞がる。

途端に眉間にしわを寄せたギルデンツはぎろりとロイを睨みつけた。


「どいて」

「すみません。いくらステイル様といえど聞けないお願いです」

「ロイ、よくやったわ。ギルデンツ様は隙あらばルーナに抱き着こうとするからそのまま止めておいて」


行きましょ、とハンナは私の背を押して路地裏に入った。背後ではロイとギルデンツが攻防を繰り広げている。

ローミルの工房に着きドアを開けて中に入った途端、何かが私にドンと勢いよくぶつかり、体を締め付けられる。


「ルーナちゃん会いたかったわ!」

「っぐ、ローミルさ……」


容赦なく締め付けてくるローミルの腕を叩き、離してほしいことを必死で訴えるが聞こえていないらしい。

やばいまじで、息ができない。


「ちょっとローミル! ルーナが死んじゃうから離れて!」

「あ、ごめんなさい」


ハンナのお陰でローミルは腕を離し、なんとか生き延びた私は息を整えてローミルに向き直る。


「今日も、お手柔らかにお願いします、ね」


『お手柔らかに』を、さりげなく強調して彼女に微笑みかけるが伝わっているんだかいないんだか、自分の胸をドンと叩いた。これ分かってないな。


「それじゃあ早速そこに立って____」

「だから、なんであなたまで付いてくるんですか!?」

「そこにルーナがいるから」

「お嬢様は山ではありませんよ!」


言い合いをしながら入ってきたのは外で睨みあいを続けていた二人だった。


「……! ルーナ」


ギルデンツは私を視界に入れるなりトテトテと一直線に駆け寄ってくる。

私に抱き着く直前にロイが彼の首根っこを掴み、ギルデンツは振り向いてロイを睨んだ。


「離せ」

「すみません、お嬢さまをお守りするのが私の役目ですので」


と、またも言い合いを始めてしまった二人にローミルは指をさして私に尋ねる。


「何なの、あれ」

「犬同士の喧嘩よ」

「……気にしないでください」


吠え合っている仲のいい二人はさておき、早速デッサンを始めるローミル。

私はいつものように更衣室でローミルに渡された服に着替えると、窓を背景に彼女の正面に立った。


ローミルは、いつも私に自分のデザインした服を着させていろんなポーズを要求する。なんでも、そうすることによってインスピレーションが湧き新たなデザインを思いつくのだとか。

新緑のワンピースに身を包んだ私は、ローミルに言われるがままにポーズを取る。

いつの間にかロイとギルデンツも睨みあいを止めて私に注目していた。

物凄く恥ずかしい。

最初の頃はロイやハンナにも、恥ずかしいからついてこなくていいと抗議したのだが、二人はどうしても付いて行くと言って聞かなかったのだ。

加えて今日はギルデンツまでいる。恥ずかしさマシマシだ、まったく。


「はぁ、いいわ、すごくいい!」


これもいつもの事なのだが、ローミルは段々と息遣いが荒くなっていくのだ。そしてじりじりと私に近づいてくる。

エロカメラマンじゃないんだからと内心突っ込みを入れている間にも次々に服を着せ替えられ、あっという間に二時間が経過した。

私の顔に疲労の色が見られることに気付いたロイがローミルを止める。


「ローミル様、そろそろ休憩を挟まれてはいかがでしょうか。お嬢様もお疲れのようですし」

「あぁ、そうね。それじゃあ休憩にしましょう」


顔を赤くしてデッサンに集中していたローミルは我に返ったように小さくそう呟くと、紙やペンを持ってぶつぶつと何かを呟きながら奥の部屋に引っ込んでしまった。


彼女は一度集中すると他が目に入らなくなる性質で、休憩時間は決まって部屋にこもりデザインに没頭するのだ。だからいつもこの休憩を合図に私たちは工房を後にするのだが、今回はもう一つ目的があって来たのだ。気長に彼女を待つとしよう。

更衣室で服を着替えると、ロイが紅茶を淹れて待っていた。キッチンを借りて紅茶を淹れたのだろう。


「お疲れ様です」

「ありがとう」


四人掛けテーブルに座っているハンナの隣に座ると、ロイが私に紅茶を差し出した。

それを受け取り一口飲むと、疲れが少し和らいだ気がした。


「どのポーズを取るルーナも可愛かった」


向かいの席に座っていたギルデンツがうっとりした様子で私を見つめた。

本当に何故ここまで好かれているのか。全くもって分からん。


「ありがとうございます」


こう、直球でそんな風に言われることがないのでどう反応していいのかまだいまいち分からないが、褒められて悪い気はしない。

暫く四人で談笑しているとガチャリとドアが開く音がして、振り返るとローミルが驚いたように目を見開いた。


「あれ、まだいたの?」

「今日は、ローミルさんにお話があって」

「話?」


首を傾げるローミルに、私は頷いて話を切り出した。


「実は、ここにいる私たち四人と、お兄様と公爵兄弟とリリスでクリスマスパーティを開くことにしたんです。気軽に楽しめる会にしたくて、少人数になるんですが。よろしければローミルさんもどうかな、と」


私の言葉にローミルはぱちぱちと瞬きをした後、顔を明るくして私の手を握った。


「え、えぇ是非参加させてもらうわ! パーティというからにはドレスも新調しなくちゃ、あ、そうだルーナとハンナの分のドレスも私が作ってあげるわ!」

「え、いや、あの気持ちはありがたいんですけれど……」

「パーティは来週よ、ローミル。間に合わないわ」

「そ、それもそうね」


ローミルはシュンとしたかと思えば、手を打って今度は私の肩を掴んだ。

ギルデンツがすぐさま立ち上がり私と彼女を引き離す。


「そうだわ! この前作った制服をアレンジして作りましょう!」

「制服って……あの、文化発表会の?」

「そうと決まれば早速、こっちに来て! まずはルーナ!」

「え、ちょ」


ローミルは興奮した様子で私の腕をひっつかんで更衣室に入った。


「さ、ルーナ。脱いで」

「え」

「さあさあさあ!」


外から私を呼ぶロイやギルデンツの声を聴きながら、私はローミルの魔の手に恐怖するしかなかった。



…………____


「はわ、どどどどうしましょう! お嬢様が変態と二人きりに……!」

「諦めなさい。もうルーナは手遅れよ」


今にも卒倒しそうなロイに、いつもはルーナを庇うハンナも諦観の目で更衣室を見遣った。


「……俺が行く」


決意を目に宿らせ更衣室に向かうギルデンツをすかさず止めたのは勿論ロイだった。


「いや、行かせませんからね?」

「そうよ。何普通に覗こうとしてるの?」

「俺がルーナを守る」

「かっこいいこと言ってもダメなものはダメ。次期騎士団長がコレで大丈夫なのかしらこの国は」


ハンナは紅茶をすすりながら、この国の未来を案じるのだった。


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