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お読みくださりありがとうございます。
本日21時頃にもう一話更新致しますので是非に。
一学期最大のイベントである文化発表会が終わり、生徒はみな学期末試験に向けて勉学に励んでいた。
文化発表会練習期間中勉学を疎かにしていたわけではないが、やはり発表会の練習に重心を置いてしまうもので、試験勉強は二の次だったのだ。
この聖セントラル学園では、一人一人に合わせた学習が行われている。故に、科目数はとても多い。前世で言えば大学のようなもので、自分に必要な科目を取って勉強するという感じだ。
私の場合はマナー、音楽、華道、国学など伯爵令嬢としての知識を身に着ける。ハンナで言えば医学を中心とした勉強になるし、ダンは剣術や体術など、本当に科目の幅は広い。
最近は放課後をサロンで過ごすこともなく、各々図書館で勉強したり家に帰って家庭教師に追加授業をしてもらったりと試験の為に頑張っているのだが、斯く言う私もその一人で。
「分からない……」
「ルーナでも苦手なものはあるのね」
ハンナは帰る準備をしながら、頭を抱える私を見て笑った。
「あるわよ。私をなんだと思っているの」
「……完璧人間?」
「何それ」
「だってなんでもそつなくこなすイメージだったから。ねぇ、リリス」
ハンナは同じように帰る準備をしていたリリスに話を振った。
「えぇ。ルーナさんはいつでも最高です」
的外れの返事をしたリリスに、私は苦笑いを浮かべた。
あれから、リリスとすっかり仲良くなりいつものメンバーに彼女が加わった。私としては今からでもリリスと誰かの恋が始まらないかドキドキしているのだが、そんな様子は今のところ微塵も見られない。
いつの間にか私に対する敬語も戻ってるし。
「それ、国学?」
リリスは準備をする手を止めて私の持っていた教科書を覗き込んだ。
「そう。どうしても座学って苦手で……」
学園に入学する前から苦手だった国学。家庭教師に来てくれていた国学の先生にも随分しごかれたっけ。王家の歴史やこの土地の特性など、とにかく覚えることが多いのだ。
前世でも歴史が苦手だった私は当然、この科目に拒否反応を覚えた。
「私国学取ってないし……」
「私は、国学は二学期からです……」
国学という科目を取る生徒は多いため学期ごとに学ぶ生徒を分けているのだが、私のクラスは国学を取る生徒自体少なく、教えてもらえる人がいないのだ。
そうは言っても試験は刻々と迫っているわけで。
「どうしよう……」
「よ、よければ僕が教えましょうか……?」
「うわあ!」
突然ハンナの背後から聞こえた声に、ハンナは悲鳴を上げた。
その人物はずり落ちた眼鏡を直して何度も頭を下げた。そのせいでまた眼鏡がずれている。
「す、すみません驚かせてしまって! 気になる会話をされていたので、つい」
担任であるレーリンは、今日も今日とてもっさりとした前髪の奥に瞳を隠している。切りたくなる前髪だ。
全然気配がなかったが、一体いつの間にハンナの背後にいたのだろう。
「レーリン先生、国学得意なんですか?」
「えぇ。これでも一応資格も持ってるんですよ」
えへへ、と照れくさそうに笑うレーリン。
この学園では担任はクラスの生徒の管理を任されていて、授業で科目を教える教師とは別である。生徒一人一人の学習科目や時間割の管理などを一任されている担任に教師を任せると負担もかかるのでそのような体制が取られているのだ。
「ヒュートさんには文化発表会を盛り上げてくれた恩もありますし、僕では力不足かもしれませんがお手伝いしますよ」
自信なさげに指を弄りながら、ちらりと私に顔を向ける。
「せっかくだし、勉強見てもらったらどう?」
そんなレーリンの様子を見て背中を押すように、ハンナはレーリンと私を交互に見つめた。
リリスもうんうんと頷いている。
まぁ、私としても嬉しい申し出ではあるし、このままでは国学は不合格になりかねないし……。
「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」
「はい! 頑張りましょうね」
嬉しそうに笑うレーリンに、私も微笑み返す。
こうして、試験に向けての私の戦いが始まったのだ。
試験までにはあと一ヶ月あるが、何しろ学園に入ってから初めての試験である。試験の傾向も分からない一年生は皆早くから試験の対策をしている。
レーリンに教えてもらうことになった私はというと、放課後や授業と授業の間の休憩時間に勉強を見てもらうことになった。
忙しい中教えてもらうことに頭を下げると、レーリンは今の時期はやることが無いので平気ですよと笑って答えた。
早速翌日の放課後、教室に残って国学の教科書をカバンから取り出した。苦手科目という物は、教科書を開くのさえ躊躇われる魔力のようなものを秘めている。その魔力になんとか打ち勝ち教科書を開くも、ずらっと並んでいる文章に軽く眩暈を覚えた。
レーリンが隣の席から椅子を引っ張ってきて机を挟んで向かい合う。
「では、今回の試験範囲を僕が一問一答形式で質問していくので、なにかメモ帳にでも答えていってください。まずは自分の弱点を知るところからです」
教科書を手に取るレーリンに、私は微かに目を見開いた。普段の彼からは予想できないほどしっかりとした様子に、意外性を感じたのだ。
案外ちゃんとしてるんだな……。
「わかりました。よろしくお願いします」
それから暫く一問一答が続き、私はひたすらペンを動かし続けた。二十問ほどを答え終わると、答えを書いた紙をレーリンに渡し採点してもらう。
……結果は三分の一ほどの正答率、ぼろぼろだ。
「なるほど、どうやらヒュートさんは歴史が苦手なようですね。この国の特産品など現代にまつわることはほとんど正解していますから」
レーリンは私の答案を見ながら冷静に分析すると、席を立って黒板の前に立った。
「それではこの国の歴史に重点を置いて勉強していきましょう」
相変わらず瞳は見えないが、レーリンのその姿は何故かとても頼もしく見えた。




