24
「え?」
頭が思考を停止して、すっからかんになったまま目の前の彼女をただ見つめることしかできない。
何も考えられない。予想をすることすらできなかった彼女の言葉に対応できないのだ。
そして、リリスはさらに言葉を続ける。
「おまけに、ここがある『ゲームの世界』だという事を知っている」
違いますか、と私に問いかける声に、私はすぐに反応できなかった。
空回りする頭の歯車をなんとか噛み合わせ、必死で考える。
どうして彼女が転生者という言葉を? それにゲームの世界と言った。待てよ、さっき『同じ穴の狢』とも言っていた。
という、ことは。
「……あなたも、転生者、なの?」
震える唇をなんとか動かす。
自分の声すらどこか遠くに聞こえる。困惑、衝撃、混乱、色々な感情が混ざり合って自分の考えが追い付いていない。
リリスはため息を吐いて腕を組んだ。
「あなた『も』ということは、やっぱりそうなんですね……」
リリスは何か考え込むように眉間にしわを寄せながら俯いたまま黙り込んだ。
その間に、私は頭の中を整理する。
彼女が転生者ということ。これはまず間違いないのだろう。まさか私の他にも転生者がいたとは。
それに彼女は『ゲームの世界』と言った。それは、つまり彼女も知っているということだ、ここが乙女ゲームの世界だという事を。
____全く同じ状況で転生して、皮肉にもヒロインと悪役令嬢という全く違う立場に生まれた二人。それが私たちなのだ。
彼女がこのゲームをプレイしたのだとしたら、悪役令嬢という立場にある私を警戒していたことで避けていたことにも頷ける。
「お互い、状況を整理してみませんか?」
しばらくの沈黙を破り口を開いたのはまたしてもリリスだった。険しい表情をした彼女は探るような眼でこちらを窺っている。
「……そうだね。それじゃあ私から話そうか」
警戒されている以上、私から晒した方が良いだろう。
私は自分の前世について簡単に話すことにした。
あまり細かいことは覚えていないが、二十代後半で死んだことやこのゲームは未プレイ作品であること。公式サイトの情報から私が悪役令嬢であることや、リリスがヒロインであることを知り避けていたのだという事。
それらを話した後、リリスは険しい顔をしたまま再び考え込んでしまった。
私はそんなリリスを見て、ぱっとある考えが浮かんだ。
そういえば、こういう小説を前世で読んだことがあるけど、こういうのって大抵
「私と○○くんの恋を邪魔しないで! ○○くんと付き合うのは私よ!」とか言われちゃうんじゃ……。
「……じゃあ、貴女は『彼ら』が攻略対象であることも、私がヒロインであることも知ってたんですね。そのうえで、あの時私を助けた……」
彼女は俯いたまま、ぎゅっと拳を握りしめた。
あ、これ本当にそういう展開になる!?
「私と彼のイベントを横取りすんな!」って言われちゃう!?
「あ、いや、その……そうなんだけど、貴女の恋路を邪魔するつもりは微塵も___」
「ファンです!!」
…………は?
突然の告白にまたもや思考が停止した私に気付いていないリリスは、興奮した様子で私の両手を握った。
「いや、前世でプレイした時はあんまり良い印象無かったんですよ? 正直テンプレ過ぎる嫌がらせをしかけてくる女だなこいつ、程度だったんです。何かとイベントの邪魔ばっかりしてくるしまじうざいなって」
あれ、これかなり私ディスられてる? ディスられてるよね。
「____でも! あの時、全ッ然誰も助けに来てくれない中、貴女だけが私を庇ってくれた! あの時の貴女の凛々しい姿……。本当にかっこよかった。攻略対象なんてもうどうでもいい。あの時から! 貴女が! 私の推しなんです!」
鼻息荒く私に詰め寄るリリスに、私は言葉を失った。
私が、推し……? 推しが、私?
あまりにもパワーワードすぎて、頭が理解することを拒んでいる。
「で、でも、あまり話しかけてこなかったり、遠巻きにちらちら見たり、よそよそしかったのは……?」
「好きだからこそ!推しに話しかけるなんて烏滸がましい! 遠目から見るだけで幸せなんです!」
この時私は思った。この人は生粋のオタクだ、と。同類の気配を察知した。それと同時に、ベクトルは違うけどローミルと同じ匂いがすることに、私は目を瞑った。
とまぁ、お互い何はともあれ事情が同じ転生者同士だという事が分かり、私もリリスを警戒する必要がなくなったわけだ。
「この世界のこととかお互いの事とか、もっといろいろ話したいし明日にでも私の家に来ない?」
「ひぇ、推しの家……。是非行かせていただきます」
自分が誰かの推しになるという概念が分からないからどう反応したらいいのか分からないが、やり辛いことは確かである。
こうして私たちは約束を交わして、何事もなかったかのように会場に戻るのだった。
__私たちの会話を聞いている人物に、気づかないまま。




