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そして、ついに文化祭当日。

どのクラスの生徒も朝早くから登校して、開始時刻である午前九時に向けて着々と準備に取り掛かっていた。

斯く言う私もその一人で、制服に着替え、同じく早めに登校していた幾人かのクラスメイトと会場の確認をして回る。


「舞台のセット、テーブル、椅子、料理に使う材料、……よし、全部大丈夫そうね」


確認を終え、控室となっている自分の教室に戻ると、続々とクラスメイトが集まり始めていた。楽しもう、とは言ってもやはり緊張感はそう簡単には拭えない。皆表情を硬くしていた。

登校してきた人から着替えを済ませ、会場に向かう。


「いよいよね」

「そうね。……緊張してる?」


クラスメイト同様に表情が硬いハンナにニヤリと微笑むと、頬を膨らませて睨まれてしまう。


「ルーナは全く緊張していないみたいね」

「そう見える? ……これでもかなり緊張しているのだけど」

「そうは見えないわ」


私の特技であるポーカーフェイスが発動しているということだろうが、私だって緊張位する。

九時のチャイムが鳴った。本当に始まる。


「ルーナ」


横にいたはずのハンナはいつの間にか背後に立っていて、呼びかけに振り返ると私を見つめるクラスメイト達がいた。一人一人の真剣な眼差しに、目を閉じて深呼吸を一つ。


「始めましょう」






それぞれが配置に付いたのを確認し会場のドアを開けると、驚くことに既に大勢の人が列を成していた。今年も例年通り生徒に招待状が渡されているため、保護者たちの姿も見える。列に並んでいた人たちは、ドアを開けて会場から出てきた私を、正確に言うと制服を見て目を見開いた。

やっぱりそういう反応になるよな。

男子生徒からは勢いよく視線を逸らされた。


「お待たせいたしました、開場します。収容人数が限られておりますので、申し訳ありませんが四十人で一度切らせていただきます。タイムスケジュールを設置しておりますのでそちらをご参照ください」


人数を数えながら客を通していくと、十人ほどが溢れてしまった。思った以上の集客は嬉しいが、通せない客様が出てくるほどとは誤算だった。

残念そうに立ち去ろうとするその人たちを引き留め、用意しておいたバスケットを手に取った。

中にたくさん入っていた小さな包みを人数分取り出して一人一人に配っていく。


「お通しできず申し訳ありません。よろしければこちらをどうぞ」

「これは……」

「キャラメルだ!」


小さい男の子は早速包みを開くと、嬉しそうにキャラメルを口に放った。

可愛らしくコロコロと口の中でそれを転がせる様子に私まで微笑ましい気持ちになり、キャラメルを受け取った人たちに笑いかけた。


「是非お召し上がりください。次回お並び頂いた時にこの包み紙をご提示いただくと優先してお通しさせていただきますので、またのお越しをおまちしております」


本当は食後のお客様に配る予定の物だったが、こうした方が集客力もあるだろう。

帰っていく客に頭を下げ会場のドアを閉めると、私は次の仕事に取り掛かった。



嬉しいことにカフェは大盛況だった。剣舞を見ながら食事ができるというのが受けたらしく、私たちはとても忙しく動き続けた。

私たちの制服には顔を赤くする人が殆どだったが、中には私たち女子の格好に難色を示す人たちもいた。「はしたない」だの「下品」だのと言う声が聞こえるたびに女の子たちが落ち込んでいたので、「こういう格好ができないから嫉妬してるのよ」と話すと私の言葉で自信をつけてくれたのか笑顔が見られるようになったので嬉しい。強い子に育ってくれておばちゃん嬉しいよ……。

午前の部も後一回の開場で終わる、という時だった。


「ルーナ」


並んでいた客を通していると客の一人が私の名前を呼んだ。

聞き覚えのある声に頭を上げると、驚いた表情のグレイと公爵兄弟が私を凝視していた。


「来てくれたんですね、ありがとうございます。みんな休憩中なのですか?」


私の問いかけに三人は暫く呆けたまま返事をしなかった。


「……うん、あとは午後からの公演なんだ。というか、ルーナ」

「その恰好……」


じっと三人に見つめられ、私は段々と顔に熱が集中していくのを感じた。

あれ、今まで恥ずかしくなかったけど親しい人に見られるとなんか急に恥ずかしいな。なんでだろう。


「あはは、……似合います?」


照れを誤魔化すように笑いながら首を傾げると、グレイは珍しくムッとした表情を向けた。


「確かにとても可愛いけど、足出しすぎじゃない?」

「うん。とても似合っているけど、僕もそう思うな」


グレイの意見に何度も頷くアルグレードの笑顔に何故か寒気を感じ、私は身を震わせた。

ダンは瞬きもせずに私の足を見ているので、今すぐに視線を逸らしてほしい。


「そ、そうですか? でも、ローミルさんのデザインですし、私は結構気に入っているんですよ」


私はその場で一回転して制服の可愛さをアピールして見せた。

しかし、いまいち二人には伝わっていないのか、最後までいい顔はされなかった。


「……」

「……まぁ、今日一日だけだし」


仕方ないとでも言いたげに肩を竦めたアルグレードだったが、一方のグレイは未だ納得していないようだ。

グレイの事だから褒めてくれると思っていたが、この服はあまり気に入らないらしい。

可愛いのに……。

アルグレードはそんなグレイの背中を押して会場に入っていった。

ダンはというと、私の足から視線を逸らしてくれたはいいが俯いたまま固まってしまってぴくりとも動かない。


「ダン? どうしたの?」


気分でも悪いのだろうかと顔を覗き込もうとすると、口元がもぞもぞと動いているのが見える。


「……れは」

「え?」


ぶつぶつと聞こえてくる小さな声が聞き取れず、その口元に耳を寄せる。


「俺は、絶対認めない!!」


いきなりバッと顔を上げたダンは顔を真っ赤にさせてそう叫ぶと、踵を返してどこかへ消えてしまった。


「ダンにはまだ早かったみたいね」

「ハンナ」


背後からかけられた声に振り返ると、ハンナがにやにやと笑いながら私の手を握った。


「ほら、次が始まるから行きましょ」

「うん……」


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