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翌日のお昼休み、私たちはいつものように食堂の一角にある円卓に座ってランチを食べていた。最近話題に上がるのはもっぱら文化発表会のことばかりである。


「ダンのクラスは何をするか、結局決まったの?」


私はフォークを置いてそう尋ねる。

ダンのクラスは最初の話し合いの場では決まらず、次の日まで持ち越しとなったと聞いていた。


「無事に決まったぜ! 中々意見がまとまらなかったけど、ちゃあんと落としどころを見つけたんだ」


へへ、と自慢げに話すダンを隣で微笑ましそうにアルグレードが見つめている。


「良かったわね。それで、何をするの?」

「剣劇とオーケストラだ!」

「え、二つも?」


私たちのクラスも二つやることにはなるが、どのクラスも女子と男子共に十五人前後の人数だ。私たちは所謂店員と剣舞だからクラスの半数ずついれば問題はない。しかしオーケストラと剣劇となると、十五人前後じゃ厳しいのではないのだろうか。


「実は兄ちゃんのクラスと合同で発表することになったんだ!」

「えっ、そうなの?」


ダンから隣にいるアルグレードに視線をずらす。


「丁度うちのクラスも決まってなかったから、先生に頼んでみたんだ。ダンのクラスが決まっていないってことも聞いていたしね。それで、ダンのクラスに一緒にやらないかって打診してみたら快く引き受けてくれて。クラスのみんなも賛成してくれたよ」

「兄ちゃんと剣劇ができるなんて最高だぜ!」

「僕もダンと一緒に演劇ができるなんて嬉しいよ」


アルグレードは話を引き継ぐと、ダンと顔を見合わせて笑い合った。本当にこの兄弟は仲がいい。


「二人ともブラコンだと手に負えませんわ。グレイ様は何をなさるのですか?」


呆れたように公爵家兄弟を見つめたハンナはグレイに話を振る。

グレイはデザートのムースを食べようとして口に運んでいたスプーンを一度止めた。


「僕のクラスは演劇だよ」

「演劇ですか、演目は何を?」

「んーとね……あれ、なんだっけ」

「ハムレットですわ、お兄様」

「あぁ、そうそう」


ぽやんとしている兄に助け船を出すと、思い出したことに納得したのかムースを食べ始めた。


「お兄様、主役なんですよね」

「うん」

「え!? グレイ様がハムレット役なんですか!?」


想像できない、と零したハンナに私は心の中でうんうんと頷いた。このもきゅもきゅとムースを幸せそうに食べているグレイを見る限り、とてもじゃないがあの復讐劇の主役が務まるとは到底思えない。


「お兄様のハムレット、とても楽しみにしていますね」

「ルーナがそう言ってくれるなら頑張らないとなぁ」


我が兄ながらとても不安ではあるが、当日どんな仕上がりになっているのか楽しみだ。

私とグレイは、先ほどのアルグレードとダンのように顔を見合わせて笑い合った。


「ブラコンがここにも……」

「そういえば、どうだったの? あのローミル・ジュネと会ったんだろう? ハンナは知り合いだったみたいだけど」


アルグレードはグラスに入った水を飲み干すと、私とハンナに視線を向けた。彼の言葉に私とハンナに視線が集中する。

私は隣に座っていたハンナとちらりと目を合わせた後、アルグレードに視線を戻した。


「その、とてもお綺麗な方だったんですけれど、なんというか……変わったお方でした」

「ルーナ。はっきり言っていいのよ、変態だって」

「ヘンタイ?」


なんだそりゃ、とダンが首を傾げる。


「ルーナはすっかり気に入られたみたいだよ。……ふぅ、お腹いっぱい」


ご馳走様でした、とグレイは持っていたスプーンを皿に置く。

昨晩の夕食の際、ロイと私でローミルの話を一足先に聞かせたのだ。ロイの「いかにお嬢様にとってローミルが危険か」という熱い演説を、グレイは「ルーナが良いって言っているんだし、良いんじゃない?」の一言で終わらせたときは、将来の主従をここに見た気がした。


「気に入られた、なんて生ぬるいものではありませんわ! ローミルがルーナを見るあの変態的な眼! 荒い息! 完全にルーナを獲物としてロックオンしていましたわ!」

「あ、それ昨日ロイも同じこと言ってたなぁ」

「で、でも! 彼女の部屋に飾ってある服やドレスはどれもとても魅力的でした! 本当に、生地一つとっても上質なものでしたし、デザインも今までに見たことのないようなものばかりで……。本当に素敵でした」


ハンナがまるで親の仇でも見るように空を睨みつけたので、これ以上ローミルに対する心象が酷くならないうちにと口を挟む。

私は昨日見た数々の服を思い出していた。

この世界では見かけない珍しいものばかりだったが、どれも本当に素晴らしいものだった。


「まぁ、天才は奇人とよく言うからね」


アルグレードがその話を締めくくるようにそう言って席を立ち、私たちは昼休みを終えたのだった。

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