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週が明けて最初の授業は、文化発表会での出しものについてクラスで話し合う時間が設けられた。
「誰か、案がある人は発表してください」
相変わらず前が見えているのかさえ怪しいレーリンは自信なさげにそう呟く。
ざわざわと生徒同士の話し声は広がるものの、誰も発表しようとしない。聞こえるのは相談する声。黒板に書かれた『出し物 案』の欄には、レーリンが例として挙げた合唱や演劇から増えないままだ。
「ルーナ、発表しないの? 私的にはこの間の案、良かったと思うんだけど」
こそこそと後ろから声をかけてくるハンナに、私は少し体を後ろに倒して答える。
「いや、でもあれは男の子たちが剣をやりたい前提の話だったでしょ? それに、あれをするとなると少し広めの会場でやることになるし、そうなってくると人手も足りないし……」
「そういうのは提案してから考えればいいのよ。____先生! ルーナから提案があります!」
「え!?」
ハンナは手を挙げて教室の注目を集めた。
昔からこういう発表が苦手な私はすっかり委縮してしまう。
「おや、ヒュートさん! 何かいい案がおありですか?」
わくわくしている様子のレーリンが教卓から身を乗り出した。
「え、えぇーと、その、カフェと劇を合体させたコンセプトカフェはどうかなぁ、なんて」
「……コンセプト、カフェ?」
私の言葉に首を傾げたのはレーリンだけではなかった。生徒たちも首を傾げてひそひそと話している。
居心地悪いな、と思いながらも説明を続ける。
「はい。女の子は可愛い衣装を用意してちょっとした軽食やスイーツを作ってお客様にお出しする。男の子たちはそこで剣舞を披露してお客様にお茶を楽しみながらそれを見てもらう、というのはどうでしょう。……どうしてもこういうのって男子と女子で意見が分かれやすいかなと、思って」
前世では実際そういうカフェがあったし、女子も男子も活躍できる斬新なアイデアと言えばこれくらいしか思いつかなかったのだ。
「私たちが給仕をするということ?」
「使用人の真似事を私たちが……」
「剣舞かぁ……。確か東洋の剣を使った踊りみたいなものだよな。かっこいいかも」
「できるかな、おれ」
予想通りというべきか、男子の反応は上々だが女子はあまりいい顔はしていない。
貴族という恵まれた環境でしょうがない部分もあるが、使用人のようなことをすることに難色を示すことは分かっていた。だからこそこの提案のことは黙っていたのだが……。
「あ、ちなみにもしこの案が通るのなら、私ローミルと付き合い長いから彼女に女子の制服を仕立ててもらおうかしら」
ハンナの呟きで、女子たちのざわめきはぴたりと止んだ。
ローミル、とはローミル・ジュネという仕立屋の女性のことで、ファッションに興味のある人間で彼女を知らない人はいないほどこの国では有名だ。彼女の仕立てる服はいつも斬新で、奇抜なもの多いが、それが世の女性を虜にしたのだ。特に新しい物好きの若い女性は彼女をお抱えの仕立屋にしようとあの手この手を使っていると聞いているが、彼女がそれに靡いたことはないらしい。
伝統を重んじる一部の人間から嫌われている彼女は、それが原因は分からないがあまり貴族を相手にしないと聞いていたが、ハンナが知り合いだとは知らなった。
「どうでしょうか、先生」
「僕は良いと思いますよ! その、コンセプトカフェとやら、すごく楽しそうですね!」
「それじゃ、賛成の人は拍手」
ハンナの声に教室中に拍手が響く。どうやら女子はローミルの制服という魅力に負けたようだ。
ハンナは「コンセプトカフェで決まりね」と楽しそうに笑った。
「それじゃあ、大まかにどういう方向にするか決めていきましょう。……と言っても、僕はよく分からないし、コリンズさんとヒュートさんに進行をお願いしてもいいですか?」
「はい、喜んで」
「え」
ハンナに腕を引っ張られて教壇に上がる私は、リリスが探るような眼でこちらを見ている事には気づかないままだった。