カザー星系の所有する観光用トレインの旅... VRを使っての惑星観光調査(3)
トレインのソファのところ。
「ねえ。新婚旅行。トレインの旅っていうのもいいね」
「し。しんこんりょこう…」
恥ずかしくなるシマ君。
「そう… キララに未来へと連れて行ってもらって二人きりで…どうなの?」
「え。あ。ああ。そうだね…いいんじゃない?」
シマ君とミケア・ミレイちゃんが話している。
トレインに備え付けのデバイスを見ながらミケア・ミレイちゃんがいろいろ言う。
「ここは?」
「へー。長寿の森…えーと。巨大樹があって高さは2000メートル。寿命も2万年…すごいね」
「うん。神聖な場所なんだって…結婚式をここであげる人や、新婚旅行に選ぶ人が多いんだって」
「そうなんだ…」
☆☆☆
小声でキララが…「あのお二人さん。仲がいいよね」と言う。
「そうだね…主導権はミケア・ミレイちゃんかな…シマ君も変わったよね…会ったときはいろいろな女の子に声をかけるような子だったんだけどね…」
ユキはちらっと、シマ君のほうを見る。
トレインのソファに2人仲良く並んで座って、デバイスの検索結果を見ている。
「ねえ。あれって… 私たちがいること忘れてない?」
小声でキララが言う。
「そうだね…」
横では12歳のララちゃんがユキの体にもたれかかって昼寝している。
たまに寝返りをうち、うさ耳が顔にあたる。
ユキはパラリと本をめくる。
そろそろ…トレインの中にいるのも少しあきてきた。
それを悟ってキララが言う。
「ねえ。2人だけでこのトレインの前のほうにある共有スペースへ行かない?
そこにはVRで先の惑星の観光の見どころを案内しているものがあるみたいなの」
「そうだね…どうやって共有スペースまで移動するの?」
「専用デバイスで自動ドアを開けるの…トレインは物理的に前や後ろの車両とつながってないからね…」
「じゃあ行こう」
ゆっくりユキは床に寝っ転がっていた体を起こす。
12歳のララちゃんが目を覚まさないように…
そろっと歩き。壁のデバイスを操作する。
自動ドアが開き、共有スペースの車両へと移動することができる。
☆☆☆
トレインの中とはいえ、結構広い。
ここは共有スペース。子供用のアスレチック施設があり、ちびっこ達が遊んでいる。
あれ。あそこにいるのは、幼稚園児のララちゃんとシロちゃん。
歩いて近づいて行くと、ララちゃんのうさ耳がこっちを向いて、ララちゃんがユキに気が付く。
「あ。お兄ちゃんだ。やっぱり…足音でわかった」
うさぎっ子のララちゃんは耳がいいので足音で誰か来たかを聞き分ける。
「ユキお兄ちゃん」シロちゃんは耳はそれほど良くない。ふわふわの羽が背中にあり、ユキが来たことをララちゃんから聞いて羽がちょっとひろがる。
「あら。あなた達…」ミアお姉さんとミミアも顔を上げる。
「やあ」キララが挨拶をする。
「トレインの旅も暇になったの?」ミミアがキララに聞く。
「ま。まあね」
「シマ君達は?」ミアお姉さんがユキとキララだけなのを見て言う。
「あの2人はソファでラブラブだったから。抜けてきたよ」
「そうそう」
「ふーん。じゃあ12歳のララちゃんは?」
「僕の隣で昼寝してて…おいてきちゃった」
「後で怒られるわよ…」ミアお姉さんが言う。
「えー」ユキはそっかなという顔をする。
「まあ。いいじゃない。たまに私たちも2人きりになりたいと思ってて…この先のトレインにある、VR施設を使いたいと思って…」とキララ。
「ああ。あれね… 使ってらっしゃい。この先の惑星なんだけど…ちょっとした問題があって…
K.K会社所有の惑星なんだけど…降りないことをお勧めするわね…」
「え? ミミアお姉さん。どうしてなの?」ユキは聞く。
「うん。カザー星系の会社ともめ事を起こしているんだけど… 事件があるかもしれないし…
まあ、地球人のあなた達なら問題ないかもね…私は同行できないわよ」
「そうなんだ… じゃあ先のトレインの車両へ行くよ」
「じゃあね」
シロちゃんとララちゃんの頭をなでなでしてから、自動ドアで前の車両まで移動する。
しかし自動ドアの技術。便利だな。物理的につなげる必要はないし…
次の車両へと移動すると、個室が両側にある廊下へと出た。
受付用のデバイスをタッチして開いている個室を探す。
「ここ…」キララが個室のドアを開ける。
そこには2つの座りやすそうな椅子。
頭につけるもの。
目を閉じて座るだけでいいらしい。
個室のドアは中からロックする。
「どうやって使うの?」
僕はキララに聞く。
「えーとね、頭にこの装置をつけて椅子に座る。そして椅子のひじかけについているボタンを押すと中に入れるよ。もういちどボタンを押すと出られるんだけど…VRの中だったらメニューを出すんだよ…一度入ってみるね」
キララは優しくユキを椅子に座らせ、頭にデバイスをつけてあげる。そしてボタンを押すように言う。
「お。目の前に映像が出始めた。
いったん黒い映像の後。企業のロゴ…
カザー星系のもの。
それと見たことがない企業のロゴ。
あれ? これは…」
見たことがある。ハリウッドの映画会社のロゴ。
そのロゴの表示が消えた後、トレインの中の映像になった。
「あれ?」
椅子に座っているはずなのに…
僕の隣にキララが現れた。
「やあ」
「あれ? その姿…」
「懐かしい? 昔僕が使っていた体の形を表現したの。昔カザー星系のトレインをキラのときに使っていて…どう?」
羽があるキラの姿。キララはキラの姿になっている。
「なつかしいね…」ユキは気になって自分の体をみた。
いつもどおりの体。
「なんかひさしぶりにこの姿だと違和感があるね。お尻のしっぽとか…頭の上の大きな耳とかがなくて…狐っ子の姿にも慣れちゃったみたい…
背中の羽の感触とかが懐かしいなあ…」
とキララ。
「背中の羽。さわっていい?」
ユキはキララの背中をさわってみたくなった。
「いいよ。ほら」
キララは背中を見せる。
ユキはキララの背中の羽をさわる。
「これ…本物みたい」
触り心地がいい背中の羽の感触を感じる。
「ちなみに。このVRの中は2人だけだし…中のデータはカザー星系の幹部でも見ることはできないから…ばれないよ」
「そうなんだ。安心した」
ユキは不思議な感触だ。
キララがメニューを操作するとあたりの景色が変化した。
「次の星系の惑星だね…ここには5つの惑星があってね…」
キララが説明を始めた。
「うんうん」
「なんか。2人で宇宙旅行をしたときのことを思い出すね」ユキがキララに言う。
「そうだね…でも姿はキラだから違うでしょ…ねえ。ユキ君はどっちが好み? 鳥のハーフのキラの姿か…今のきつねっ子のキララの姿か?」
「えー。そういってもね…どっちも好き…中身がキララだから…キラでもあるし…」
「そっか。ありがと…」
キララはメニューを操作している。
「惑星なんだけど…どうなの?」
「うん…えーとね。第1惑星はね… 文明が発達して…機械化が進んだ星。
2番目の惑星は農業が進んだ星。
3番目は開拓がそれほど進んでいない星。リゾート地ぐらいかな。
4番目は商業の拠点が発達した星。交易がさかんだよ…
そして5番目は…おそろしい隔離の星…僕たちは降りることができないけどね。
いわば…刑務所。犯罪を犯した人が住んでる…」
「へー」
キララの話を聞いてそれだけしか言えなかった。
「おすすめは3番目の星かな…いいところみたい…行ってみる?
あ。どうせならVRだから全部回る?」
キララが提案してくる。
「うん。そうだね。時間はあるし…危険はないんだよね」
「そうそう。問題はないよ…じゃあ決まり。じゃあ1番目から順に…」
キララがメニューを操作する。
あっというまに1番目の惑星の主要都市の真ん中に場面が飛ぶ。
「うわぁ。これって…」
ユキは見る。
大きな都市。
大量の車。
電飾(ただし昼間なので明かりはついてない)。
人もなにかキラキラしている衣装をつけている。
「うん。サイバーパンクの世界みたい」
空中を浮かぶ車のような乗り物。
地上の道路にも電飾用の発行用機器が、はしにそって並んでいる。
「ねえ。キララ。夜にできない?」
「うん。できるよ…」
キララはメニューを操作した。
すると…時間の速度が10倍から20倍の速度で進む。
未知を行きかう人もものすごく早歩きになり、姿が見えなくなる。
そして…あっというまに夕日になり、日が暮れた。
夜になってから時間の進み方を通常の速度にする。
電飾がにぎやか…
「あれ…みて…しっぽに電飾をつけている…」
ユキは以前シマ君がしていたような、きつねのような太いふさふさのしっぽの人をみた。
しっぽに電飾をつけていてぴかぴかしている。
そして…きつねのような大きな耳も電飾でぴかぴかだ。
デバイスで調べていたキララが言う。
「あ。大変。すぐにあそこのお店へ行こう」
「え? 何?」
「えーとね。肉食の飛行生物がいるんだって…
電飾で光ってない生き物は死んでいるとみなされて、食われるって」
「えー」
「あ。そっか。ここはVRだったよ…」
何かでっかい生き物が空を飛んでいる。
「ねえ。2番目の惑星に移動しない?」ユキが言う。
「そうだね。ちょっと落ち着かないかも…」キララはメニューを操作した。
ぶん。
すぐに景色が切り替わる。
のどかな田舎風景。
ぽつんと農家がある。
何かの作物が植えてある。
今は夜。
静かに虫か何かの声が聞こえる。
キララは時間を操作した。
夜明け前にした。
だんだんと朝焼けになっていく。
あたりも明るくなる。
キララとユキは田舎道を歩く。
道のわきに何かの小屋がある。
ユキは小屋の中を覗き込む。
立て札と果物が並んでいた。
「えーと。これは今年作成した作物の売れ残りです。ご自由に持って行ってください。だって」
ユキは手にとる。
「うん。食べることができるよ…ただしVRだけど…」
ユキは果物を口にする。
甘い。
味覚も再現されている。
「ここも…のどかでいいところだね…」ユキはキララのほうを見ながら言う。
キララも違う実を手に取って食べる。
キララの羽がちょっと広がる。おいしいみたい…
「じゃあ3番目惑星へ移動する?」
ユキはキララが食べ終わるのを待ってから言う。
「うん。次はリゾート地かな…」
メニューを操作する。
場所がかわって…南国のどこか…
「う。暑いね…」日差しがきつい。
「そうだね…何かないかな」キララはメニューを操作する。
あ。これ…とキララは言い、メニューを操作する。
すると、あたりの景色が高速でスクロールして場所が100メートルほどずれた位置を表示させる。
そこは壁がない建物。屋根は現地の植物の葉でできているかのようなもの。
そこに…
「ようこそ…ここではエステの体験ができます。お二人は恋人ですか?」
とお姉さんに聞かれる。
「うん」
「そうです」
ユキとキララは答える。
「じゃあ問題ないですね。男女一緒でも…では…ここをこう…」
お姉さんはメニューを操作する。
すると…
「うわぁ」ユキはしゃがみこむ。
「あ」キララは一瞬びっくりするが、ユキの方をみる。
「なんで裸になったの?」ユキは大事なところを隠す。
「あはは。大丈夫。大事なところはもやがかかったかのようにはっきり見えないからね」
キララはまっすぐ立っている。
ユキは薄目をあけてちょっと確認してみる。
確かに胸のところと又のところはうっすらとぼやけている。
ユキは恐る恐る立ち上がる。
「大丈夫ですよ… この台に寝てください」
キララがユキの体をじっと見ている。
「ねえ。大事なところは見えてないんだよね」ユキはキララがメニューを操作しながらじっとこっちを見ているのが気になった。
「う。うん。だ。大丈夫だから…私には見えてないから…」
キララの背中の羽がちょと開き気味になる。
ユキは台の上に横になる。
キララも隣の台に横になる。うつぶせだ。
お姉さんが2人に増えて、マッサージを始める。
「これはVRの体験なので5分間だけですよ…かおりのいいオイルも塗りますね」
体にオイルが塗られ、マッサージされていく。
「あ。気持ちいい」
ユキは思わず声を出す。
「うん。いいよ。羽の付け根のところ…もうちょっときつめに…うん。そうそう」
エステもいい。
☆☆☆
エステが終わり立ち上がる。
キララはメニューを操作して服を着用する。
ちなみに南国に似合うアロハシャツみたいなものと短パンだった。
キララは黄色。ユキは水色だ。
「ねえ。さっき見てた?」ユキはキララに聞く。
「え。見てないよ。見てない…見えてないからね」
ユキはじーとキララを見る。
「うそ」ユキはキララをじっとみる。
「ごめんなさい。メニューをいじって。見ちゃった」
「もう…耳ふーふするからね」
キララは一瞬びくっとした顔になるが…「今はトリのハーフだから耳はないよ」と言う。
「VRから戻ったら耳ふーふの刑だから…」
「えー」キララはメニューをいじる。
また裸になった。
「うわぁ。また…」
ユキはキララの背後にまわりこみ、トリの羽の付け根を指先でつーとなぞった。
「わぁ…そこ弱いって」びくっとなる。
「服もどして…」ユキは言う。
キララはメニューをいじる。
ユキは短パンだけ着用になった。
「ユキ君。また痩せたかな?」キララはユキのお腹をさわる。そしてしゃがんで足もさわる。
「うん。かも…」ユキはキララの体を見る。鳥のころの体。
羽毛の体毛があり、ふかふかなのでキララの体は大きく見える。
「おいしいものいっぱい食べようね… いいところ捜しておくから」
キララはぺたぺたとユキの体をさわり… 立ち上がってメニューを操作する。
いつもの服装に戻る。
そして…4番目の惑星。
いっきに場面が変化し…港町になる。
海の上。
超巨大な船が浮かんでいる。地球の船みたいな形。
それは全長2kmとかありそうだった。
巨大なタンカーよりでっかい。
それが空中に浮かんでいて、じょじょに海の上に下りてくる。
すごい景色だった。
「あれはね。海の上を浮かぶ船なんだけど。他星系から来たものだね…いったん空中に浮かんでTMRの技術で空間移動させるの…移動して来たらまた海の上に着水して…港につけるの…
なぜ浮かべるかについてなんだけど…海水が別星系の海と混ざるのを防ぐためなんだよ」
「へー。見ていると面白いね…ちびっこ達も喜ぶかな」
「そうだね…」
☆☆☆
5番目の星は星系の星のことを説明している博物館で見ることにした。
刑を犯した人が収容されている。
一生出られない人もいる。
中で仕事をしていて…1日8時間の仕事。2時間の聖職者からのお説教。残り時間は1人での独房へと戻り休憩。および食事と就寝になっている。仕事中は飲み物しか飲めないらしい。
「うわあ。厳しいね。何をやったらここに入るの?」
「多いのが交易時の犯罪だね。だまして商品より多くお金をとるの…
他に人に危害を加えたり…女の子の裸をのぞいたり…いわゆる痴漢…」
「へー。じゃあキララもそこに入るのかな?」
ユキは聞く。
「うーん。どうだろ。女の子の裸をのぞいたわけじゃないし…」
「ひどい…やっぱり耳ふーふの刑」
「えー。忘れていたらいいのにと思ったんだけど…」
じゃあトレインに戻ろうか。ということになった。
VRの部屋に戻り、椅子から目を覚ますと、キララが先に目をさましていて… 両耳を手でおさえていた。
「耳ふーふだよ」ユキはキララに後ろから抱きつく。
そして両腕を使って片耳をおさえている手をひきはがす。
「うわぁ。やめて。耳ふーふだけは…やめて…」
ユキはキララの耳に顔をなすりつけた。
「ごめん。耳ふーふはしないよ…すりすりだけ」
ユキはキララの大きなきつね耳に自分の頭をなすりつけた。
すりすりの刑とした。
キララの体。ふかふか。
「自分のトレインの車両にもどろうね…12歳のララちゃんが怒ってるかも…」
キララはユキに言う。
「あ。忘れてた」
ユキは歩いていき、自動ドアで自分の車両を指定してくぐりぬけた。




