しんたろうとシロとソラ。
ここはクロの時代。未来。
「こまったわねぇ」ゆみ子はマグカップのお茶を一口飲んでから言った。
「まあ、がんばるんだな」クロは床をタッチしてゆみ子に言う。
別の灰色ネコもそばにいる。
ぽりぽり報酬のにぼしを食べてから床をタッチする。
「僕は疲れたよ。ゆっくり眠りたい…」
2017年。かなり昔。
そのころ画像認識技術が向上し、町中にセットされている監視カメラから、犯罪者や犯罪につながりそうな人をわりだすために、監視カメラの映像をもとに個々の人がだれかを割り出す処理が自動で動くようになっていた。
その結果、困ったことになったのだ。人以外にも有効なこの処理は、道を歩いているネコも対象となっていた。
迷子のネコとか放し飼いにしているネコ。飼い主が死んでしまって野良となってしまったネコを探すためだ。
で。同一のネコが違う時代の違う場所で見つかるようになり、ちょっとした騒ぎとなっていた。
たぶん画像処理のエラーとか違うネコを同一ネコと区別してしまったということになっているが、かなり正確だ。
そのため、2017年の現地にいる人を仲間として細工をしてもらう仕事をお願いしているのだった。
一番働いてもらっているのは、しんたろう。清掃の仕事をしている。
画像処理ソフトを開発している会社へ清掃の仕事で潜入し、ソフトのライブラリをちょっと改変し、タイムトラベラーのエージェントを同一ネコと判定されないようにしてもらった。
ソフトのバージョンアップごとに、ライブラリを改変してもらっている。
☆☆☆
「あーつかれた。清掃の仕事の他にこっそりファイルを入れ替えるのもつらいなぁ」
灰色ネコの前でしんたろうは言う。
「必要な機材は渡している。未来技術の機材を使えばパソコンのハッキングや、監視カメラ、警報装置の解除は楽だろうに…」灰色ネコは床をタッチして言う。
「なあ。お前たちの時代とか、もうちょっと先の未来では、けもの耳っ子がいるんだろう?」
「まあね」灰色ネコは床をタッチして言った。
「ここペット禁止だから、ネコとか犬とか鳥とかフェレットでもいいからほしいんだよな。で、お前の代わりに、けもの耳っ子のタイムトラベラーはいないのかよ」
しんたろうは灰色ネコをさわろうと手を伸ばすが、するりとかわされてしまった。
「僕はなでられるのが好きではないんだ」それを聞いて、しんたろうはちっと言った。
「まあ、どうだろうね。このTMRはネコぐらいの大きさの動物しか移動できない。でも将来はもっと大きい動物も移動できるようになると思う…」灰色猫は解説をする。
「なあ。検討してくれよ。猫耳娘とか、羽の生えた美少女でもお姉さんでも、本物のバニーガールでもいいから、ここによこしてくれよ」
「報酬のにぼし。くれ」灰色猫はしんたろうににぼしを要求した。
「わかった。わかった。これ報酬な。で、次にけもの耳っ子が来なかったら報酬のにぼしは無しな」
「そんな…」灰色猫は耳をしぼませてから、床をタッチして言う。
床に丸い光を残し、未来へ帰っていった。
☆☆☆
「困った」灰色ネコは床をタッチして言った。
「報酬のにぼしがないのはつらいわねぇ」お姉さん。
その時、床に円の光が見えた。
「こんにちは…」という綺麗な声。
ゆみ子はシロが来たのに気が付いた。
でもいつものシロと違う? なんというか少し羽の色が少し水色っぽく見える。
「なんか困った顔しているわね」シロ?は言った。
「えーとね。2017年の現地の人なんだけどね、仕事をやってやるから『けもの耳っ子をよこせ』と言っているのよ。猫耳少女でも羽の生えた美少女でもお姉さんでも、本物のバニーガールでもいいと言っているのよ…」とお姉さんは言う。
「何。そんなの簡単じゃない。稼働型デバイスを使えばいいのよ…」あたりを見回しながらシロは、クロと灰色猫とお姉さんに言う。
「だめ。その時代に稼働型デバイスはないの。まだ開発されていない…」お姉さんは椅子に座りながら言う。
「あ。そっか。2017年ね。大昔」
羽の生えた美少女? まあ、ここにいるけど。それに最近S3ランクと再認定され、金色のタグをもらったばかりだし…「ねえ。あたしが行ったらだめかな…」と声の綺麗な子は言った。
☆☆☆
「やー。君ほんと綺麗だね。ちょっとこっち来て…」
しんたろうはデレデレだった。
一目ぼれ? きっとそうだろう。
しんたろうは一仕事終えて、背中に羽の生えた子が、未来へ帰る前。
「ねえ。ぎゅっとして」羽の生えた美少女は言った。
ばっちこい。という感じで腕をひろげるしんたろう。
ぎゅっとする。やべえ。ふわふわでやわらかい。特に髪の毛の部分。
人と違って髪の毛が羽毛の産毛のようなふわふわのもので出来ている。
ふっかふかだ。
「頭。なでて…」あまえてくる。
しんたろうは、頭をなでる。
「んーん。ん? なでなではやっぱりいい。下手…
じゃあもう行くね…」羽の生えた美少女は、なでなでを途中でやめて、帰ろうとする。
「えっ。まだ途中…」しんたろうは、もっといてほしいと言うが…
「じゃあね」と床に円の光を出して、羽の生えた美少女は未来へ帰っていった。
しんたろうは、なでなでが下手と言われ。ものすごくがっかりとしていた。
☆☆☆
シロは誰かと話していた。容姿はかなり似ている二人。
「あたしが、なでなで下手と言ったら、すごくがっかりしてた」少し水色っぽい羽を持つ美少女が言う。
「ああ。そうね。最初は下手だったわね。あーでもその人がしんたろうなら、あなたにお願いがあるの…」シロは言った。
☆☆☆
シロ18歳の時代。クロの時代にシロは遊びに来ていた。
ちょっと水色の羽を持つ美少女からの伝言。クロのいる時代に遊びに行って、仕事をしてきてと言われた。
ちょうど、しんたろうから『けもの耳っ子をよこせ』と言われた2週間後だ。
「またお願いできる?」ゆみ子はシロに仕事をお願いする。
「いいわよ」とシロは仕事の内容を聞いて返答した。
☆☆☆
しんたろうの住んでいるアパートの隣に工場がある。なんでもチタンの金属を加工しているらしい。
古い木造アパートの2階にしんたろうは住んでいる。窓から工場が見える。
しんたろうに頼んだ仕事が終わるまで、しんたろうのアパートで待っているシロ。
古いアパートだが、男の人のわりに綺麗に片付いている。でも、細かいところを見るとほこりがある。
待っている間、しんたろうのアパートをちょっと掃除し、好物であろうオムライスを作り待ってた。
なんか新婚さんみたい…
しんたろうはやさしい。素敵な人だ。なでなではちょっと下手。
☆☆☆
何回か、ゆみ子お姉さんに仕事を頼まれて、しんたろうのもとに向かうシロ。
シロはしんたろうに好感をもっている。これが好きというものなんだろうか…
シロはしんたろうのところに行くのが楽しみになっていた。
待っている間に、しんたろうの好物を作って待っていると、心があったかくなる。
しんたろうもすごく喜んでくれる。
さいごに、ぎゅっとしてもらい、もふもふ頭をなでてもらう。
だんだんなでるのがうまくなってきた。
最初は下手と言われたのが気になってたみたいだが、近所の小鳥を買っているおじいさんになで方を聞いたりしたみたいだ。
そんなある日。
「あなたに残念なお知らせがあるの…」ゆみ子は言った。
しんたろうに会えるのはあと3回と言われた。
「なんで…」シロは涙目になりそうな顔でゆみ子に聞いた。
「えーとね。これを見つけちゃったのよ」
しんたろうの死亡記事。しんたろうの時代の次に会う日の3週間後だった。
しんたろうが住んでいるアパート近くの工場で爆発があり、溶けたチタンがあたりに飛び散り、しんたろうのアパートの2階にまで飛んでしまうというものだった。
アパートも焼けてしまい、溶けたチタンが2階の大部分に広がり、住んでいた住人が死亡したとのことだった。死体は見つからなかったが、本人のものと思われる遺品と、溶けた歯の一部が見つかった。
というものだった。
「そんな…」シロはとぼとぼと、その場を後にした。
☆☆☆
シロは誰かと話していた。容姿はすごく似ている二人。
「しんたろうは死んでしまうことになっているの… あたしはどうしたらいい?
こんな顔じゃ会えないよ…」
「じゃあ。そうね。死体は見つかっていないんでしょ。こうしたらどう?うまくいくわよ」
少し水色っぽい羽を持つ美少女と、シロはTMRを交換した。
☆☆☆
工場が爆発する45分前。
さいごにしんたろうとシロはぎゅっとしていた。
未来を変えることはできない。
でも…
「ねえ」
シロはしんたろうの後ろにまわり、しんたろうをぎゅっとする。
そして、自分のTMRを外して、こっそりしんたろうの腕に付けた。
「目を閉じて…」シロは言って、しんたろうの前に回り込む。
どきどき。しんたろうは、シロにチューされるのかな。と思っていた。
シロはちょっと背伸びをした。しんたろうは目を閉じた。
それを見て、シロはTMRをタッチした。
シロはTMRを交換していた。未来のバージョンのTMR。
シロのTMRよりバージョンが上がり、譲渡機能が付加されている。
持ち主から許可された人が時間移動ができる。
成功したらTMRだけが30分後に元の持ち主のところに戻ってくる。
しんたろうは未来から戻ってこない。成功したようだ。そして残り15分。
TMRは戻ってこない。なんで…
残り1分。そして…
工場から爆発音がした。
ごごご。ばん。ばん。ばん。
爆発音がした。
やばい。ここに溶けたチタンが降ってくる。
ばん。
また音が聞こえた。
シロはその場にしゃがんだ。
☆☆☆
あれ?
一瞬だれかにぎゅっとされたような…
シロは目を閉じていたが、あたりの光の強さが変わったのを感じた。
「ここは…」
「よかった。間に合った」
ソラは言った。シロと容姿はうり二つ。
違いは金色のタグを首から下げている。ソラはS3ランクだ。
「TMRをもとに戻すね…そしてしんたろう。こんにちは」ソラは言った。
「ここはどこなんだよ。何もないところで30分も待たせて…
って。シロが二人?」
しんたろうはびっくりして二人を見る。
「あたしはソラだってば。こっちがシロ。二人の顔を見て安心した。
あたしはもう行くからね。で。言っておくことがあるの…
幸せになってお二人さん。きっと近い将来子供ができるよ。その子の名前はソラ…」
ソラは床に丸い光を残し消えていった。
シロはソラというどこからか来た子と友達になっていた。でもその子が…
もしかして、ずっと後の未来から来てた?
シロはしんたろうに、新聞記事を見せた。
死亡記事自体は変わってなかった。
溶けたチタンが2階の大部分に広がり、住んでいた住人が死亡した。
死体は見つからなかったが、遺品と溶けた歯が見つかった。と記載があった。
「歯。ね。昨日奥歯が取れたんだ。テーブルの上に置いておいたんだけど…その歯かな?」
としんたろうは言った。
2017年で死んだことになった。しんたろう。
でもちょっと前にあたしはソラと知り合った。
ソラは未来から来ていて、あたしたちの子供?
ということは未来は決まっていた?
というか。こ。子供。ということは。。。
「ねえ。目を閉じて…さっきの続き…」シロは言った。
「え。何?」しんたろうがこっちを振り向く。
不意打ちで、シロはしんたろうの唇にチューをした。
その後、おもいっきり抱きつくシロ。
シロは、しんたろうと出会えてよかったと思う。
そして救えた。命を。というか運命だった?
不意打ちでチューをされて、ぽかんとしているしんたろうに「頭なでて」とシロが言った。