消えたユキとキララ(1)
みんな個人ブースの中に入ってきた。
みのるお兄さんもソファに座り、ごく自然にみのるお兄さんの膝の上へヒメルを座らせる。
「座る場所がたりないわね…そうだシロちゃん。あたしの膝の上にいらっしゃい」ミアお姉さん。
「じゃあ。ソラちゃんはあたしのひざのうえに…」ミミアも言う。
ミケア・ミレイちゃんはちらちらとシマ君のほうを見ている。
「シマ君。ミケアちゃんがシマ君の膝の上に座りたそうだよ…」
「へ? そうなの?」
「えーとあたしは…もう大きいし…ヒメルちゃんよりきっと重いし…」と言うミケア・ミレイちゃん。
「隣」シマくんは恥ずかしいのかミケア・ミレイちゃんを隣に座らせる。
ミケア・ミレイちゃんは自分のしっぽだけシマ君の膝の上に乗せる。
ああ。あれいい。とユキは思った。ユキはキララに指でミケア・ミレイちゃんのほうを指差す。
「私のしっぽがご所望かな…」キララはユキの膝の上にじぶんのしっぽを乗せる。
シマくんが自然にミケア・ミレイちゃんのしっぽをなでる。
真ん中より先端のところに手を乗せてさきっぽのほうにむかってゆっくりなでる。
ユキもキララのしっぽを同じようになでてあげる。
「どう?」ユキはキララに聞く。
「いいよ」
「さて、あそこのラブラブな人たちは無視して続きを読み上げるわね…」本をテーブルの上に置いて続きを読み上げるミミちゃん。
「その前に…ミミちゃん。ミミちゃんはあたしのひざの上ね…」
ララお姉さんはミミちゃんの真横へと行き、ミミちゃんの真後ろのソファへと座る。
ララお姉さんはぽんぽんと膝をたたく。
ミミちゃんはため息をついてからララお姉さんの膝の上にすわる。
ミミちゃんは本の記事に目をおとす。
『相方がきえてしまった。なんでまんじゅうを食べたら消えるんだと思った。台の上には残りのおまんじゅうがある。俺も食べた。
普通にうまかっただけだ。相方が戻ってくることはない。
おまんじゅうを食べた後、台の上にはミニチュアの模型があった。
俺はその模型を調べることなく、その場で床の上に座り込み床に寝っ転がった。
そのあと、天井を見ながら考えていたが、なにげに台を見ると床と台の間に隙間があった。俺は台と床の隙間を調べることにした』
「いっしょだね…」キララがユキに言う。
「そうなんだ。僕は模型をしらべたよ…」
「ああ。あれね。模型のなかにちっちゃいユキ君がいるんだもん」
「中にキララがいてびっくりしちゃった」
「読むわよ…」ミミちゃんが再び記事を読み出す。
『台の下を調べるとスイッチがあった。一度スイッチを押すとおまんじゅうが1つのっている台となった。
手にとってユミのことを思い浮かべる。あいつなら一口で食うはずだ。おれはおまんじゅうを食べた。
めまいがして気がつくと別の部屋に立っていた。目の前にはユミ。
2人で抱き合ってからキスをした』
「ねえ。キララとユキ君もチューはした?」ミアお姉さん。
「いやいや。してない。抱き合っただけ…」
「うん。そうそう」ユキも言う。
「そっか」ミアはミミちゃんに合図をおくる。
『俺たちは部屋に一つだけあるドアを開けた。下へと続く階段がある部屋だった。
俺はユミの手をつなぎながら階段を降りていった。いくら降りても階段がつづくばかり…
俺は上をみた。上にも無数に続く階段。
俺はユミにここで待っているようにつげて、階段を上に登った。しばらく登ると誰かが階段にたっていた。
ユミだった。おかしい。ユミはこの階段の下にいるはず…
「なんで下から来るの? 上にのぼっていったでしょ」とユミは言う。
ああ。これ。無限階段だとおれは思った』
「ねえ。ユキ君。無限階段だった?」言葉を切って言うミミちゃん。
「違うよ。僕たちのときは自動ドアの部屋」
「ねえ続きは?」ミミアが催促する。
『彼女は階段の踊り場で僕の話を聞いた。彼女は踊り場の壁にもたれかかろうとした。手をつくと、手が壁の中へと吸い込まれた。
おいっ。と俺は声をかけてユミの腕をつかんだ。俺も壁の中に入ってしまった。
すると、壁の向こうは廊下になっていたんだ。なあんだ。目の前の階段には意味がなくて、踊り場の壁が出口だったんだと…
廊下を進むとドアが2つ。ドアは片方のノブに手をかけても開かない。左右のドアのドアノブを同時にひねらないとドアはあかなかった』
「ちょっとつかれた。だれか代わって」ミミちゃんはララお姉さんにもたれかかる。
「えいっ」ララお姉さんがミミちゃんをぎゅっとする。
頭をミミちゃんの猫耳になすりつける。
「うわあ。今頃僕がララお姉さんの膝の上にすわっていたらああなっていたのかなぁ」ユキはキララのしっぽをなでながら言う。
「良かったね」キララ。
「次はあたしが読んであげる。本を貸して」ミケア・ミレイちゃんが言う。
「じゃあはい」ミミちゃんは本を渡す。
『ドアを開けると。別の部屋だった。白くて細い廊下が中心の丸い床に伸びている部屋。
時計の数字がかいてあるところに丸い床がある。つまり円のまわりに10個の丸い床がある』
「ねえ。時計の文字盤に数字が10個のところってあるの?」シマ君が聞く。
「うん。あるよ。地球由来の時計が12等分のところもあれば9のもあるし、10のもあるし、一番多いので28かな?」キララが言う。
「そうなんだ。僕の世界でも、ミケア・ミレイちゃんの世界でも12等分だし…」
「じゃあ続けるわね…」
『俺たちは中心にある丸い台を目指すことにした。二人共バランス感覚があるから、幅が細い廊下も渡りきれると思ったのだ。
無事に二人共、真ん中の丸い床に到達できた。
しかし変わったものや出口のヒントになりそうなものはない。
俺たちは同じドアがある場所へと戻ることにした。
俺が先に元入ってきたドアのある床のところまで戻り、後から来るユミの手をつかみ、引き寄せた。
ユミの足が床についた瞬間。俺たちがいる床は崩れたんだ。
落ちて気がつくと、階段がある部屋の踊り場に倒れていたんだ。死ななかった。またやり直しさ』
「ねえさっき死んだって言ってたのこの部屋?」ミミちゃんはユキに聞く。
「うん。僕たちは白くて細い廊下から足をふみはずして落ちちゃった」
「うん」
『またさっきの部屋へと戻る。こんどは5と10の位置の丸い床の上に飛び移ることにした。
丸い床は不安定だった。けれども落ちることはなく、バランスを取ることができた。
丸い床へ飛び移ったあと、回転していた床は停止した。俺たちがいるところより離れて止まったから、この作戦もしっぱいだと思った。
そのうち鐘の音が聞こえて、一回鳴ったあとに、俺達がいる部屋そのものが崩れて下へと落ちたんだ。
また気が付くと階段のある部屋に戻っていたんだ。
今度は階段で下の階へと移動し、踊り場の壁をさわった。
すると、別の場所に出た。小さい部屋だ。ベッドとテーブル。それに食べ物がテーブルの上にあった。
ここで暮らせそうだ。ちなみにユミはこの部屋からでて、さらに下の階の踊り場から壁に手を当てたら、また別の部屋につながったそうだ。シャワールームとトイレがあった。ユミは再び俺がいる部屋に戻ってきた。
ひとまず食事をして、体を休めることにした。俺とユミは一緒のベッドに入った』
「じゃあ。ユキ君とキララも一緒のベッドで寝たのかな?」ミアお姉さんが聞く。
ユキとキララは同時に顔を見た。
「うん。一緒に寝たよ。キララのしっぽを布団のかわりにして…」
「そう…」
キララのしっぽを触りながら言うユキ。
「はあ。わかったわよ…続き」ミアお姉さんは純粋な瞳で見つめ返してきたユキ君の表情を見てミケア・ミレイちゃんに言った。
『ユミは怖いと言った。俺は説得して、2つのドアの前にユミを連れて行った。
そしてドアを開けて俺はユミが部屋に入ろうとしないのを見てた。そのうち鐘の音が聞こえだしてドアの中の部屋が崩れだした。
俺はそのまま見てたが、上の方に別の部屋があるように
みえた。俺たちがいる廊下もいっしょに崩れだして、気が付くとまた。階段の踊り場にいたんだ。
ユミはこのままここで一緒に暮らそうと言った。食べ物もあるし、トイレやシャワールームもある。
俺は一日だけだぞと言い、ちょっとの間ここで生活することにした。
結局次の日もその部屋で過ごしてしまった。俺は考えてた。崩れていく部屋。その上に一瞬別の部屋が見えたこと。
俺はユミを説得して、もう一度ドアが2つある廊下のまえに行きドアを開けた。
そして鐘の音が聞こえ、床が崩れだしたとき、ドアを締めた。
俺はドアの向こうの様子をうかがってた。音も静かになったころ、ドアを開けた。
すると別の部屋につながってたんだ。
その部屋の台に触ると色が変わる立方体が2つあったんだ。俺は思い出した。昔同僚に聞いた話を…
不思議な空間に迷いこんだら、見た目に惑わされず、脱出方法を探れと、もし脱出できたら立方体の面の色を全部オレンジ色にそろえろと…
俺とユミは立方体の色をそろえたんだ。すると文明がある惑星へと転送されて戻ってきたんだ。
立方体は大学へ寄付してお礼のお金をもらった。そしてこの記事を書いた。
立方体はほぼ究明された。オレンジ色に揃えると、身近な文明がある惑星へと転送される。
手前を黒。反対側を赤。左右をオレンジ。上を薄い水色にすると希望する場所へと転送される。そしてやっちゃいけないのが全部シロに揃えること。
別の奇妙な部屋へと転送される。そこに入って帰ってきたものはいないという話を聞いている』
「はあ。終わった。この立方体転送機能があるのね。だから帰ってこられたんだ。で、ララお姉さんなんでオレンジで揃えたの?
知ってたの?」ミアお姉さんが言う。
「えーとね。なんとなく。オレンジジュースが飲みたかったから…」のほほんと言うララお姉さん。
「はあ。あなたに聞いたのが馬鹿だったわ」とミア。
「バカとはなによ…あたしのTMRがあったから立方体での転送後にここへ帰ってこられたんだし…もー」ララお姉さんは怒る。
「ねえ。不思議なんだけど、TMRでの空間移動後に起こっているのよね、なんであたしたちがまきこまれたの?」ミミちゃん。
ララお姉さんはTMRの仮想インターフェースを呼び出す「なんでだろう… 根菜まつりの最中は使った覚えないし」操作するララお姉さん。
ん? これってと言うララお姉さん。
ミミちゃんがララお姉さんのTMRを覗き込む。
「えーと。壁を必要としない転送機能の評価についての感想を送信。問題点があれば報告をというメッセージがうかびあがっているわよ」
「えー。何この機能しらなーい」ララお姉さんが言う。
「でも。自動ドアを使った記録からみて、根菜まつり中なんだけど…本当に覚えがない?」
ララお姉さんが考える。「休憩で小屋の中に入ってベッドに寝っ転がって休憩してたのよね…ん? あっ」
「何。やらかしたの?」ミアお姉さんがララお姉さんに聞く。
「たぶんねむくなって、うとうとしているときに仮想インターフェースを出しちゃってしまうのにどっかのぼたんを2、3回押したかも…」
「ひょっとしてまだテスト中の機能? 同じ部屋にいる人を転送できるモードを使ったの?」キララは自分のTMRを見て言う。
「そうかも…」てへっとするララお姉さん。
「おかしいなあ。承認しておかないと転送されないんだけど…」キララが言う。
「あたしのは管理者用だから承認がいらないのかも…」
ミアお姉さんが立ち上がった。
「そのTMRあたしによこしなさい。危ないから…こんな、のほほん娘に使わせてたらいつ事故がおきるか…
なんであたしにはTMRがないのよ…ララお姉さんやシロ、ソラも持っているのに…
ミアお姉さんはララお姉さんに近づく…」
ララお姉さんはミミちゃんを抱っこしたまま立ち上がる。
本物の猫を抱っこして歩くぐらいの感じで、ララお姉さんはミアお姉さんから離れる。
「ほら。喧嘩しないの。同じうさぎのハーフでしょ」ミミアが間に入る。
「だって…」
「じゃあ。ララお姉さん。同じ部屋にいる人を転送できるモードはたとえ管理者でも承認が必要にしてもらうこと…
それが嫌だったらあたしはユキ君をもらっていくから…」
と急にミミアに言われる。
「えー」ユキの体がこわばる。
「ユキ君は私のものだからね…」ユキにぎゅっと抱きつくキララ。
「だめか」ミミアがキララに聞く。
「だめに決まっているよ。私はどんなところへユキ君がさらわれても取り返しにいくから…
例の怪現象の部屋でも…誰も帰ってこられないところでも探しに行くよ…」
「キララ」ユキとキララは見つめ合う。
「ララお姉さん。みんなに誤りなさい。ほら…」とミアお姉さんが言う。
「えーだってぇ」ミミちゃんを下ろしてから、ミアお姉さんから離れる。
「痛い。足ふまないで…」シマくんがララお姉さんに言った。
「あ。ごめん…」一歩さがるララお姉さん。一歩下がってキララとユキ君の足を踏むララお姉さん。
「あ。痛い」
「足ふまないで…」
キララとユキはララお姉さんに言う。
「あーごめん。ああもう…」ララお姉さんはTMRを操作する。一人用のモードでこの場から逃げる気だった。
「ああ。もう静かにして…ここは僕の図書館だからね…もう怒った」
キララはユキをたちあがらせる。キララも一緒に立って、立方体の色をシロに揃えだした。
「何やっているのよー」ミアお姉さんが止めにはいる。
キララの体が光りだした。
キララはユキ君にだきついた。
「あっ」
キララとユキはその場から消えた。
「ねえ。ちょっと。消えたの? ねえ。本当に立方体を白にそろえて行っちゃった?」
消えたキララとユキ。
しばらく立ち尽くしていた。




