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【連載版】しっぽのとなり  作者: しっぽと羽
普段の日常と、ちょっぴりSF
62/138

ネコミミの世界でのシマ君のピンチ

 また、ミアお姉さんの家の窓がこつんと鳴った。


 またか、シマはカーテンを開けた。


「今日も行くよ…」キラが顔を出した。


「わかったよ」シマはいつものように出かける用意をする。


 キラのTMRにより、玄関から別の世界へと移動する。


☆☆☆


「今日はこの世界だよ…」キラはシマの肩を押した。


 見たところ普通。サイバーパンクな世界でもない、ごく普通の世界。


 でも、なんか違う。ネコミミっ子ばかりだ。


「ねえ。ネコミミの人多くない? 僕やキラみたいな別のハーフは全く見かけないんだけど…」


「うん。そうだね。ここはネコミミの世界。人間もほとんどの人がネコミミと尻尾を後付けで付けているよ… 他の種類のハーフの子はほとんどいないみたい…」


 行きかう人達は、僕たちが珍しいのかじろじろ見ている。またある人は僕たちの写真を撮影している。


「ねえ。この世界だとキラが探しているユキ君は普通の人間なの? それとも後付けでネコミミとか尻尾つけているのかな?」僕は素朴な疑問をキラにぶつけた。


「どうだろうね。まずは普通の人間の目撃情報を収集しようか…」キラは最寄りの学校へ行こうと言い出した。


「学校ねぇ…」僕はキラの後をついて歩くことにした。


☆☆☆


 僕たちは、もよりの学校へと足を運んだ。

 門の守衛さんに、人探しをしていて学校の中に入らせてとキラが言う。キラはTMRを見せて身元の保証を証明する。


「いいよ。迷惑にならないようにね…」と守衛さんは言う。


「なんかあっさり学校の中に入れてくれたね…」僕はキラに言う。


「うん。TMRがあればね。TMRの発行時にかなり詳しく身元調査されるんだよ。未来の時点において、犯罪を犯す人にはTMRが発行されない… だから信用されているんだよ…」


「そっか。いいなあ。僕もほしいなあ…」シマが言う。


「食い逃げをした人にはTMRは発行されないかな…」キラはにやにやしながら言う。


「ひどいよ… 食い逃げって。わざとやったわけではないし…」シマはキツネ尻尾をびたんとキラにうちつける。


「ちなみに、まだ君は食い逃げ犯人として元の世界で指名手配中だよ」キラが言う。


「えー。なんで… もう… お店の人に謝って財布を取り出したら、お店の怖い人にどなられて、財布ごと置いてきたのに… 怖い顔の店員がどなるから、きちんと謝ることができなかっただけだし…」シマはさらにきつねしっぽをびたんびたんとキラにうちつけた。

「まあ、いいさ。そんなことよりユキ君を探そう… まずは職員室に行って先生に聞いてみよう…」

キラは、職員室へとあしを運ぶ。今は授業中みたい。廊下にはだれも歩いていない。僕たちだけ。


 職員室のドアをガラガラとあける。

「こんにちはぁ…」そっと声を出しながら職員室へ入る。職員室は苦手。怒られるときとかにしか入ったことがない。今は学校に行っていない。あと1か月ぐらいしたら、ユキ君とかキララ、ミミちゃん、ラミちゃんと同じ学校へ通うことになるはず…


 キラは、近くの忙しくなさそうにしている先生を見つけて、声をかける。


「… うん。そうだな… 人間ね… 2人いるよ… 最近転校してきてね… 写真ある?」先生はキラに聞く。


「うん。これ…」キラはユキ君の写真を見せる。


「うん。違うね。別人だよ… でも隣町でこの子みかけたことがある気がする… 道に座り込んでいたから声をかけたんだよ。そうしたら大丈夫って、言ってたなぁ…」と先生。


「うん。ありがと」キラは先生にお礼を言う。


☆☆☆


 僕とキラは、職員室を出て、廊下を曲がる。玄関で靴をはいてから、玄関の壁にTMRで自動ドアをあける。


 ユキ君に似た人が目撃された隣町へと向かう。


 「人はまばらだね…」僕はキラに言う。あたりをきょろきょろを見回す。


「うんたしかに。田舎のほうだからね… 子供たちは学校に行っているか、社会人は都会に仕事へ出ているかだね。だから探しやすいのかもね。こんなところにいる子供はわけありなのかも、ってさ…」

 キラは駅に向かうよと言い、ついてきてと言われる。


 僕は歩きながらきょろきょろとあたりを見る。ユキ君に似た人がいないかをさがすためだ。


 うん。なんかトイレに行きたくなってきた。


「ねえ。キラ。トイレに行きたくなっちゃった」僕は公園とか、コンビニとかトイレがありそうなところを探す。


「じゃあ。あのお店に入ろう…」キラは先にあるコンビニを指さした。


 僕はコンビニに入り、店の奥のほうのトイレへと入る。


 はあ。じょろじょろとお水を出す。


 手を洗い、トイレから出る。


 トイレから出てキラを探す。けれどもキラはいない。


 あれ? キラどこ行ったのかな? 僕はお店から出て通りを見る。


 いない。あれ? 店の中?


 僕はお店の中に再び入り、キラの姿を探す。


 やっぱりいない。どこに行ったのかな? ひょっとしてトイレ? 大のほう?


 僕はトイレに入る。大のほうをノックする。いない。


 うーん。どこ行った。僕はコンビニの店員の人に話しかける。


「ねえ。ここにいた、羽が生えた子知らない?」僕はコンビニの店員の人に聞いた。


「さっき、数人の人達にむりやり連れていかれたよ。ところで君。きつねのハーフ? めずらしいね。写真とらせてよ…」

 ネコミミの店員の人が言う。


 店員の人に写真をとられているとき、女の人が数名コンビニに入ってきた。女子高校生みたい。なんでこの時間帯にいるんだろう。僕は思った。けれども数名の女子がこっちを見ている。そして話しかけてきた。


「ねえ。あなたきつねのハーフ? これ偽物じゃなくて本物?」

「あたし初めてみた。ねえ尻尾さわっていい?」

「あたしもー」

 なんか女子に人気となるシマ。


「うん。いいよ。いくらでも触っていいよ… ほらしっぽ。耳もでっかいよ…」シマは頭を下げた。


「あー。尻尾。太くてふっかふか」

「あー。この耳でっかくて気持ちいい」

「ふっさふさね…」


 女子に体をいろいろ触られて気分が良くなるシマ。


「おっ。めずらしいのがいるな… あたいに貸してくれ…」いかにもスケバンな感じの女子高校生がコンビニに入ってきた。ぺたんこのカバンをわきに抱えている。


 スケバンの子にむりやり肩を組まされて、コンビニの外に連れ出される。

 そして、スケバンの子の知り合いの女子高校生数名もそばに寄ってきた。

「これ、見世物にいいんじゃないか? テレビ局に売り込もう。金くれるかな? 拉致しようぜ…」

 げっ。なんだよ。この人達…

 僕は、スケバンの人の腕をふりほどこうとした。けれども、がっちりと腕をつかまれているから、逃げ出せない。


 そのうち、スケバン女の知り合いらしい若造が乗った車が目の前にとまった。


「ちょっとこい」強制的に、車に乗せられる。僕の後からスケバン女も乗り込んできた。


 スケバン女は僕の尻尾をつかんでいる。


「ふっかふかだな… これ、はさみでちょっきんと切ったら痛いのか?」


「何をぶっそうな事言っているの。当たり前でしょ。あんたもネコミミと尻尾持っているでしょ」

 僕は反対側のドアから飛び降りようかと考えながらスケバン女に言った。


「あたいのは、つけ耳と後付けの尻尾さ。偽物なんだよ…

なあ知っているか? きつねのハーフはこの世に12人しかいないんだぜ。トリのハーフは7人だっけか。見世物にしたらたっぷり金が入る… さてどうしようか。スクーターほしいんだよな。それとブランドものの財布もほしいんだよな。あれとあれ、これとこれも買って。ぐはは…」と独り言を言い出した。


 赤信号で減速した車。そのときにドアを開けようとする。けれども開かない。ロックされているみたいだ。


 僕はスケバン女のほうを見て、上にのしかかった。

 しっぽをスケバン女の顔に乗せる。その上から、スケバン女の顔にお尻で座り込む。


「こら。何すんだよ…」僕はそのままスケバン女の上を移動して、ドアを開ける。


 車は走り出していたが、ドアが空いたので道に転がるようにして飛び降りる。


 腕のひじを道路にこすってしまったが、なんとか飛び降りることができた。

 僕はあわてて、そばの洋服屋さんに入る。


 お店の奥まで進み。帽子と猫の後付けしっぽを手に取る。


 着替え用のルームが開いているのを見つけて、そばにあった服もつかみ、カーテンを閉める。

 そしてズボンを脱ぎ、別の服に着替え、自分のきつねしっぽをズボンの中に入れて、

 あとづけの猫しっぽをズボンの上からつける。

 帽子をかぶり、きつね耳を隠す。


 そして着替え用のルームから出て、僕はポケットからお金を出した。

 そういえばこのお金。使えるのかな心配だ。そうだ、あれがあった。と思いついて小さい金貨を出した。もしものときのために、サイバーパンクの世界で買っておいたものだ。

 僕は店員の人を呼び、今着ている服と帽子の値段を聞いた。

 どうやら小さい金貨一枚で買えそうだ。

 僕は金貨と交換をお願いし、そのままお店を出ることにした。

 お店の人は、金貨だともらいすぎになるので、代わりにもう一組の猫のつけ尻尾と、上着。帽子を買い物袋に入れてくれた。


 さて、キラはどこ行ったのかな? あ。でもそれよりスケバン女。近くにいないかな?


 僕は右を見て、左を見て確認する。すると、道路の向こう側にスケバン女が立っているのが見えた。


 きょろきょろあたりを見回している。

 僕がスケバン女を見ていると、女と目があった。


 やば。僕は後付けの猫しっぽを見せつけるように体の向きをかえた。


 すると、スケバン女は僕のほうを見るのをやめて、方向転換をして歩いて行った。


「やっぱり、ネコのハーフじゃないと目立つんだね。じゃあキラも僕と同じように捕まったんだ…

まあキラのことだから逃げてくると思うけど… じゃあどうしよう。そうだ。駅で待っていようかな」


 駅に行く予定だったことを思い出した。


 僕は道を歩いている親切そうなおばあさんに声をかける。駅の方角を聞くと、スケバン女が歩いて行った方向とは逆の方向の道を進めば見えてくると言った。


「ありがと」僕はおばあさんにお礼を言って、道を歩く。


 今はきつねの尻尾やきつね耳は隠している。後付けの猫しっぽをつけているので目立たない。


☆☆☆


 僕は駅にたどり着く。


 かべによりかかっている長身の子。ネコミミをつけている。あれ? ひょっとして…

 僕はその人に近づき、声をかけた。


「ねえ」


「おわっ? あれ? シマ君? 君も変装したんだ… ああ。良かった見つかって…」

 最初僕に声をかけられてびっくりしたようだったけど、シマだとわかって安心したようだ。


「ねえ。キラも捕まってたの? 僕は不良のスケバン女に拉致されそうになって、車の中から飛び降りて逃げてきたよ…」


「僕もだ。いきなり数人の男の人に囲まれて外へ連れていかれたんだよ… いやぁ。ひどい目にあったよ…」


 と話しているといつのまにか、近くに2名の男の人がよってきて、僕とキラの背中に金属の何かをあてた。


「動かないでくれ。おとなしく従ってもらおう… 君はキラだな。TMRは使わないでおいてもらおうか。こっちへ来るんだ…」


「げっ」またかよ…シマは両手をあげた。


 男の人に後ろ手にされて、歩いて行くように言われる。そして道に停まっている黒いバンが目に入る。

 それに乗り込めということだ。


 僕とキラはバンの後部座席へと乗り込む。


「ねえ。僕たちになんの用?」キラはおちついた感じで、男2人に問いかける。


男の人は「詳細は知らん。上の方が合いたいそうだ…」とそっけなく言った。


☆☆☆


 バンが動き出し、しばらく道路を走る。そしてがこんがこんと何かの段を乗り上げた感じと、何かの傾斜を上る感じ。


 バンのドアが開く。後部座席の窓は黒いラッカーで塗りつぶされていたので、どこを走ったのかわからない。


 バンから出ると、何かの中。

 軍用機の中のような、大きな輸送用の飛行機の中だった。


「キラ。お前のTMRはここの中では使えないからな。念のため言っておく…」男の人が言う。


「えっ。そんなことはないはずなんだけど… ん? あ。本当だ。なんで…」キラはTMRを見ていたが、男の人を見た。


「この機体はTMRの機能をキャンセルするような機能をONにしてある。逃げることはできない。ちなみに暴力をふるおうとしても無駄だ。この機体は遠隔操作である地点へ向かっている。我々を全員倒しても、行先は変更できない…」


「ちっ」キラが舌打ちした。


 僕は帽子をとって、きつね耳を出した。そしてズボンを脱ぎ始めた。


 男の人は見たが気にしてないようだった。


 僕はいつものズボンにはきなおして、きつねしっぽをズボンから出した。


 キラはそれを見て、キラも上着を脱ぎだした。そして隠していた背中の羽を外にだした。

 キラはううん。羽をのばした。


「やっぱり、尻尾。外に出しているほうがいいね。窮屈だったよ…」と僕。


「そうだね。僕も羽を服の中にしまっていたから、羽をのばせなくてね…」とキラ。


 座っていよう。とキラは僕に言う。たしかにそうだ。目的地に到着するまでは何もすることがない。


 僕は男の人に聞いた「ねえ。僕たちは何をしたの? それともこれからどうなるの?」


「あぁ?。さあてな。詳しいことは知らん」と男の人はそっけない返答をした。


「ところで、飲み物とかない? のどがかわいたよ」シマは言う。


「だったら、前のほうに冷蔵庫があるから勝手に出してきて飲め…」男の人は前方を指さした。


「うん。キラもいる?」僕は椅子から立ち上がった。


「じゃあ。僕にも持ってきて…」キラは言ってから窓の外を見た。


 僕は前方へと歩いて行き、冷蔵庫をあけた。


 空だった。

「なんだよ。空かよ…」僕はつぶやいた。


「ああ? それじゃない。その奥にもあるだろう。小さい冷蔵庫が…」と男の人が言う。


「へっ? あ。あれか」僕は前方の壁にそなえつけられている別の冷蔵庫を見つけた。

 その冷蔵庫を開けると、水と他にジンジャーエールが入っていた。僕はジンジャーエールを2つ取り出して持っていくことにした。冷えている飲み物。


☆☆☆


 僕とキラは、椅子に座って到着まで待つ。

 飛行機は順調に水平飛行をしている。今は海の上だ。


 30分ぐらいさらに飛行を続ける。すると、下に見える景色が、海の上から陸地になった。

 山を越えて、山岳地帯になり、山岳地帯から抜けて平地の森見える場所になった。


 がこん。音がした。


「なんだ。どうした?」男の人2人が立ち上がる。


 男の人が前方の操縦室に入っていった。


「なんだろうね…」僕は窓から外を見ていた。

 順調にまっすぐ飛んでいたが、ちょっと進路が変わったようだ。


 しばらくしても男の人達は戻って来なかった。


「ねえ。戻ってくるの遅くない?」僕シマはキラに言った。


「うん。たしかにね…」


 僕シマは、立ち上がり、前の操縦室のほうへと歩いて行った。


 こんこん。ノックしてみる。


 僕は操縦室のドアをあけた。


「へっ?」僕は勝手に声が出てた。男の人2人が入っていった操縦室には誰もいなかった。


 飛行機の計器には、リモートで操作中の文字が出ているだけ。飛行機の操縦桿は2つとも外されている。


 高度を見る。


「ねえ。何かあったのかな?」キラが入ってきた。


「た。た。たいへんだよ。男の人がいないよ…それと高度が下がっているよ…」

 僕はキラに言った。


「だって、男の人はこの部屋へ入っていったのを見たよね。うーん。どこ行ったんだろう。それと…」


 キラも計器に表示されている高度計を見た。ぐんぐん下がっている。


「空港とか着陸できそうなところは見えないよね… 変じゃない?」僕は計器のボタンを一つ押してみた。


 がこん。音がした。

「ちょっと何やっているの。墜落したらどうするの。えーとTMRはと… だめだね…」


 キラのTMRはまだ使えない。


 警報が鳴った。


『エンジンが故障… すべてのエンジンが停止。緊急着陸シーケンスに切り替えます… 切り替え失敗。機内に残っている人がいる場合は脱出をしてください。パラシュートは操縦室の後ろに備えつけられてます。繰り返します』


「げっ。なんだよもう…」シマは青ざめた顔でキラを見た。


「ほーら。ボタンを押すからでしょ…どうするのこれ…」


「僕じゃないよ… ねえキラどうしよう…」


 パラシュートはなかった。きっと元々置いてあったんだろう。無くなっていた。


 高度が下がっている。あと数分はまだ大丈夫だと思うけど… それに操縦桿。取り外されているので操作もできない。もっとも飛行機の操縦はできないんだけど…


「困ったな。幸い僕には羽があるから、飛び降りても羽の空気抵抗でなんとかなるかもだけど。問題はシマ君だよね。シマ君はその大きな尻尾をぶんぶんふりまわして、ヘリコプターみたいに飛べないのかな?」キラはしっぽを見た。


「何言っているの。そんなことを言っている場合じゃないでしょ。どうするの墜落するよ…」


そうだね。とキラは冷静に…「どこか前方に湖とか、川とかないかな。飛び降りれば助かるかも…」


「な。ないよ。平地とまばらに生えている森の木だけ… ひょっとして墜落したら助からない?」

 僕は、キラを見た。この中ではいちばん年上の頼りになる子。


「うん。たぶん。飛行機は地面にたたきつけられて、運がよければ体はバラバラにならないで死ぬぐらいかもね。運がわるければ、たたきつけられた衝撃で体はばらばらだよ。衝突の影響で爆発して燃えるかも」


「えー。やだ。なんとかならないの? TMRは。ねえTMRは?」

 僕はあわてた。


 やばい。これ。やばい。


「TMRはまだだめ。使えない… さて、どうしようか」


 キラは冷静だ。


「ねえ。なんでおちついてられるの? 死ぬんだよ… ねえ。きら。ねえ…

あー。失敗した。ミアお姉さんと寝ているときに、どさくさにまぎれておっぱいをもんでおけばよかった」シマが言った。


「ぷっ。何言っているの。死ぬ前に本音が出ると言うけどね。それなんだ… 僕はユキ君だね…見つけることができずだ。TMRが使えれば脱出できるんだけど… このままだと無理だね… 誰か助けに来てくれるか… が希望かな… ところで墜落まであと45秒なんだけど…」


「へっ。な。なんでそれだけなの? もっと数十分あるかと思っていたよ…」


「なんか高度が思った以上より下がっていてね… 神様にいのる?」


「ねえ。なんでキラは冷静なの。ねえ。… ぎゃーどうしよう… えーとあと何秒?」


 僕は前を見た。

 

 かなり近づいている地面。


「うん。たぶんあと12秒ぐらい…」


「ぎゃー。だめ。もうだめ…」僕はだんだん近づいている地面を見続けていた。


 地面の木だけではなく、地面に生えている草も見ることができるぐらいの高度。


「あと3秒…」キラが言った。


「ぎゃー。もうだめ…」


「2、1」キラが言ったときだった。


 どごん。床がゆれた。


 ゆれた?


 飛行機の床が斜めになったままとまり。目の前の窓には。『墜落』との画面表示が出ていた。


「へ?」僕はキラの顔を見た。


 そして、目の前が明るくなり、さらに明るくなり、真っ白い光で何も見えなくなった。


☆☆☆


 あたり一面のお花畑。


 僕。シマはお花畑に寝ていた。


「は? 何これ。僕しんだの?」僕は上半身を起こして、お花に触った。


「ぎゃー。ほんとうにしんじゃった。僕14歳だったのに… 恋人もできないまましんじゃった。ああー」と叫んだ。


「ぷっ」誰かの声。


 後ろを見るとキラ。キラも地面に寝ていたが上半身を起こした。


 キラは真上に向かって言った。「もういいよ。解除して…」


「は?」僕は真上を見た。


 いきなり、お花畑は消えた。


 カプセルの中にいた。

 カプセルの上部が開き、まぶしい光が見えた。


 まぶしい光は建物の中の照明だ。


☆☆☆


「はい。これ… どっきり」かわいらしいネコミミの子が看板を持って立っているのが見えた。

『どっきり大成功』


「へっ」僕は言いながら、カプセルの中から出た。


 数メートル離れたところにはテレビカメラが数台。そして観客。


「やあ。やあ。すっかり騙されたね。シマ君」キラもカプセルから出て来て言った。


「は? なにこれ… さっきの墜落は?」僕はキラに聞いた。


「ああ。どっきりだよ。再現度が良くできている仮想現実。君はカプセルの中にいたんだよ…

スケバン女の車に乗った直後に眠らされてね… 寝ている君を運んでカプセルに入れて、中の仮想現実の中で、スケバン女の乗っている車の中の場面からの続きにしたのさ…」


「はあ。あのときの… すっかり騙されたよ…」僕シマは、床にすわりこんだ。そしてしっぽをびたんと床にうちつける。


「さて。僕はキラ。ユキという人を探しているんだけど… 目撃情報があればこの連絡先まで…」

 とキラは言った。


 どうやら、人探しをする代わりにどっきりをしかけるというものだった。

 この世界にはネコミミの人ばかり、で他のハーフの人はめずらしい。ちょうど生番組でどっきりをやるから、そこに紛れ込ませてもらったとキラは言った。そしてその出演のお礼としてユキ君の目撃情報を探すということをキラがテレビの前で言う。ということだった。


「何だよ… 本当に死ぬかと思ったよ… あ。ところで…」

 僕はキラに聞いた。僕たちが見ていた場面。この会場の人達とかテレビ放送だよね。


「ああ。全部テレビで中継されてたよ。ミアお姉さんのおっぱい… というところもね… そのときの映像もあるよ… それとここにいる人達の反応とかも…」


 それを聞いて僕は…

 顔が真っ赤になった「ぎゃー。みんな忘れて…」


「ところでもう一つ。君には仕事があるんだよ。ほら。言って。君の元いた世界のお店の人に向かって言って」キラは紙を渡してきた。


 僕は紙を見てから、キラの表情を見た。


 くっ。あとで覚えていて…

「僕は異世界から来ました。そしてごめんなさい。食い逃げをして、あとで謝りに行きます」と言った。そしてそのまま土下座した。

 ぱちぱち。キラが拍手した「いいよ。この映像。君の元の世界に届けてあげる」


 キラは僕が元いた世界に行ったらしい。そこでお店の人と会って『全世界の人の前で謝ったら食い逃げのことを許してやる』と言っていたのでこれを企画したとあった。ユキ君を探すのも目的なんだけど。


 映像ファイルを届けるために、キラはTMRで移動すると言った。


 はあ。僕はため息をついた。すると、超可愛いネコミミの子が手をさしだしてきた「ねえ立てる?」


 僕はそのネコミミの子を見た。とっても優しい子。


「うん。ありがと…」にこっとした。うーんいい子だ。天使のようだ。キラには羽があるけど。天使じゃないや。僕を騙して… ひどいや… と僕は言った。


「そうじゃないのよ… キラさん。あなたのことを思って企画したの。異世界だったのが救い。君のも元の世界や、今あなたが住んでいる世界ではこれは放送されないからね」

 とってもかわいいネコミミの子は、僕のほっぺたにちゅーをしてきた。


 にこっと笑ってから後ろに下がっていった。


 僕はぽーとした。


☆☆☆


 その後、ユキ君の目撃情報があった。残念ながらキラの世界のユキ君ではなかったが、別の異世界から飛ばされてきたユキ君は元の世界へと帰って行った。


☆☆☆


「ねえ。キラ…」僕はびたんとキラの太ももにきつね尻尾をぶつけた。


「ごめんごめん。騙してさ… まあ水に流して忘れてよ… 君の元いた世界。食い逃げのことは許してくれたよ… 映像を見せてさ… 笑っていたよ…」


 僕はむかついた。


 僕はキラに襲い掛かった。キラの羽の付け根。すりすりした。


「あ。ちょっと。そこだめ…だめだから…」キラはもがく。


 ララお姉さんにキラの弱点を聞いていた。羽の付け根。こしょこしょ。すりすりされると、敏感に反応するということだった。


「ほれほれ…」僕はキラに抱きついて、羽の付け根をさわる。


「君がそうするなら僕はこうだよ…」


 シマのきつね耳に息がかかった。耳ふーふーだ。


「ぎゃん」僕は1メートルぐらい飛び上がった。


☆☆☆


「ねえ。何やっているの?」キラとシマがじゃれているところ。そこをミミちゃんが見ていた。


「なんでもない」

「なんでもないよ」

 キラと僕は同時に言った。


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