救難信号を出している宇宙船と海賊(4)
僕は目を開けた。
固い床が見える。
僕は床に倒れていた。そして腕も動かなかった。
僕はやっとのことで首を動かす…
キララも同じく倒れていて、こっちを見ているのに気が付いた。
「き。きらら…」
「あ。やっと気が付いたんだね… 私もこのざまさ…
体はしびれて動かないんだよ。ねえ。ユキ君も?」
宇宙船の気密の問題は自動修復されたようだ。
そして何かがおかしい。
「ねえ。何があったの…」
僕は腕も動かない。足も動かない。首から上だけ動く状態でキララを見る。
「どうやら狙撃されたらしいね。海賊の一見がまだ残っていたんだよ…
長距離射撃かな… 運よく急所は外れたみたいなんだけど、ちょっと前に誰か入ってきて、
エネルギーパックを5次まで持っていかれたんだよ。この宇宙船のエネルギーは予備の緊急時に使うエネルギーだけで動いているから、あと1日だよ… それ以降は船内の気温が下がっていくよ…」
「そう… なんとかならないの?」
「うん。だめみたい…私も腕が動かないから、TMRを見ることができない…
救難信号を出すこともできないんだ…」
「そう…」僕も足や腕を動かそうとするが、しびれて動かせない。
「眠って体力を温存しよう… ひょっとしたら時間がたったらしびれがおさまるかもしれない…」
「うん。そうする…」僕は目を閉じた。
☆☆☆
僕は目を開けた。宇宙船の床だった。3000メートルの鉱石が砕けた鉱物でできた海岸ではなかった。
僕はキララを見た。首だけが動くのはおんなじだ。
キララがちょっと動いた。
僕は足をなんとかして動かそうとした。でも動かなかった。
でも腰はちょっと動かすことができるようになった。
いもむしのように何とか腰を動かして、キララのそばになんとかして移動してみることにした。
うん。うんしょ。足と腕に力が入らないからなかなか思うように移動できない…
☆☆☆
僕は動くのをやめて、また休むことにした。
そして数刻。きっと40分ぐらいたったころだろうか。キララが動き、こっちを見た。
「やあ」キララは耳としっぽを動かした。
「キララ。耳としっぽは動くようになったの?」
「うん。こんなもの動いてもしょうがないんだけどね…」
キララは手とか足とか腰とか動かそうとしているみたいだった。
「動かない? 腰とか…」首だけ動かしているキララを見て言う。
「うん。腕も足も腰も動かないよ… 耳としっぽだけ…」
「そう。僕は腰は動くようになってきたよ…」
僕はもがいてみる。
「あんまり無理しなくていいよ。体力が無くなって力つきちゃうよ…」
「うん。でも… なるだけキララの近くに行きたくて…」
僕はもがく。
やっとさっきより1メートルぐらいキララに近づくことができた。
「あんまり無理しないでね… 私は少し眠るよ… 寝たらしびれがとれるかもしれないし…」
「うん」
☆☆☆
僕は目を開けた。いつのまにか寝てたらしい。
キララの寝息が聞こえる。
思ったより近かった。そういえばさっきもがいていたんだけど、結構キララと近くまで近づいた。
あとどのぐらいだろう… 3メートルぐらい?
僕はまたもがいてみる。
腕はまだしびれて動かない。足もまだ動かない。
もっともがいてみる。腰をひねってみる。
そのとき。ずきんと腰にすごい痛みを感じた。
「あぐっ」だめだ。腰が痛すぎる。
痛みを我慢するが、結構痛い。
僕は動けなくなった。
☆☆☆
僕はまた目を開けた。まだ宇宙船の床だった。
キララはさっきより近くにいる。
キララは膝が曲がるようになり、なんとかしてこっちのほうに進んできたみたいだ。
「あと1メートルぐらいだよ… なんとかしてユキ君のところに行くからね…」
「うん。あまり無理しないでもいいよ…けどキララとくっつきたい…」
「うん。頑張るよ… ちょっとずつ。ちょっとずつ動いてみる」
☆☆☆
僕はまた目を開けた。
キララと目が合った。
「やあ。キララ」
「これ見てよ… 右の腕が少し動くようになったんだ。ユキ君のポケットにもうすぐて届きそう…」
キララは体をもがいてみる。
僕は体を動かそうとするが、腰に鋭い痛みがはしった。
「ぐっ」だめだった。
「ねえ。大丈夫? 僕はもうちょっとでユキ君のポケットの中に手が入りそう…」
僕は腰の痛みによって、気を失いかけていた。
キララの手が僕のポケットの中に入る。
そして船内放送。
『この宇宙船のエネルギーは残り60秒となりました。すみやかにエネルギーパックを交換するか、退避してください』
「ねえ。ユキ君。これで楽になれるかも… 凍えて死ぬよりいいよね…」
というキララの声が聞こえた。
僕はそれに応じることができなかった。
☆
誰かによって僕の肩が揺さぶられる。
そして聞いたことがある声がして、僕の体が床から持ち上げられた。
「今助けてあげるからね…」
僕は目が見えなくなっていた。誰かな…
抱っこされたのがわかった。
暖かい場所へと移動する。
ソファのような柔らかいところに下される。そして体の上にかけられる毛布。
そして、腕にちくっとする痛み。
誰かの気配は遠のいていった。
☆
そして僕は目を開けた。
目に入ってきたのは、テーブル。テーブルの向こうのソファの上にキララ。
キララが寝ていた。毛布が掛けられている。
僕は自分の体を見た。
キララと同じように毛布が上にかけられていて、いつのまにか腕とか足は動くようになっていた。
僕は起き上がる。
あれ…ここって…
僕はソファから、上半身だけを起こしてみる。
宇宙船の中。
レンタルした宇宙船のような内装。
でもこのソファとかテーブルとか、船内の絨毯というか敷物が違う。
こっちのほうが豪華になっていて、内装もいい感じになっていた。
誰かが階下から上がってきた。
「やあ。気が付いたかい?」
非常に見覚えのある姿。トリのハーフ。背中に羽がある。
イケメン女子。な感じの人。
「き。きみはキラ…」
「うん。良かった気が付いて… もう少しで宇宙を数千年漂うところだったよ…
安心していいよ。キララももうすぐで意識を取り戻すと思うから…」
キラはキララの耳をなでた。
「でもなんで… なんで。キラがここにいるの?」
キラはハーフの転換手術を受けて、狐のハーフのキララとして生まれ変わったはずだった。
「うーん」キララは耳に触られたことをきっかけとして目を開けた。
「あ。あれ… 君って…」
キララもキラを見ている。
「キララも目がさめたんだね… 僕が注射した薬が効いたんだね…あと10分ぐらいするとだいぶよくなるからね… あったかいショウガ入りの紅茶でもいれるよ…」
キラは階下へと降りて行った。階下には簡易キッチンがあるはずだった。
それにしても、この宇宙船。僕たちがレンタルした宇宙船に似ている… でも違う。
僕は立ち上がった。まだふらふらっとする。
キララは上半身を起こした。
僕はキララの隣に座る。そしてキララを抱きしめた。
「僕たち助かったんだ…」
「うん…」
☆☆☆
僕たちはソファに並んで座っていて、膝の上には毛布をかけた状態で、キラがいれてくれたショウガの紅茶をふーふしながらのんでいた。
「僕が発見したときのことを説明するね…」
キラは僕たちに状況を話してくれた。
海賊の長距離からの狙撃により最初の怪我を負った後、潜入してきた海賊2名によりしびれ薬を腰に打たれたのだった。
その後、エネルギーパックを1次から5次まで奪われて船内に放置されたらしい。
僕とキララはそれを聞いて、2人で見つめあった。
「よく。見つけてくれたね…」
「うん」
「まあ。たまたまなんだけど… 未来の4000年の図書館でニュース記事を見たんだ。可哀想な遭難という記事…」
「それは…」僕はキラに聞いた。
「うん。遭難したレンタルの宇宙船を偶然発見したニュース記者に務める人が書いた記事。
宇宙船の中から西暦2020年代ごろの2人の遺体が発見されたというものだったんだよ。
身体的な特徴から日本人と狐のハーフの子供だったのがわかったんだけど、所持していたTMRからキララとユキという名前だということがわかったんだ。で… 遭難した時代をしらべて… やっと場所と時間を特定して救出したのさ…」
僕はごくりとつばをのみこんで言った「ねえ。今。遺体って」
「うん。その世界にいたときの未来での話。その後TMRで異世界のキラとメッセージ交換をして、異世界のキラがいる世界でも事件がなかったか調べてもらってね…
その世界でも同じ事件があったから、僕は異世界のキラがいる世界へと移動して、異世界のキラは僕のいた世界へと移動してから過去の君たちを遭難する直前で救出したのさ…」
「ん? 異世界のキラ…」
「ああ。言ってなかったね。このTMRは離れた場所。時間。そして世界と世界の間を移動できるんだよ。もう一人の異世界のキラも同じなんだけど…そして僕は別の世界から来たのさ…」
「うーんなんか。びっくり…私のTMRは管理者用のものなんだけど、そんな機能はないよ…」
狐耳のキララは耳をぴこぴこ動かしながら言う。
「うん。僕はたまたまなのかも。前に超お金持ちを助けたことがあって、星系を3つもらったのさ。
そのうちの1つの惑星に失われた文明の遺跡があって、TMRに接続することができるモジュールが見つかってね。それを西暦4000年の世界で解析してもらったら、異世界を移動できるものだったんだよ…
きっとこの世界にもあると思うけど… カザー星系にある異世界間を移動できる装置と同じ種類のものだよ…」
「そうなんだ…私の場合は超お金持ちから2個の星系をもらったんだよ…」
「うん。たぶん君がもらっていない星系から見つかったんだよ…」
羽を広げながら言うキラ。
「あと。TMRに救難信号が届いて映像を再生したら、海賊の事故に巻き込まれた僕たちが映っていたんだけど…」僕はキラに説明をした。
「うん。それも見させてもらったよ… どうやら異世界のユキ君の腕に付けられたTMRから送信されたみたい…
海賊が『この世から消えな』と言っていたのは覚えているかな?
そのままの意味だよ、その時代のユキ君は撃たれて世界間を移動したんだよ…
移動した先でTMRから救難信号ともしものときに動くレコーダー機能で記録された映像が再生された」
「それってこういうことかな…」頭のいいキララは解説した。
つまり最初に海賊に襲われたユキ君は海賊に打たれて世界Aから世界Bへと移動した。世界Bで救難信号とレコーダーの映像がその世界のキララのTMRへと送信された。
映像を見た異世界の君たちが海賊の事件に巻き込まれて、その世界のユキ君が世界Bから世界Cへと移動した。そして世界Bのユキ君のTMRから世界CのキララのTMRへと映像が送信された。
「そうなのか。じゃあ。あの3000メートルの砂浜がある砂浜に僕がいる?」
「うん。たぶん。そのユキ君もTMRを持っているから、そのTMRでたどっていくとキララにたどり着けるよ… その場合は、ユキ君は世界間を移動しているから、世界間を移動しないと元に戻れない。
世界を移動したらまた3000メートルの砂浜があるところに行ってユキ君を探す。その後世界間を移動してキララを探す。という手順でみんな探せる」とキラは解説してくれた。
「なんか安心した」僕はキララのほうを見て言う。
「あの映像は、異世界の僕たちだったんだね…」
☆☆☆
キラは僕たちがレンタルした宇宙船のまるごとコピーを隣に作ることにした。
異世界のテクノロジーらしい。
コピーした宇宙船に僕たちの生体パターンをコピーした稼働型デバイスを残して、腐食性のガスをちょっとずつ漏れるように操作をした。
「あとは数千年たってから記者に偶然この宇宙船を発見させればいいよ…」キラは細工をすませてから、僕たちを元々のレンタルした宇宙船の中に戻してくれた。
「ねえ。キラの宇宙船。このレンタルした宇宙船とそっくりなんだけど…」僕はキラに聞いてみた。
「うん。遭難したレンタルの宇宙船のことを調べてた時に、この宇宙船の型が気に入ってユキ君達が借りた時間より100年ぐらいあとかな、同型の宇宙船が売りに出されているのを見つけて購入したんだよ。そしていい感じに改造したの…」
「そうなんだ。だからそっくりなんだ…」
僕たちは異世界のキラにお礼を言い、別れることにした。
「本当に助けてくれてありがとう」キララは、キラにハグした。
そしてキラは、僕ユキにハグをしてきた。
あ。この感じ。トリのハーフのときのキラそのまんまだ。僕はキラの頭をなでてみた。
鳥のハーフの頭のなでぽいんと。なでなでした。
「あ。ありがと。なでかたうまいね…」キラは目を細めてたみたい…
じゃあもう行くよ。異世界のユキ君とキララを助けに行かないと…
と言って、キララは宇宙船で姿を消した。
☆☆☆
「いやぁ。一時はどうなるかと思ったよ。まさか異世界のキラに助けられるなんて…」キララはキラに助けられたことを思い出しながら言う。
「なんか。あのキラもイケメン女子だね… キララもなんだけど…」
「え。僕。いや私もそうなのかな…」
「うん。ねえ。図書館へと戻るまでの間抱っこしていていい?」
僕はキララとくっつきたかった。
「うん。いいよ。展望室のソファで…」
「移動速度は遅めにして…図書館についたら、時間移動して夕方に帰ってきたことにしようね…」
キララはソファで僕にくっついてきた。
毛布をとり、ソファに座った僕たちの膝の上に毛布を掛けてくっついてひと眠りすることにした。




