救難信号を出している宇宙船と海賊(3)
映像のとおりの順で海賊を電気の銃でしびれさせ、捕虜になっている3人を助け出した。
「ねえ。キララ。この後はお礼の物を受け取らずに帰るの?」
「いや。そのまま、船長と一緒に宇宙船に行くよ… たぶん海賊は自動ドアの妨害が止まっているのに気が付いているはず…
映像と違う行動をすると、違う結果になって未来を予知できないから…」
キララと僕は船長の後について歩く。
部下にお礼の品物を取りに行かせてから時間がたった。
「なんか遅いな…」船長が言った。
「ちょっと見てくる」ジンは立ち上がって部屋のドアを開けた。
すると「おい。動くなよ…」
まったく見たことがない人が廊下にいた、そして部下は両手を上げていた。
海賊だった。
他にも仲間がいたらしい。
「自動ドアの妨害電波が止まっているからおかしいと思ったぜ。船内の仲間が気絶させられているんだからな… 近くにとまっていた宇宙船の中を調べたら、この船に生体反応があったから進入させてもらった。ちょっとでも動いたらすぐに殺す…」
「ちっ」ジンは言った。
船長は前に出た。
「おい。動くなって言ったろう…」
「いや。待て。俺だ。同業だ仲間を忘れたのかよ…」
船長はなれなれしく、武器を構えている人に向かっていく。
「えーと誰だったかな。おお。そうだ。お前か…」海賊は銃をちょっと下げて、船長のほうに歩いて行く…
船長は海賊を取り押さえようとする。
ぱん。
音がした。
この海賊も、火薬の力で弾を発射するタイプの武器を手に持っていた。
「ぐっ」船長が床に倒れる。
「面構えが俺たちに似てるからって、仲間だと思うわけないだろう… 仲間には認識番号がついている発進機を持たせてるんだよ…」
海賊は倒れた船長をまたいで、僕たちのそばへと寄ってくる。
僕とキララはゆっくりと動く。
「ねえ。海賊さん。いいものがあるんだよ。欲しくはないかい?」
キララは海賊に話しかける。
「ああん? そんなものはいらねえ。仲間たちをしびれさせたのはお前たちかな?」
「あなたたちは、海賊でしょ。悪いことはやめて自首したらどうなの?」
僕は海賊に向かって言う。
「何言っているんだ。おめえ。ばかか。そう簡単に海賊はやめられねえよ。
稼ぎがいいんだぜ。めったに人を殺めることはねえし。
捕まったら。即死刑になるやつもいるが… ほとんどの海賊は一生強制労働で済むからな…
そうなってもまあ。いいさ…」
と言ってると、後ろでそろっと船長が立ち上がって、鉄板を海賊の頭の上に振り下ろした。
ばん。と音がした。
「うわぁ。痛そう…」キララは耳を伏せて言う。
「やった。成功だね…」
僕たちは、事前に海賊が来ることを船長に言い、脇腹のところに鉄板を入れて服で隠してと言ってあったのだ、撃たれたら倒れて、機会をうかがって鉄板を海賊におみまいする。
という流れだった。
部下もみんな無事だった。
「いやあ。助かったぜ。ありがとう。何度も助けてくれて。ほんとうに…」ジンはお礼を言い、僕たちはお礼の品物を受け取った。
「じゃあ行くね。海賊に注意してね…」キララは自動ドアを開き、宇宙船を後にする。
このとき自動ドアの妨害が出てなかったことを疑問に思わなかったのが失敗だった。
この後、廃墟がある惑星に向かうことにした。
すぐに、図書館に向かうのが良かったのかは不明。
☆☆☆
大マゼラン銀河のある星系。自動ドアによるワープから出て星系の中に入った。
宇宙船のコンソールに表示されるものを見て、僕は言った。「結構人工物があるんだね…」
キララは「確かにそうだね。第10惑星にも施設があるよ。今はだれもいないけどね…」
コンソールの説明によると、燃料採掘用のプラント。ガス惑星を回っている衛星上に基地が作られていたらしい。
光学ズームで拡大する。ちょっと崩れかけた建物も見えた。第9惑星にもプラントがあり、第8惑星には輸送の途中で使ったものと思われる中継基地の跡地があった。
第5惑星から第3惑星までが生命が住める星。すべて廃棄されている。みんな宇宙の別の星系へと移り住んでしまったみたいだ。
僕とキララは第4惑星に降りることにした。
「衛星軌道上にも何かあるね…」僕は地球で見たことがないような大きさの衛星軌道上に浮かぶ施設を見て感想を述べた。めずらしい。円周上になっている。つまり、惑星の赤道の衛星軌道上に無数の基地が浮かんでおり、それぞれ細い線でつながっている。
「これはリング状になっている人口衛星だね。この惑星の衛星軌道上をぐるりと囲んでいるよ。
宇宙の出発点としてかなり昔に建設されたみたい。
たまに隕石が衝突したりして事故になったこともあるみたいだよ。
破損してもすぐに気密扉が閉じるから、被害は一部だけで済んだみたいだけどね。
すぐに巨大宇宙船の建造が始まって、他の星系にみんな乗っていっちゃったんだってさ…」
惑星の資源を取りつくし、化石燃料も使い切り、人口が増えて土地が足りなくなり、宇宙進出がさかんになったみたいだ。他の知的生命体を求めて移動を開始したらしい。そして大マゼラン銀河にある、他の文明と出会い、一緒に暮らしているらしい。
「どの大陸にする?」僕はコンソールに表示されているいくつかの大陸を見てキララに言った。
「そうだね。ちょっとだけ北の地方にある海沿いの町にでも行ってみるかい?」
「うん」キララは宇宙船のコースをある大陸の海沿いのところに向ける。
☆☆☆
なんか見たことがない建物が地面から生えている。廃墟っぽくはない。もっと朽ち果ててるのかと思ったんだけど、ほとんどの建物は無傷でそのまま残っているように見えた。
ものすごい高層までのびている建物が海沿いに並んでいる。建物の形は円筒形だ。四角い建物はない。
建物の表面は何だろう。金属のようなコンクリートのような、どっちでもない感じの建築材料で出来ているみたいだ。
「ここの住人達は、円が好きみたい。建物も円筒形だし、大きい円筒形の建物のまわりに、8個の小さい円筒形のたてものが同心円状に並んでいるよ」
僕は空の上から建物のならんでいる街並みを見た。
「地上から3kmぐらいの高さまで伸びている高層ビルがあるよ。この惑星では5kmまでの高さの建物があったみたい…」
地上から3kmぐらいの高さまで伸びている高層ビルの屋上まで行ってみることにした。
そのまま宇宙船で上昇する。やっと屋上が見えた。屋上には宇宙船を着陸させることができるスペースがある。
「ねえ。ユキ君あそこに降りるよ。その後にビルの中に入ってみよう… この付近のビルは崩れる心配はないみたい…」
宇宙船をビルの屋上へと着陸させる。
ハッチから外にでる。
「あ。ちょっと寒い…」ビルの高層階。上の階層なので寒い。
キララは後から出てきた。手には大きい現代のカメラが握られていた。
「せっかくだから写真にとっておこうと思って。私は廃墟の景色とか好きなんだよ。時間が止まったような感じ… このあたりは古びた感じはしないから物足りないんだけど、もうちょっと北のほうに行くと景色が変わると思うよ…」
僕はビルの屋上にあるドアへと向けて移動する。キララはめずらしく僕の後から歩いてくる。
かしゃ。かしゃ。と写真を撮影しているキララ。
僕はビルの屋上にあるドアから中に入った。下へと続く廊下。廊下は階段ではなく、傾斜がついたスロープだった。ぐるりと円をかくように下のほうまで続いている廊下。
廊下の明かりはついていないが、真っ暗ではなく明るかった。建物の構造物自体が光っているかのようだった。
僕は下の階へと進む。そして大きな部屋に出た。
何かの展示会場だったみたい。部屋の中央に台が残っていて、この付近の海岸線や大きい建物の模型が飾ってあった。
僕はミニチュアの建物に手をふれた。
建物はこてんと、手で触れたところがくずれた。
「あ。くずしちゃった…」僕はキララのほうを振り向いて言った。
「壊しちゃったのかい。まあ見ててよ。ほら」キララはくずれた建物を指さした。
すると、崩れたミニチュアの建物が元通りになっているのに気が付いた。
「自動的に復元されるみたいだね。だからこのあたりの建物は朽ちていないんだよ…
建物の構造自体が自身の位置を覚えていて、崩れても元にもどるみたいだね…
ねえ。もう一回くずしてくれるかな。復元するところを写真で撮影したい…」
「うん。いいよ」僕はミニチュアの建物をつっついた。そして隣の建物も手のひらではらってみる。
すると手ではらった建物もくずれてしまった。
「あー。ユキ君ひどいなあ。こわしちゃうなんて…」キララは数秒待ってから写真で連続撮影をしだした。
「あ。戻った…」崩れた建物はすっかり元の位置に戻った。
☆☆☆
僕とキララは、部屋の端に用意されている転送用スペースまで歩いて行く。
「えーとこれは転送用のスペースだよ。一瞬で違う場所まで移動できるよ手をかざすと地図が出るから、行きたいところをタッチするんだよ。そうだ北のほうの地方にも行ってみよう。まだ動くはずだよ…」
キララはタッチして地図の表示範囲を広げて、北のほうの地方にある建物を選択した。
僕とキララは転送用のスペースに立っていたが、周りの景色が黒くなったと思ったら、明るくなり別の場所に変わってしまっていた。
「あ。別の場所。なんか雰囲気が廃墟って感じだね…」
僕はあたりを見回す。かなり大きい都市みたいだけど、道路というか歩くスペースがあるんだけど、砕けた構造物の破片とかが転がっている。
遠くには高さ数kmまで伸びた高層ビルが見えるが、高層ビルが倒れて上の階から崩れているものがいくつか見えた。崩れている数kmまで伸びたビルがいくつか…
「あー。これこれ。これこそが廃墟だよ…」キララは写真をいくつか撮影した。
キララのしっぽも左右にふりふり動く。
キララが写真を撮影している間。僕は道路の両脇に見える建物(1階建て)に入ってみた。
なんかのお店? 僕はまだ残っているものを見た。ガラスのような固体。大きさがサイコロ4つ分ぐらいの大きさ。手でふれると光をはなつものだった。何につかうんだろう。明かり? まったく用途がわからなかった。そのうち、少しかけたガラスのようなものを1つ手にとってポケットに入れた。
僕は建物の中から出た。キララは… あ。いた。10メートルぐらい向こうの道路で立ち止まっている。
「ねえ。いい写真とれた?」僕はキララの背後から声をかける。
キララはうーんとうなっていた。
「またTMRの調子が悪いみたい…時間移動と空間移動機能が使えないよ…」
「あのさ。こんな人がいないところにいて大丈夫なのかな… 海賊のこともあるし…」
「うん。これはわざとだよ… 人がいないところに行ってみて、誰も来なかったら安全。
さっきの星系を出るときに、治安維持の人達が乗った宇宙船が数隻出てきたのを見た?」
「えっ気が付かなかった」僕は宇宙船のコンソールにも何も出ていないので気が付いていなかった。
「私のTMRには反応が出ていたんだよね。だからさっきの海賊の一見がまだ残っていて、私たちの跡をつけて来ているとしたら、人がいないここで狙われると思っていたんだけど。大丈夫みたい…
TMRが使えないのが気になっているんだけど…」
「じゃあ。戻ろう。僕は海賊のことがあって、人がいないところにいるのが怖くて…」
「まあ。大丈夫かな。誰も来なかったし…自動ドアを開けて宇宙船の中に戻るよ…」
☆☆☆
キララと僕は宇宙船の中に入った。そして宇宙船をビルの上から上昇させた。
惑星の衛星軌道上。念のため宇宙船をチェックする。
「うん大丈夫。留守の間に誰かが進入した形跡もないし…」
「そう…」
僕はマグカップを近くのテーブルに置いた。
ぱりん。
マグカップが床に落ちて壊れた。
「ユキ君大丈夫?」
「うん。でもおかしいな。ちゃんとテーブルの上に置いたはずなんだけど…」
その言葉をキララは聞いて、耳をぴんと立てた。そしてゆっくり僕のほうへと近づいてきた。
「ねえ。ユキ君落ち着いて聞いてね。誰かに狙われているかも… ゆっくりこっちにおいで…」
キララは厳しい顔をして言う。キララはTMRを見た。
「僕はゆっくりキララのほうへと歩き出す」
そして…
ぴーぴー。警報が鳴る。
『船内の気密に問題があるのがわかりました。自動修復します…』
「なんだろう…」キララは僕のほうを見た。
僕は目がぼやける。そして脇腹に感じる痛み。
僕は下に目をやった。脇腹に広がっていく赤いしみ…
僕はそれを見てその場に倒れた。
「き。きら…」僕は目の前が暗くなっていくのがわかった。
そして。
「あっ」キララの声。そしてどさっと倒れる音。




