他の星系の衛星軌道上に浮かぶ図書館(2)
僕は目を開けた。図書館のソファで寝てたのだった。
キララはちょっと前から起きていたらしく、僕の顔を見ていた。
「あ。起きた? ユキ君。いつのまに戻ってきてたのかな?」
キララは至近距離からこっちを見ている。
「ん。たしか、いつだろう。ちょっと前?」
「私はユキ君が戻ってくる前に本を読み終わって、待っている間にうつらうつらしちゃって。
目を開けたら、いつのまにかユキ君が隣に座って寝ているんだもの…
起こそうかとも思ったんだけど、気持ちよさそうに寝ていて、ぐっすり寝ているから、ひょっとして起きないのかなと思って…
寝ているときにだまってチューしちゃおうかなと思っていたところだよ…」
「ち。ちゅう…」僕はその場面を想像した。僕は恥ずかしくなってきたからキララから目をそらしてしまった。
「ごめん。ごめん。思っただけで実行はしていないから。する寸前まで試してみたけど…」
「えっ」僕はキララの顔をみた。キララのしっぽがソファの上にびたんと落ちた。その後尻尾をふりふりさせてから、自分で尻尾を胸の前に持って行って尻尾を抱っこした。そして尻尾をいじりながらキララは「まあ。それは置いておいて。図書館は見学できた?」と話題を変えてきた。
キララによって、ちゅーの話はさらっと流されてしまった。
「できたよ。本にいろいろ書いてあったし。それに地球人の体形に近い人以外にも、それぞれ背の大きい宇宙人とか、小さい宇宙人にも使いやすいように、いろいろ作られているのがわかったし…」
「まあ。大体はそうなっているよ… 違うところもあるんだけど…」
言っている途中で、ぐぅ。とキララのお腹が鳴った。
「そういえば、もうお昼どきだよね。本によると、この図書館の階下に共用スペースがあって、お店や飲食店があるみたい。そこでお昼にできる?」
僕は本に載っていた図書館の構造のページから、飲食するためのスペースが階下にあるのを知ってたので、キララに聞いてみた。
「うん。そうだね。飲食店の他にも、売店もあるし…
その後は、宇宙に出て、ガイドブックに出ていた名所を回ろう。
そして、私からの提案なんだけど、夜の宿泊はここにしたらどうかな?
実は待っている間に、ここで夜コンサートをするというのを知ったんだよ。
かなりの昔の映画で『ET』というの知っているかい? ユキ君の世代だと、君たちのお父さん、お母さんの世代よりちょっと前ぐらいかな?」
ユキは2023年生まれだから、親よりちょっと上の世代だったら映画公開のときにいい、お年頃だったろう。
「うん。昔の映画だけどハロウィンの時期とかにたまにテレビでやっているよ。
ETお家帰るだっけ? 大きい月のところをETと自転車に乗っている映像が印象的…」
「そのコンサート。他にも1980年代のアメリカ映画の音楽とかもあるんだけど…
レーザーによるホログラムで映画の名シーンが再現されるんだよね…
ちょっとそれも見てみたいと思って…」
「うん。いいよ。宿泊だからお金はかかるよね? いいのかな?」僕はキララに聞いてみた。
「心配はいらないよ。前に話した星系の話覚えているかな? 普段お金はあまり使わないんだけど、この際、思い出の旅行だからね。いい部屋をとっちゃおうと思っているよ。
ユキ君が宿泊料金を知ったら高いと言うかもしれないけど、星系を一個もらったときのお金があるからね。全体から見ればほんのちょっとだよ。例えると角砂糖の結晶1粒ぐらいかな… だから気にしないでもいいよ…」
「うん。じゃあ。お言葉に甘えて。キララの好きにしていいよ… 後で僕が恩返しができるといいんだけど…」
「いやあ。私としてはずっと末永くユキ君と一緒なら、なんでもいいなあ」
「そう… ありがと。でもいずれ僕からも何かキララにしてあげたいな…」
「うん。じゃあ。いつか…」キララのしっぽがびたんをソファをうつ。そして尻尾が嬉しそうにふりふりと動く。
僕のお腹からもぐーという音が聞こえた。
「じゃあ。移動しよう…」僕とキララはソファから立ち上がって本を返しに行く。
本を返却した後、柱の近くへキララは歩いて行く。柱の手が届く位置にボタンがある。たぶんこれがエレベーターだ。
僕とキララは一緒に並んで柱のそばに立つ。キララがボタンを押すと、床が下に沈みはじめて、階下へと移動する。
階下のほうも広い空間になっているようだ。中央に広い通路があり、左右にはいろいろなお店や飲食店がある。
いろいろな星系や惑星からの人達にあわせて、いろいろなお店もある。
食べ物のほうもさまざまだ。フルーツや植物系専門の飲食店から、何かのお肉みたいなものを扱っていそうなお店。食べ物として無機物に見えるものを扱っているお店。そして、どう見ても地球の中華料理屋さんみたいに見えるお店もある。
「ねえ。中華料理屋みたいなところもあるよ… 見たことのあるお店のデザイン…」
キララは僕の示したお店を見て「うん。中華料理屋だよ… 入る?」と僕のほうを見てきた。僕はうん。と返答をして、お店に入った。
地球にも中華街がどこの都市にもあるみたいに、宇宙にも中華料理屋さんはあるらしい。それにイタリア料理、ファーストフード。日本料理… お寿司もあるみたいだ…。
「いらっしゃい。お好きな席にどうぞ…」店員は人間ではなく異星人だった。
お店の雰囲気は、地球にある中華料理店と変わりはない。
お水は出てこなかった。代わりに、入り口付近にペットボトル飲料の容器みたいなものに入ったお水があった。
「お水はセルフサービスだよ。だいたいどこもこんな感じ… 料金は安いよ…」
メニューは普通のものではなかった。お店のテーブルに表示されている。テーブルを触ると、次のページへと移る。そしてメニューの内容は日本語で書いてあった。
「ねえ。疑問に思っていたんだけど。なんでメニューが日本語なの?
それに『いらっしゃい…って』」
と、日本語が通じることを僕はキララに聞いた。
「それは図書館で借りたデバイスのおかげ。日本語が標準語に自動翻訳されているんだ。逆に標準語が日本語で見えるように表示デバイスが映像を映しているんだ。音声も自動翻訳さ…
ところで、この図書館に置いてある本。どうして日本語だったか疑問に思わなかった?
本は紙に見えるけど、薄くてペラペラとめくることができるデバイスなんだよ…
本を読んでいる人に合わせて自動翻訳されて、紙に見えるデバイスに映し出されていたんだよ…」
「そうか。そうなんだ。確かに不思議だと思っていたよ… 便利になったもんだね…
未来では地球でも外国語を勉強しなくてもいいの?」
「うん。まあ。困らないようになっているよ。異星人とも普通に会話ができるほど、翻訳は発達しているからね…」
僕はメニューを見て、天津チャーハンとエビチリのセットを注文した。
キララは、スープチャーハンとシュウマイのセットを注文した。
品物が来てから、僕とキララはすこしずつ、お互いの注文したものを交換した。
さすがに「あーん」はしなかったけど。男女だとちょっとだけ交換とかも楽しい。
もちろんララお姉さんとか、ラミちゃんとか、ミミちゃんとの外食のときもちょっと交換とかあるんだけど、お付き合いをしているどうしだとちょっと違う。デートっぽい。
☆☆☆
僕とキララは、お昼ごはんを食べ終わった。味も日本で食べる中華料理屋と変わらなくおいしかった。
僕は中華料理屋を出た。僕にも尻尾が生えてたらきっと、ふりふりと動いているだろう。キララの尻尾もふりふりと、嬉しそうに動いているからだ。
僕とキララは両側に並んでいる飲食店が、普通のお店に変わりつつある場所まで歩いてきていた。
「あれ見てよ…遭難したとき、いざというときに使えるグッツ紹介というのをやっているよ」キララはお店の方を見た。
自動で日本語に翻訳してくれる看板があり見た時に表記が変化した。
「ちょっと寄ってみていく?」僕はキララに聞いた。
「うん。ちょっと面白そうだし… 見たことがないものもありそうだし…」キララはお店のほうにふらっと歩いて行って店の中に入ってしまった。
☆☆☆
商品説明用の表示装置が商品の隣に置いてあり、僕たちが商品を見ると日本語の表記にかわっていく…
「これ見て。消費期限制限なしの100日間は持つ食料品のセット。エネルギーパックより小型化に成功と書いてあるよ…」
長さが70cmより少し小さい円筒形のつつだ。これに100日間は持つ食料品のセットと飲料水が入っている。空間圧縮技術によりコンパクト化。人数は5名を想定。とあった。
宇宙船に1つ積んでおくといいのかな。
「レンタルした宇宙船には、これより大きいんだけど食料品のセットがあるよ…」
もしものときを考えて積んであるとのこと。
僕は別の棚を見た「これは何かな?」見たことがないものがある。
キララも同じ棚を見る。「ああ。もしもの時のための時間凍結装置かな。救援までの時間がかかるときに使うんだよ。一定範囲内の時間を凍結するんだ。救援が来たら外から解除してもらう…
そして、こっちは救難信号発進機とレコーダーかな」
キララが説明してくれた。救難信号発進機は自動で信号をもよりの場所か、登録したところに発信してくれるようになっている。
TMRが使えない地域でも使えるように数種類の信号が送れるようになっており、かなりの確率で有人の施設へ信号が送れるようになっている。
レコーダーはもしものときのため、その場の状況を自動で記録するもの。特定の人だけ再生ができる。
「時間凍結装置と救難信号発進機は買っていこうかな。そしてこれもいいかな」キララは自動リターン装置(TMR用)というのを手にとった。
誰かにTMRを奪われた場合や、身に危険がせまったときに信頼できる人のところまでTMRを転送するものだ。TMRを使って元の持ち主のところまで信頼できる人が救出に来てもらうのに使う。
「それ気に入ったの?」僕は自動リターン装置を手にとって見ているキララに聞いた。
「もしもの時のためだよ… ユキ君も欲しいものがあったら私が買ってあげる。これカード」
キララは、名刺のような大きさのカードを僕にくれた。以前商品購入のときにもらったらしい。どこでも使えるプリペイドカードだ。10000クレジット。ただしキャンペーン中で新規の人には9割引きになるという特典があった。つまり100000クレジット分の買い物ができる。
キララ自身で使うよりも、僕につかってほしいみたいだ。
「うん。ありがとう」僕は、別の棚にスパイグッツがあるのを見た。どこかのアジトに進入したときに役に立つグッツとあった。面白そうだ。
カザー星系の施設に行ったときに使えるかな。それともララお姉さんとかミアお姉さんにあげてもいいし…
僕は万能セキュリティ解除装置(製造年は今より未来のものなので、現在のセキュリティ装置は簡単に解除できます。とあった。購入時に身分を証明するものが必要。知人の時間移動機能付きのTMRでも可とあった)これは9割引きなので2200クレジットで購入できる。買おうかな。
僕は別の装置も手にとった。身代わり用デバイス。自動的に敵に銃で撃たれたら撃たれる1ミリ秒前に稼働型デバイスの体と入れ替わるもの。これも割引なので1900クレジットで購入できる。4つ買おう。
あとはこれかな。飴玉に見える攪乱装置。投げてから10秒後に爆発。至近距離にいる人は10分気絶する。20個入りが500クレジットで買える。これも9割引き。
あとこれも空間湾曲装置。閉じ込められた時や、密閉された部屋に入るときに使う。10000クレジット。9割引きなので1000クレジットで買える。
他に、面白いものもあった。食べると15分で腹痛になるお菓子。敵に食べさせるのに使えるかな。5個入りで100クレジット。5個買おう。あとは、あ。これいいなあ。自動射出セット型巨大映像表示装置8セット。直径2kmのスクリーンを表示し、手元のデバイスから好きな映像を映せるもの。回収すれば何回でも使うことができる。これは4つキララにあげようかな。
それらの品物を手にして、キララのところに向かう。購入方法がわからなかったからだ。
「あそこの台の上に商品を置いてから、カードをかざすと自動精算されるよ」と教えてくれた。
キララも買うものを選んでいる最中みたい。
僕は先に商品を持って台のところに向かう。僕は商品を台の上に並べて置く。台に日本語でTMRまたは、プリペイドカードをかざしてください。という表示を見て台の上にプリペイドカードを置く。
『生体認証から、あなたは新規の顧客と判明しました。プリペイドカードで精算した商品の代金はすべて9割引きとなります』という説明が表示されて『ぴろんぽろん』と音がなった。
そして次に『宅配ボックスをお持ちですか』と聞かれ『NO』の表示をタッチした。
すると、台のよこから紙製の手提げ袋が出てきた。商品をこれに入れるみたいだ。
精算が完了したから、僕はプリペイドカードを手にとり商品を紙袋に入れた。
キララは上着のようなもの2着とさっき見ていたデバイスと、ネックレスみたいなもの2つを持っていた。
キララも精算して、いくつかの商品を宅配ボックスの中に入れた。
「キララもいろいろ買ったんだね」僕はキララが手にしている商品を見た。
「このネックレス。君にあげるよ。もしもの時に役に立つはずだから… 私もお揃いのものをつけるから…」
ピンク色の小さい石がはめてあるものと、空色の小さい石がはめてあるおそろいのもの。
空色のほうを僕にくれた。
「ありがとう。じゃあこれ。自動射出セット型巨大映像表示装置4セットあげる。別に4セットあるからキララ使って」
「あ。いいねえ。こういうの欲しかったんだよ…」キララの尻尾は、さらに左右にふりふりと動く。こういうの好きそうだし…
☆☆☆
僕たちはお店を出た。
図書館の階下のところにあるカウンターで宿泊施設の予約をすることにした。手続きとお支払いはキララのTMRにより行われた。
「じゃあ。ここから直接宇宙船に行って、惑星を見て回ろうね。本のデータは一部このTMRにコピーしたから参照しながら行くことができるよ…」キララはレンタルした宇宙船用の自動ドアを壁に向かって操作して、自動ドアを開けた。
僕とキララは自動ドアをくぐって、宇宙船の中に入った。




