宿泊施設とお風呂。夫婦の月
キララが自動ドアを開けてくれる。
次の目的地、宿泊施設があるエリアへと行く。
風景が変わった。高山地帯。火山もある。
針葉樹林のような高い木。
高い木には木でできた建物がくっついている。ツリーハウスのようだった。すごく大きくて高い木に5個の建物がついていて、階段でつながっているようだ。
「ツリーハウス?」
「うん。木の香りがいいんだよ。この案内に書いてあるよ…」
「うん。ほんとだ。森の中のにおいがする」僕は、胸いっぱいに空気をすいこんだ。
「あと、温泉施設は下のほうにあるよ。人間サイズ用のと大きい種族用。小さい種族用のと、水生生物用のところもあるよ。水が苦手な種族用に、半身浴や足湯みたいなのもあるし、それに男女や種族混合のところがあるよ、男女一緒。どう?
混合にする?
私は構わないんだけど…」しっぽをふりふりしながら、キララは聞いてくる。
「えーとどうしようかな。オーソドックスに、人間用の男性用のところで…」
「そう。わかった。僕。いや私は混合のところに行ってみようかな… 気がかわったら来るといいよ」
キララのしっぽのふりふりは止まった。
施設の入り口で受付をすませ、料金も払う。一人5千円ぐらいに相当するとキララから教えてもらった。
「なんか悪いね。出してもらって。地球で何か買ってあげるか、あるいは僕の分のお金を地球の円で払うよ…」
「いいよ別に… 今日の宿泊場所のツリーハウスは57番だよ…」
案内装置用のデバイスを受付でもらい、手首のところにはめる。
「すーはー」深呼吸をした。森のにおいがする。
僕は森のにおいを感じ、この惑星の大気を感じた。気候もちょうどいい感じ。しめっぽくもなく、乾燥しすぎでもない。
「ここかな。57番」57番と言っても数字で書いてあることはなく、記号のようなものの印がついている。
木の幹にあたるところに入り口がある。中に入ると結構広かった。そして木の幹が部屋の横の角にある。そして階段が続いている。
僕は階段をのぼってみた。上の階は居間のようだった。さらに上に登ってみる。
上は寝室だった。さらに上も寝室。最上階は展望室のような感じだ。1つの階にベッドが2つか3つ。最上階の展望室にもハンモックのようなものがある。
トイレや洗面台や台所のようなところは1階にあった。
階段は急ではなく上り下りには困らない感じだ。最上階ともなると景色がいい。他のツリーハウスも見えるが、窓はこっちの方向には向いていない。向きは同じになっているらしい。プライバシーもちゃんと考えられている。
「夜になると、星が綺麗だよ… ツリーハウスは10万はあるけど、明かりは最小限だからね。
ちなみにこの一帯にはツリーハウスは1000あるよ。エリアが分かれているんだ」
キララが解説してくれた。このあたり一帯は宿泊用の施設と、針葉樹林のような大きな木がある地域。温泉もある。種族ごとにより、寒冷地の宿泊施設もあり、温かくて湿度も高い地域もある。
そんな中。ここは緑が多く、人間にとっては住みやすいところであり人気があるところだ。
「緑を感じやすいようなリゾート地?」
木でできた部屋の中も木のいい香りがする。
「宇宙旅行で疲れた体を癒すためでもあるんだよね。やっぱり緑と水が恋しくなるんだよ。あと緑が多いパターンと、水辺の宿のような感じのエリアもあるよ。水生生物が好むみたい…」
「いいながめ…」最上階の窓から見える景色。緑がいっぱい。
「さて。僕。いや。私は温泉に行くよ… 場所は腕に付けた案内用の装置でわかるよ…
着替えも心配しなくていいから。服を入れて置くところに入れると、汚れとかもとってくれるし、着心地が良くなるようにふかふかに乾かしてくれるんだよ。じゃあ…」
とキララは先に出ていった。
僕も、もうちょっとしてから出ていくことにしよう。
ツリーハウスの最上階から、地上を歩いているキララが見える。キララが後ろを向いて手をふった。
僕も手をふって、キララに合図をする。
僕は下の階に降りることにした。そしてトイレに向かう。
トイレをするときは座ってするようにという図が書いてあった。
☆☆☆
さてと、僕も出るかな。えーと男用の浴場はっと。デバイスを操作する。すると、温泉の案内図が出て、矢印が僕の前方に光で表示される。
こっちか。でもせっかくだから散歩しながら行きたい。
デバイスを操作しようとすると、コースが変わった。散歩に適していると思う遊歩道がある方向に矢印が表示される。10分から15分のハイキングコース。
僕は森の中を歩きながらまわりを見渡した。
地球の森とあまり変わらない。虫みたいなものは見かけない。動物も見かけない。
小川もある。
小川のそばに近づいてみる。底には見たことがない色の石があった。緑色っぽくて少し透明なもの。黄色っぽくて透明なもの。いろいろある。持って帰りたくなったが、やめた。この惑星のものだ。
僕は立ち上がり、矢印のほうへと進む。やっと建物が見えてきた。
木でできた簡単な建物だった。服を脱ぐためのスペースがあり、ロッカーに似たものがある。
ロッカーに服を入れると、手首のデバイスでロックができることがわかった。そして赤いランプがついた。
棚の上に置いてあるタオルを手にとる。
もめんとか、普通の繊維かと思ったが違う。絹のようなものに感じた。でもさらさらしている。
すでに人型であるが、頭につのが生えた人と、大きい耳が頭のてっぺんに生えた人がいた。全員で7名ぐらい。地球人と思われる人は僕だけ。
体をみると、すべすべではなく体毛が生えている。その中の一人が立ち上がる。
でっか。2メートルは超えているんじゃないかな。そしてすごく細い。
別の人も立ち上がる。2メートルはあるしっぽが後ろから見えた。
僕は体を洗うところで、体を洗い、頭も洗った。そしてシャワーを探したが見つからず、鏡がある壁にボタンがついているだけだった。僕はボタンを押してみた。すると真下からお湯のシャワーが噴出した。頭を床のほうに向けると、お湯が泡を洗い流してくれた。なんか違う。
僕は隣を見た。隣の人はボタンを2回押していた。2回押すとお湯が噴き出す方向がかわり、何もない真上から突如としてお湯が下に向かって噴き出していた。
隣の人は真上からお湯を流し、その次に真下からお湯を流し、そして最後にまた真上からお湯を流していた。
こうするのか。僕はボタンを2回押して、真上からお湯をだしていた。不思議だ。何もない空間からお湯がシャワーのように出てくる。
ボタンを押して、お湯が真下から出てくるのもいいと思った。
☆☆☆
湯船。木で囲まれたものに入る。いい湯だ。
そういえばキララはどうしているかな。
キララの所に行ってみようかな。うーんどうしようかな。
僕は考えながらまわりを見回す。
身長が2メートル。体重がおそらく150kgはあるだろう筋肉質の人が立ち上がった。大男だ。
その隣にいた、身長が1.5メートル。細身の人も立ち上がる。体毛がすごい濃い。水で濡れていてしぼんでいるが、乾いたらふっかふかになるんだろうなと思った。毛の色はネズミ色だった。
入り口から体が丸みを帯びた、美形の人が入ってきた。体毛は薄い。頭にトリの羽のようなものがついている。尻尾はない。
身長は僕より高いだろう。どうみても女性に見える。でも男なんだろうな。同じ種族の中でみれば男性ということになるんだけど…
なんか、男女。異種族混合といっても、なんか女性っぽい人の裸は見慣れてはいないわけで、ここは人間用の男性となっているが、人型という意味で身長があまりかけ離れていない種族用のものだということがわかった。
地球人はめったに来ないだろうし、来ることもあるんだけど。
キララのところに行ってみたいけど、キララも裸だろうし。恥ずかしかった。今日は行かないでおこう。
ある程度、木の湯船の中のお湯にひたりながら、行き来する人を見ていた。
湯船にはいっていた人達が、お湯から出るタイミングで僕も上がった。
脱衣場で、ロッカーの前に立つと、下から温風が出てきた。そして乾燥した空気のおかげで大きいタオルで拭くとすぐに乾いた。
異星の人が台の上に乗っている。そして壁に何か表示される。
その人達が下りてから、僕は台の上に乗った。
目の前のディスプレイには身長と体形を模した表示があり、地球人の図らしかった。
そして身長の高さと体重の重さによりランキング形式で左右に表示されるさまざまな種族のシルエットが出ていた。
ちなみに僕は人型の種族としては、大きさは少し小さいぐらい、体重は軽めであった。
僕の次に女性に見える体形の人が乗った。背の高さは僕より高いので右4番目ぐらい。体重も僕より右2番目ぐらいの位置になった。しなやかに見えるけど結構しまっていて重いのかなと思った。
腕のデバイスを見ると、今の人達は水生生物から進化したようだった。出身の星も書いてある。体形に丸みがあるのもそのせいかと思った。
ちなみにいろいろな種族の出身惑星と、種族の簡単な説明も記載があった。
うん。なんか以外。太陽系の近隣にも結構、知的生命体が住んでいる惑星ってあるんだと思った。
宇宙は広いから気が付かないだけ…
いちばん近くて、15光年ぐらい。その次が27光年ぐらい。その次が53光年ぐらい。結構ある。
どれも、体形は地球人と似た感じだった。なんでだろう。
僕はお風呂を出て、57番のツリーハウスに向かって歩き出した。
あたりは薄暗くなってきている。
57番のツリーハウスのドアを開ける。さきにキララは戻ってきていた。
「やあ。おかえり… 食材を温めているからね… おいしいといいんだけど…」
エプロンをしているキララ。こうしてみると、奥さんみたい。
「何か手伝う?」
「そうだね。スープをかき混ぜてくれるかな」
僕はスープと思われるものを、調理器具をつかって軽くまぜる。ああ。いいにおい。おいしそう…
キララも以外に家庭的なんだと思った。
しばらく調理して、程よく出来上がったみたいに見える。
「なんかおいしそうだね。見たことがない食材をつかっているけど、あそこで買ったやつ?」
「うん。そう。野菜とか、お肉とか… いろいろ。オーガニックみたいな感じだから、体にもいいんだよ。この食材が育てられているところは虫もいないし、薬で虫を防ぐ必要もないし… 土壌が良くて、ミネラルが豊富だからおいしいんだよ…」
☆☆☆
夕食の時間。地面に足が付く場所での食事。暖色系の明かりと、木のテーブル。
テーブルの上には見たことがない食材で作られたおいしそうな料理。
緑色の野菜とか、何かのお肉みたいなものや、パンやごはん、パスタとも違う、炭水化物みたいなものとか…
お手製と思われるしぼりたてのジュースもある。
「さあ。いただこう」キララが手をあわせる。
僕もキララにならって、手をあわせてからスープに手をつける。
「うん。おいしい。具材のうまみが出ているよ…」
キララもスープを飲んで「良かった。おいしくできてる… 気に入った?」
赤っぽくてちょっとオレンジ色っぽいスープ。具材も野菜やお肉っぽいもの。魚に似ているものも入っていた。
グラタンやドリアみたいな浅いお皿に入っている何かを表面に焼き色を付けたものも気になる。
僕はスプーンを使ってすくってみる。なんか香りがよく香ばしい。何かの実をすりつぶして焼いたかのようなもの。でもシンプルでありながらおいしい。
「それはね。買った木の実をいくつか混ぜているよ、混ぜるときの混合比でおいしくなるんだって。
デバイスで調理方法を調べたんだ。地球人に合うような好みになるように…
この混合具合を変えると、ケンタウルス座アルファ星出身の人の好みのものになったり、背の大きい水生生物から進化した人達の好みのものになったりするんだよ。
ところでお風呂場で小さいケンタウルス座アルファ星出身の人や背が大きくて丸みがある人達には会った?」
「うん。会ったよ。他には大男とか… なんで知っているの?」
「私のところにもいたからだよ。相方らしいね。君と一緒で異種族の混浴には抵抗があったみたいだけど… なんで来なかったのさ…」キララは突然、私のところに来なかったの? と言いだした。
「えー。それは。考えたんだけど。背が大きくて丸みがある人達が入ってきて女性に見えたから、そのときに考えたんだ。ちょっと女性とお風呂は意識しちゃうっていうか…」
「もー。ユキ君はおとなしいんだから。人によっては覗きに行く男子とかもいるし…
裸は見たくないの?」
「そ。それは。えーと。その気にはなっているよ… でも覗くのは良くないよね…」
「まあそうなんだけど… まあいいや。いつか期待してみるよ…」
「まあ。そうだね…」僕は返答に困った。
キララは飲み物を見た。
「ところでさ。飲み物を飲んでみてよ… 面白いから…」
上は緑色、真ん中はオレンジ。下のほうは赤い飲み物を見た。
層になっている。
「これ面白いね。比重が違うから層になるの?」
「うん。そう。オレンジのところがいいよ」
キララはじっと見ている。
僕は飲み物を飲んだ。緑色のところはバナナとグレープフルーツみたいな味がした。真ん中のオレンジのところのを飲む。
すると、液体は冷たいんだけど熱くなった。
「えーなにこれ、熱いよ… 液体は冷たいんだけど」
「次の赤で冷ませると思うよ… ふっふっふ」キララは含み笑いをする。
僕は続けて、赤い色のところを飲む。
辛いとか、熱いということはなかった。結構おいしい。
「うん。おいし… あ。あああ。舌がぱちぱちする」
「ぱちぱちはじけるでしょ。面白いよねこの飲み物。別のもあるからお代わりはいるかい?」
「うん。もらうよ…」僕はキララに空になったコップを渡す。
今度は、緑と青と、紫、ピンクの色に分かれた飲み物だ。
「色はすごいけど、おいしいよ… 今度のはさっぱりとしているから…」
僕はコップをながめてから、飲んでみる。
「あ。すっきりしている。薄味かな… でもおいしい」
緑のは緑茶っぽい、青のは青リンゴの薄味バージョン。紫のはクリみたいな味。ピンクのはさくらんぼに似た感じだった。
ほとんどの食材を食べ終わり、食後のひとときとなった。
「もうジュースはないから、紅茶とフルーツティーでおちつこう…」
さくらんぼに似たものやバナナに似たものをカットする。
沸かしたお湯に茶葉を入れて紅茶を作ってから、透明な容器に紅茶を移して、カットしたフルーツとはちみつっぽいものを入れた。この惑星の花の蜜らしい。
そしてゆっくりと温める。15分ぐらい待つ。
フルーツのいい香りと、お茶の香りが広がる。
「いい香りだね」
キララはこの部屋に備え付けのカップと、ティーポットをバスケットに入れ、階段で上の階に行こうと言う。
キララが先に階段を上っていく。キララの狐しっぽがうれしそうにゆさゆさと左右に動いている。
とんとんとん。と最上階まで上がる。
「ほら。綺麗だよ… もう日は落ちてしまったけど、星明りが見えるよ…
それとほら。見て。この惑星にはめずらしい、月の連星があるよ。はるか遠くの昔、同じぐらいの大きさの衛星が互いの軌道に乗ってひっぱる力が絶妙な感じでつりあったんだ。3~4時間でお互いのまわりをまわっているよ…」
「へー。見たことない…」
恒星の連星やブラックホールの連星は見てきたばかりだけど、衛星の連星は初めてみた。
「夫婦の月って呼ばれているよ…」
キララは窓から外を見ながら、僕の隣にくっついてきた。
キララのしっぽがびたんびたんと僕のお尻と太ももを叩く。僕はマグカップを持っている腕とは逆の腕で、キララの体に腕をまわしてみた。雰囲気からしてこうしないとキララが不満になるかなと思った。
僕が腕をまわしたら、ますますくっついてきた。
「なんか遠くに銀河みたいのも見えるね…」
「うん。あれはなんだろうね。今は調べないでもいいかな。くっついていたい…」
キララと僕はくっついている。マグカップに残っているフルーツティを飲む。
あったまるし、キララとくっついていると落ち着くし。いいなあこういうの。
衛星軌道上に見える、夫婦の月もいいし。星もきれいだし…
いやあいい旅行だ。来てよかったよ。僕はそう思う…




