みのるとヒメルとクロ
クロは2235年の元の時代へと戻ってきた。
任務完了である。通りを歩いていたウサギのハーフの子はこっちのほうを見ていたし、何かに気が付いたみたいだ。
「おかえり、クロ君。そしてこれが報酬の煮干しだよ」と白衣を着ている係員のお姉さんは煮干しをクロ君にあげてから首輪についているカメラからデータを無線で手元のデバイスへと転送させる。
そしてディスプレイに映像を映し出して過去の映像を確認する。
「よしよし。うまくいったわね」カリカリと煮干しを食べているクロに向かってお姉さんは言う。
クロは「にゃー」と鳴いた。床をタッチすれば合成音声でしゃべることはできるんだけど、今はにぼしを食べるのでいそがしい。
「それ食べ終わったら、もう一度行ってくれる? 今度はさっきの時代から二週間後なんだけど、また同じように牛乳瓶を落としてくれる? 近くにさっきのウサギのハーフの子がいると思うから…」
クロはお姉さんを見上げた。また行くのか…。クロは思った。
☆☆☆
さっき来た場所の近く。前にウサギのハーフの子と会ったのは二週間前ということになっている。
僕はついさっきなんだけど、再び僕は塀の上に登る。そして塀の上を歩いて行く。
あれだな。近くに牛乳瓶は1つだけ。そして時間を確認する。あと五分。
僕は塀の上に座り込んで、このへんのネコのように毛づくろいをする。
来た。家の中からウサギのハーフの子が出てくる。
目的の時間に合わせてちょいちょいと手で牛乳瓶をつっつく。
がちゃん。と牛乳瓶が道路に落ちて音をたてる。
「あ。またクロネコちゃん。いたずらしちゃだめでしょ」
ウサギのハーフの子が言う。
そしてまた僕ではなくて僕の向こうを見るウサギのハーフの女の子。
☆☆☆
カモのマークの引っ越しトラック。
クロネコちゃんに注意をした後に、向こうの家のところにトラックが止まっている。
たしか、あそこもハーフの子がいるんだっけ。
なんか気になる。
あたしはトラックのそばまで歩いていく。
すると家から人が出てくる二人。毛布にくるまれている何かを運んでいる。
なんだろう。大きさは子供ぐらい。子供を毛布の中に入れて運ぶとそのぐらいの大きさ。
トラックの前の黒い車の後部座席に毛布をつみこみ。男の一人が車に乗る。
もう一人の男はポケットから何かを出して、トラックの後輪の付近にかがみこむ。
そして運転席へ移動し乗り込んだ。
エンジンをかけて少しトラックを前に移動させる。
またさっきの男が下りてきて、トラックの後輪の通り過ぎたところから何かを拾う。
そして、トラックに乗り込み走っていった。
次の日。
ハーフの子が亡くなったらしいということを聞いた。
ちょうど前の日トラックが止まっていた家だ。
ミアちゃんは家から出て、その家へ歩いて行き呼び鈴を押す。
「あの。この家のハーフの子が亡くなったと聞いたので…」
「えーと。リリちゃんのお友達?」
「あ。はい。前に一緒に遊んだことがあって…」
「そうなの…突然であたしも信じられないんだけど。上がって」
居間に飾られている写真にはハーフの子が写っている。
笑顔で笑っているおばさんとハーフの子の写真。
ミアちゃんは居間を見渡し、低いラックの中にいっぱい写真があるのを見つける。
家の呼び鈴が鳴った。
「はいはい」おばさんは玄関のほうに歩いて行く。
「どうぞ…」
おばさんの後ろから男の人が入ってくる。
スーツを着ている。でもどこかで見たことがあるような…
☆☆☆
「これが遺品です。道に落ちていたものです。トラックにスマホが踏まれてしまったのでしょう。本人もそばに倒れていました。もうそのときは息がなく…残念ですが…」
と男の人は言う。
ミアちゃんは思い出した。カモのマークの引っ越しトラックに乗り込んだ男の人。
そして昨日。トラックにスマホを踏ませていたんじゃない?
トラックを発進させて後輪で踏ませてから回収。
ミアちゃんはじっと男の人を見る。
ぴろぴろぴろ。
電話が鳴った。
男の人はズボンのポケットからスマホを出した。
そのときにズボンから何かが落ちたが、男の人はそのまま廊下に出て行ってしまった。
ミアちゃんは落ちたものを拾う。
それはコンビニのレシートだった。住所によるとたぶんここから列車で30分ぐらいのところ。
ミアちゃんはそれを自分のポケットに入れる。
☆☆☆
ミアちゃんは、リリちゃんの家を出た後に、みのる君の家に行くことにした。
ヒメルちゃんと仲が良かったし、もしかしてというのがあるからだ。
みのる君はすっかり元気を無くし、学校もしばらく休んでいる。
ミアちゃんはレシートを見る。そこには買ったものが書いてある。
砂糖抜きの炭酸飲料が3つ
はちみつが1つ
おにぎりが6つ
プリンが3つ
それとパセリ(大袋入り)
イチゴジャム
大きい袋入りのパセリを買う人はあまりいない。
おかずの付け合わせとかにちょっと使うぐらいが普通なんじゃないと思う。
ヒメルちゃんはパセリとマヨネーズがあれば何にもいらないと言っていたのを思い出す。
ヒメルちゃんは変なんだけど、パセリにイチゴジャムをつけて食べてることもあった。
あたしはヒメルちゃんに『美味しいわよ』と言われて食べたことがあるんだけど、全然おいしくなかった。トリのハーフとウサギのハーフとでは、味覚が違うのかなとミアちゃんは思った。
砂糖抜きの炭酸飲料。それとはちみつの組み合わせで買う人もあまりいない。
人間の子供だったら普通に清涼飲料を買って飲むし、わざわざ砂糖抜きの飲み物にはちみつを入れることもしない。
男の人の家にハーフの子がホームスティしているのかなとも思うが、
パセリとイチゴジャムを一緒に買っているのを見て、ヒメルが生きているのではと思ったのだった。
イチゴジャムとおにぎりは絶対合わないし。食パンを買ってそうだし…
すっかり元気が無くなっているみのる君のお尻をたたき(本当に叩いたのではなくて比喩だ)、次の日にあたしと出かけるように説得した。
☆☆☆
「ほらっここの住所。コンビニがあるよ…」
ミアはみのる君に言う。みのる君はあたしより二つ年下。あたしがお姉さんなんだし…
コンビニであんぱんと牛乳を買い、みのる君に持たせる。
「あっクロネコ…」また。見覚えのあるクロネコを見た。
そのクロネコは道を歩いている…
こっちを見た。
「ついていってみよう…」ミアはみのる君の手をとって引っ張っていく…
住宅街だが空地がある場所。空地の隣に古ぼけたアパートがある。
二階建て。クロネコはそのアパートの階段のところにいる。
そして上に上がっていく。
「こっち」
「ちょっと…」
ミアはクロネコが、かりかり扉をひっかいているのを見る。
「開けてみよう…」
「えっ。だめだよ。人の家だよ…」
ミアは扉のノブを回して扉を開ける。
「あっ」
ちょうどそのころ、部屋の入り口の扉の外からかりかり音がするのに気が付いた子がいた。
あたしヒメルとリリちゃん。そしてもう一人ハーフの子がここに住んでいる。
住んでいるというか、この部屋から出るなと言われている。
この部屋の玄関の扉はおかしい。
部屋の内側のノブに鍵穴がついている。
男の人が留守の間にノブを回そうとしたが鍵がかかっているため開かなかった。
普通は外側に鍵穴がついているはずなのに…
ヒメルは、かりかり外から音がするドアの前に立った。
そのとき扉が開き…
☆☆☆
「あっ」
「えっ」
家の中にヒメルがいた。
みのる君はヒメルに。
ヒメルはみのる君に同時に言った。
「あなたは死んだはずだって…まさか幽霊?」
「ヒメルなの? 君は死んだって聞かされて…」
二人はきっちり3秒見つめてから。お互い抱きついた。
「ヒメル…」
「みのる…」
ミアは部屋の奥にリリちゃんともう一人ハーフの子がいるのを見つけた。
「あ。だめ扉が閉まる…」
ヒメルが言った。
でも扉は閉まらなかった。入り口の横に立ててあったペットボトル。
ネコ避けのペットボトルみたい。
それが倒れてて、ドアのストッパーになっていた。
「出よう…こっちおいで…」
ミアはヒメルとみのる君に言い、そしてリリちゃんともう一人のハーフの子の手をとって外に出た。
☆☆☆
「実は騙されてたんだ。僕はヒメルが死んだと聞かされた。ヒメルは僕が死んだと聞かされた。
それでミアちゃんはもう一度僕たちを引き合わせてくれた」
☆☆☆
ユキはみのるお兄さんとヒメルの出会いから、くっつくようになったきっかけの話を聞いた。
「お互いが死んだと思ってて、修学旅行前に次に会ったときに『なでて』とヒメルが言っていたんだけど、そのときはもう触れることもできないと思っていたんだ。なでることができるときに『なでて』たらこうなった」
この話をしている間もみのるお兄さんはヒメルを『なでなで』し続けている。
ヒメルはリラックスしている。
その再開の後、みのる君とヒメル、そしてミアちゃんはこの町に引っ越してきたたしい。
ミアちゃん(ミアお姉さん)はラミちゃんと同じウサギのハーフなので実質姉妹のように、家族のように付き合っている。
ミアお姉さんはみのるお兄さんから見ても二つ年上だし、今ではナイスバディの本物のバニーガールだ。
あと気になるのはクロネコ。
なんだったんだろう。。。
「そういえば、ここに引っ越してきてからクロネコそのものを見ていないな。君のところのミミちゃん以外ではね。ミミちゃんはどうしているの」とみのるお兄さんが言う。
「下でテレビ見てるよ…」
「おっと。いけない。君の英語のわからないところを教えてあげるんだったっけ。さあなんでも聞いてくれ…」みのるお兄さんはヒメルを抱っこして頭をなでながら言う。
「えーと。ここなんだけど…」やっと勉強再開した。
ヒメルとみのるお兄さんは、実はこうだったんだと初めて知った。外とか僕たちが見ている前では、こんなにくっついてはいなかった。
☆☆☆
クロは2235年の元の時代へと戻ってきた。
「ごくろうさま。2回も行ってもらって疲れたでしょ。にぼしはさっきあげたからいいわよね」とお姉さんが言う。
クロは「にゃー」と抗議する。
「何言っているのかわからないわよ」とお姉さんは言う。
クロは床をタッチして言う「報酬のにぼし… くれないと訴えてやる…」とクロは抗議した。
「さっきいっぱいあげたでしょ。今回はそうねえ。高級猫缶にしてみよう…」
かぱっと猫缶を開けるお姉さん。
クロの耳がぴんと立った。
クロは床をタッチした「それをくれ。おいしそうなにおい…」
「はいはい… おなかすいたでしょ」お姉さんが猫缶をお皿の上にあけて食べやすいようにしてくれる。
クロは猫缶のにおいをかいでから、食べ始めた。
クロはニャーと鳴いた。
おいしいらしい。
クロは頭をあげずに、もくもくと猫缶の中身を食べた。
クロは床をたっちした「もっとないのか」
お姉さんは「あるけど。だめ。それ以上あげるとおでぶさんになっちゃうぞ…」
お姉さんはお菓子を食べながら言う。ポテトチップスだ。
クロは床をタッチした「お姉さんもな…」とクロは言った。
「もー。あたしはいいの…」と猫缶をちらつかせて、もうあげないよ。と言った。
クロは床を再びタッチして「ごめんなさい」と誤った。
「うん。わかればよろしい…ところで今日はあなたの仕事は終わりよ… 帰っていいからね…」
とお姉さんは言う。
クロは、食べ終わった後もお皿をなめていたが、顔をあげて、にゃーと鳴いた。
そしてクロは入り口のほうへと歩いて行く。
自動ドアが開く。廊下を左に曲がって歩く。
そしてしばらく進んだ後に、ネコ用の入り口が壁にあるところから、曲がって廊下から別の部屋に入る。
部屋に入ると、床に白い絨毯がひいてある部屋になっている。
ここがクロの家だ。窓には薄いカーテンがかかっている。
クロは床をタッチする。
外は薄暗くなっている。窓にカーテンが自動でかかり閉まった。
クロ専用のクッションの上に座り、床をタッチしてテレビの電源を入れた。
クロは脳改造をされている本物のネコである。ちなみに名前のとおりクロネコである。
脳改造されているから、テレビを見てひまをつぶすこともある。
好きな番組は動物が出ている番組だ。人間がいっぱい出ている番組はよくわからない。
また、玉を足でけって転がすスポーツだっけ、それも好きだ。
クロは手をなめて毛づくろいをしながらテレビを見た。
夕食はさっきの猫缶だったので、夕食の準備をする必要もない。
準備といっても床をタッチすれば、自動で猫缶が出て来て缶切りで開けてくれる機械がある。
たまには猫缶以外のものも食べたくなるんだけど、そのときは人を呼ぶ。
お魚とかお刺身とかを食べたくなるときはそうする。
クロはしばらくテレビを見て、眠くなっていたので床をタッチして消して、電気も消す。
明日も出社時間の前には起きないと…
とクロは思いながら目を閉じて眠ることにした。