土星あたりの見物
僕とキララは外の衛星の景色を見ながら食事をとったあと、二人で話して土星に行くことにした。
午後は土星見物。夜は土星近辺で一泊。次の日はもうちょっと遠くへ…
「おほん。そういえば私のしゃべりかた。違うふうにしなきゃ、キラっぽい話し方になっちゃった」
「そうだね。でもいいんじゃない? 二人きりだし…」
「いやうさ耳の子とかといるときのためにね。しゃべりかたを代えておかないとばれちゃう。
じゃあ。進路を土星に向けましょう…」キララは話し方を変えた。
僕が土星に進路をセットし、超高速で向かうようにセットした。また星々が線の形に引き伸ばされる。
「やっぱり、この移動中がこれぞ宇宙と言う感じ…
自動ドアの大きいのを開くとあっというまに移動できるけど、宇宙を移動しているという時間がないよね…」
「たしかにね…」
星々の線を眺めながら会話していると、3分ほどで星々の線が点に戻っていく。もう着いたらしい。
ちょっと遠くに土星が見える。土星の輪も見える。
輪を持つ惑星がどんどん大きく見えてくる。
「見てみて。土星の環。しましま模様が細かく見えるよ…」写真や動画とは違う生の土星。
キララが、展望室へ移動しようと言い、階段を上っていく。
「宇宙船の進路を太陽の方向から土星を見るように進んでいたけど、土星の横から見るように移動してちょっと土星の輪を斜め上から見る位置まで移動しているところなんだけどね。
もう少しで土星の影が土星の環に影を落とすのが見えるよ…」
「あ。ほんとだ…」
土星の輪に影が見える。影のところは暗くなって輪が切れている。あまり意識はしてなかったけど、土星の輪。影で暗くなって見えていないところがあるのも現実的。
土星に太陽からの光で土星自身が影となるのも普通だ。とても大きい影。地球には輪がないけど、似た現象としては、月に地球の影となって月が欠ける月食がある。
さらに土星へ近づいて行く。
すると、点のようなものが見え始める。土星の衛星。
「えーと。タイタン。直径は地球の半分ぐらいの大きさで、この衛星には濃い大気があり、雲も観測できる。大気の主成分は窒素と少量のメタン。だって…」僕はキララの使っているデバイスをコンソールから持ってきたので、土星の衛星。タイタンの解説を読み上げる。
「タイタンには、メタンやエタンの川や湖があって、液体メタンの雨が降るわね…
とっても冷たい雨なのかな… タイタンの平均気温は-179度…」
「冷たい水の惑星だね。メタンとかエタンだけど…」
タイタンの見た目は分厚い雲に覆われているので、その下の地表は見ることができない。
地球に似ているのかな?
「このタイタンでも地表へ降りてみましょう…」口調を変えたキララが言う。
展望室から下に降りる。
宇宙船を操縦して、タイタンの地表へと着陸させていく。
タイタンの大気の中。宇宙船が分厚い雲の中に入った。
数分。分厚い雲の中なので何も見えない。
氷の世界の地表。地球に似た地形。液体が流れる川か何かも観察できる、それと遠くには液体がたまっている湖のようなもの。
地球とは違い、水と緑の惑星とはならないが、地形の見た目は非常に似ている。
地表を構成している物質や水が違うだけ。
宇宙船を地表へと着陸させる。ちょっとした高台。
着陸してから3分ほどタイタンの地表を見ていると「なんかここも誰もいない世界って感じだね…」
キララがつぶやく。僕も「確かに、時間が止まっているかのような冷たい世界。こうして見ていると地球から15億kmも離れたところにいるのが信じられないよ。マトラ星系やカザー星系にも行ったけど、移動は自動ドアだったから他の星系に行っているという実感があまりなくて…」
「そうだよね。私も自動ドアで他の星系にいどうしてばかりだったから、こうして宇宙旅行をしてみると、地球との距離を感じるよ…」とキララ。
「また。くっついたり。抱っこしたい…」僕は外の氷の世界を見ていたら、また人恋しくなった。
「いいよ。じゃああそこのソファに…」展望室の端にある座り心地のよさそうなソファがあるところ。窓のそばなんだけど、テーブルもあるし、くつろげる。
窓のに対して直角の位置に3人掛けのソファが置いてある。その前には小さいテーブル。観葉植物も大きな鉢に植えてある。ちょっとした緑。植物があるのとないのとでは違う。
キララがソファに座る。そしてキララの膝の上を、キララが手をぽんぽんとしている。
「あれ。僕が抱っこするんではないの?」
僕はキララが膝枕の準備をしている。スタンバイ状態だ。
「ほら。このソファは大きいから、今度は僕。いや私がユキ君を膝枕してあげる。
私の膝枕。そして狐の尻尾枕、あるいは尻尾布団どっちがいい?」
「じゃあ尻尾布団」僕は尻尾枕もいいかと思ったけど、今回は布団にした。
キララの太ももの上に僕の頭を乗せる。キララの柔らかい足が僕の頭の後ろにあたる。
キララの太もも。ちょっと細目だけど、柔らかいので心地がいい。そして僕の胸の上にキララの尻尾が乗る。ふかふかの狐尻尾。右手で尻尾を触る。ふっかふか。
僕はふっかふかの尻尾を触りながら、外の光景を見る。氷の世界。誰もいない世界。
ふあーあ。僕はあくびをした。
キララは僕の頭をなで始める。
「寝ちゃってもいいよ。時間があるし… 起こしてあげる…」
キララに膝枕されていると、首のところにあたるキララの太ももの体温を感じる。キララの狐尻尾も心地良い。尻尾をもふもふしながら、外の景色を見ているとうとうとしてきた。
☆☆☆
うーん。僕は誰かをぎゅっと抱きしめながら、寝ていたようだ。
キララはいつのまにか、膝枕をやめて僕の隣で寝ている。ソファはだいぶ幅が広いので二人が寝ていても大丈夫だった。そしてキララの尻尾を僕とキララの間にはさんで、向かい合わせで寝ていたようだ。だから温かかったのか。
僕は先に目が覚めたけど、まだ時間がありそうだ。僕はまた目を閉じた。
ぎゅっとキララに抱きつく。ふかふかのキララの体。キララのあったかい体温が心地よい。
目を閉じる前に見えるタイタンの表面。代わりはなく氷の世界。僕は目を閉じてからキララをぎゅっとして、キララの存在を感じた。
☆☆☆
「ん…」僕は目がさめた。隣にキララはいない。どこに行ったんだろう。
僕は立ち上がって、周りを見る。いない。
僕は、下に降りてコンソールあたりを見る。
いない。
トイレ?
5分ぐらい待っても戻ってこなかった。
う。ひょっとして、キララだけTMRを使ってどこかに行った?
「ねえ。キララ…」僕は心細くなって、キララを探す。
☆☆☆
めぼしいところを探したけどいない。
で。探していないところがあった。トイレ。女子トイレと男子トイレが別になっている。
僕は、女子トイレの中に入ってみた。
ん。誰もいない。
で。女子トイレの向かいのシャワー室から音が聞こえる。
「ねえ。キララいる?」
「…… うん。いるよ。ユキ君が寝ているうちにシャワーをと思って… 心配した?
いなくなったから…」
「うん。ちょっとだけ… 僕は展望室にいるね…」
「わかったよ。今。尻尾を洗っているところ… あと10分ぐらいしたら出るよ…
出たら覗かないでね…」
「わかったよ…」
はあ。良かった。キララだけでどこかに行ってしまったのかと思った。
ふう。僕は階段をのぼって、展望室へと行く。
外の形式は相変わらずだ。氷の世界。太陽もどこにあるのかわからないほど小さい。けれども太陽はわかる。
展望室へ行くついでに、飲み物を取ってくる。
一人だとさびしい。キララはシャワー中なだけなんだけど、今まで見える位置にいたから、見える範囲に生き物がいないと心細い。あ。でも観葉植物はあるか。
やっと。キララが戻ってきた。ほかほかだ。
「寂しかった?」キララは僕に聞いてきた。
「うん。だってこんな誰もいない衛星だからね。キララの姿が見えなくなったときに心細くなってしまって…」
「よーしよし…」キララは僕を抱きしめて、頭をなでてくれる。
キララとくっつくと、僕の心はあったかくなった。
☆☆☆
「ユキ君もシャワーを使って来たらどう? 男子トイレの向かいにあるからね。それとも、僕。いや。私の使ったあとのシャワー室を使う?」
「え。いや。普通に男子トイレのところのを使うよ…」
僕はシャワー室へと移動することにした。
シャワー室は普通のシャワー室だ。宇宙船の中とも思えず。どこかのホテルのシャワー室みたいだ。
トイレとシャワー室は共用ではないので、結構広く使える。湯船がないのがちょっと物たりない。
僕は頭を洗い、体にボディソープをつけてあらった。ちゃんとボディソープは、人間用。ネコのハーフ用。ウサギのハーフ用。トリのハーフ用。狐のハーフ用。リスのハーフ用。わんこのハーフ用と分かれていた。
僕は泡をシャワーで流して、シャワーの隣のボタンを押す。そのボタンを押すと、温かい乾いた風が出てくる。タオルで拭きながら、乾いた温かい風をあてると、すぐに体は乾くし、髪もかわかしやすい。昔ながらのドライヤーもあるけど、髪用のタオルを使うとすぐに髪が乾く。
熱気は換気され、水へと循環されるらしい。
僕はさっぱりした後に、シャワー室から出て、展望室へと向かう。
☆☆☆
展望室へと向かうと、窓の外の景色が変わっていた。宇宙空間。近くに土星の輪が見える。
「キララ。お待たせ… なんか落ち着くね。この照明…」僕は展望室の照明を見ながら言う。
電球色になっている暖色系の照明。
「今は夜の時間帯になったので、この照明だよ… そして宇宙船は移動させたよ… 土星の輪が一番きれいに見える位置に…」
本当だ。程よい大きさで土星が見える。そして土星の輪。しましま模様が細かく見える。それに土星の衛星と思う丸いものがぽつぽつ見える。土星の輪の上に衛星の影を落としているものもある。
「いいね。これ。いい眺め…」
宇宙の神秘的な眺めは、地球の自然の眺めとも、人が生活する都会の眺めとも違う。
無機質なものなんだけど、ずっと見ていても飽きない。ちょっとずつ動いていると思うんだけど、遠くからだし… 止まっているようにも見えるけど、よく見ると動いているのがわかる。
壮大な土星の景色。それを窓の外の背景として、夕食がテーブルの上に並んでいた。
部屋はなんか寒い。
「ちょっと寒いかな。温度は22度に設定したんだけど。今日はあったかい、かき卵うどん。それと、おでんだよ… 冬には早いけど、外に合わせて部屋を寒くして、あったかいものを食べるという風にしてみたの… それとおでん。大根の上に卵の黄身を乗せてみた。土星みたいでしょ」
たしかに、おでんには細工がしてある。大根のしましまが土星の輪。黄身が土星そのもの。そして、からしが大根の上にちょん、ちょんとつけてある。
二人でかき卵うどんを食べる。そして、おでん。からしがアクセントとしていい感じだ。
ずずず。とうどんを食べて、大根。味がしみている。未来の市販品なんだろうけど、非常に味がしみていてうまい。それに卵、餅入り巾着。小ぶりのはんぺん。ちくわ。がんも。が入っていた。普通サイズより小さめなもので、具だくさんになっているけど、量はちょうどいい。
「あー。あったまるー」
「ほんと…」
土星の輪の景色をおかずにプラスしていいぐらいだ。それだけいい眺め。
僕たちが大人だったら、先にかき卵うどんを食べて、残りのおでんとお酒で一杯いっているかな。
日本酒なのか、ビールなのか。わからないけど…
酔っぱらうってどうなんだろう…
そういえば、ララお姉さんはウィスキーぼんぼんとウィスキーを呑んで酔っ払って、神系のララになっていたりする。酔って寝ちゃったときに、体を借りて降臨しているだけなんだけど。
「そうそう。土星の環。その中に入ってみよう… 輪の中で一夜を明かそう。
ちなみに、衝突の危険はないよ。安全なバリアがあるから宇宙船は安全…」
「じゃあ。行こうよ…」僕はキララに言う。
うどんの容器とおでんの容器を台所で洗い(機械ではなく手洗いだった)、宅配ボックスを兼ねている物入れの一角に洗った容器を入れてから、宇宙船を移動させる。
「そういえば土星の輪。それぞれ複数の輪があるんだけど、土星の輪はそれぞれ違った速度で回っているんだよね… それと土星の輪の暑さは10~20メートルしかないんだって…」
「以外に薄いよね…」
どんどん近づいてくる土星の環。輪の中に入り、一つ一つが氷とか岩石とかで出来ているのがわかるぐらいに近づいた。
その土星の輪の氷の中で身近なもので、大きいものの横に宇宙船をくっつけた。
「ここでいいかな。しばらくこの宇宙船は土星の輪の一部になるよ…」
近くに見える土星。土星の輪の中にいる宇宙船。
「氷とかぶつからないの?」
僕はあたりまえのことをキララに聞く。
「まあ。ぶつかるかもしれない。でも大丈夫。丈夫だし、この窓もそうなんだけど、小さな穴が空いても、隙間を埋めてくれるから、空気が漏れることもないし… バリアがあるから、この宇宙船ぐらいの物がぶつかっても、はじいてくれるよ。最もこの宇宙船の質量より大きいものだと、こっちがはじかれるけど…」
「ふーん。じゃあ明日。どうしよう。さっそく太陽系を出ちゃう?」
僕はキララに聞いてみる。
「そうだね。せっかくだから、太陽系にも面白い惑星や衛星はあるよ。それを見てから、他の星系に行こうかなと思っているの… 例えば天王星。海王星を見て、そして近い星。連星系であるシリウスA、シリウスBを見てから外星系へと行こうと思うけど…どうかな?」
「うん。いいよ。楽しみ…」
キララがハンモックを展望室に用意してくれた。一人用が2つと、二人用が1つ。
キララは寝る時間が近づくと、二人用のハンモックに腰かけている…
宇宙で二人だから、きっとくっついて寝たいんだろう。僕もそうだ。
キララが座るハンモックに僕も座る。
「なんか宇宙旅行っていいね」僕は、僕の時代ではまだ一般的ではない宇宙旅行をキララのおかげで体験できている。今僕たちがいる時代では、宇宙船のレンタルや、地球の衛星軌道上に宇宙港があるし、カザー星系やマトラ星系。TMRを開発している会社がある他の星系とも国交がある。それにもっと手軽に仮想現実でも体験できる。
「風邪をひかないように、ふかふかの毛布をかけてね…」とキララ。
ハンモックに二人して寝っ転がる。
あったかい。キララがとっても近くにいる。なんか安心する。
だんだんと船内の明かりが暗くなっていく。暗くなると、外の土星からの光があることに気が付く。
キララの体温を感じていると、心地良くなって、うとうとと、し始める。
「ふあーあ」僕がくびをした。
「おねむだね。私も寝るよ。お休み…」
「うん。お休み…」
僕はキララの寝顔を見ながら、土星の輪の動いている氷を見る。向こうには土星が見える。
かぎりなく動く土星の輪の氷を見ているうちに眠くなってきた。
すでにキララはすーすーと浅い呼吸なので、寝てしまっているようだ。
キララかわいい。
僕は眠くなってきた目を閉じた。




