けもの子達の恋
ユキ君の時代。場面はヒメルとみのるお兄さんが通っている高校。
夏休みを過ぎてから、転校生が新しく仲間に加わった。
「やあ。おはよう…」
「今日もさわやかだね…」
ヒメルは、転校生の汐音にあいさつした。
汐音は猫のハーフで少し背が高め。男子の制服を着ている。とってもさわやかな王子様みたいな人。かなり美形。
「こんにちはー」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
朝の挨拶。
「きゃーかっこいい。王子さまみたい…」
「今日も女子に人気だね…」ヒメルは汐音に言う。
「まあ。ね」苦笑いをする汐音。
☆☆☆
放課後。「家においでよ…昔のCDあるよ…今ではめずらしいCDプレーヤーも動くし…」
ヒメルが、汐音に家においでと誘っていた。
汐音が歩くだけで、そばを通る女性達が振り向く。
たとえると、少女漫画に出てくるお兄ちゃんの友達にいる、とっても優しくて女子に人気がある人。
でも本人は傲慢になったりせず謙遜しているような人。
「おじゃまするよ… いい家だね…」
「うん。ヒメルの部屋は上だから待ってて…」
と汐音を部屋へ先に言っていてと言うヒメル。
ヒメルは、汐音のためにお菓子や飲み物を用意していた。
砂糖抜きの炭酸とはちみつ。それとそんなに甘くないクッキー。
ヒメルは自分の部屋に入り、テーブルにお菓子とかを置いた。
そして、ヒメルは昔のCDを手にとった。
「これ大昔のCD。おさかな三兄弟や、およげサンマ君や、かつおぶしになったマグロとかの
歌が入っているよ…」
「うん。聴いてみるよ…」
2人でCDを聞いていると、誰かが玄関を開けた音がした。
とんとんとん。階段を上がってくる足音がする。この音はミミちゃんかな…
ヒメルは足音のほうに耳を向けて聞いた。
ヒメルはトリのハーフなので、ネコ耳とかウサギ耳のように大きな耳が外にでているわけではない。 あたまの羽毛の毛の中に埋もれている。あんまり聴力はいい方ではない。けれども誰が来たかはわかったみたい。
「ねえ。ここにララちゃん来ている?」ミミちゃんはヒメルの部屋をノックしてからドアを開けて聞いた。
「えーと。来ていないよ…」
「そっか。えっ…あ」ミミちゃんが固まっていた。
「えーと。こんにちは…」汐音はクロネコのネコミミ少女に言った。
ミミちゃんは、顔を赤くしながらさっさと階段を下りて行ってしまった。
「なんか、ちっちゃくてかわいい子だね…クロネコのハーフ?」
「うん。そう。近くに住んでるの…」
ヒメルの通っている学校の同じクラスにはネコのハーフの子はいない。隣のクラスにはいるんだけど… なんか汐音はミミちゃんが気になった感じかな。
☆☆☆
心臓がばくばくする。あたしミミはどきどきしていた。
にゃんなのあれ。まるで少女漫画に出てくるものすごい美形の男子みたい…
もしかして王子様? あたしのほうを見て、微笑んでいたじゃない。
あたしの恰好。変じゃなかったわよね…
今日は猫のイラストが描いてあるTシャツと丈が短いパンツを履いていたのが失敗だった。
☆☆☆
「ねえ。ヒメル? あのさ。今日のあなたの家に来てた猫のハーフの人のことなんだけど…」
「あ。あれ。転校生。夏休みが終わってから、この町に引っ越してきたんだって…結構お金持ちの家にホームスティしているみたい…」
お金持ち…
とってもさわやかな人。イケメン。
にゃんなのよ。もう。次に会ったらどうしよう…
ミミちゃんは、考えながらどきどきしていた。
明日は、学校がえりに友達をさそって町まで買い物に行こう。
おこずかいは、おばあちゃんから昨日もらったし… にぼし代をすこし我慢すれば…
☆☆☆
同じ日の昼間のこと。
ヒメルとみのるが通っている高校。そこに『なでなであんど、肩たたき』マシンがある。
卒業生が数個寄付したのだ。バスケットボールぐらいの玉が支柱の上についているようなものだ。
支柱の高さは自由に変えることができる。上についているボールの高さを頭ぐらいの位置にしたり、腰やお尻の位置にしたりできる。
使い方はこうだ。まず人間用の場合はスイッチを『肩たたき』にする。すると、小さいボールが2つ出てきて、超高速でたたく動作をしながら振動する。ボールをちょうどいい肩の高さにセットしてからスイッチを押して、肩に押し当てると肩たたきの動きになる。
けもの子用の『なでなで』モードにすると違う使い方になる。動物が体のかゆいときに、何かになすりつけて『かいかい』をしていることがある。ネコやわんこのハーフの子ならば『なでなで』モードにした後、自分の頭ぐらいの高さにする。スイッチを押すと左周り、またはたまに、右周りにボールが回転する。
ボールにはちょうどいい突起がついており、自分の頭や頭のミミの所。腰の尻尾の付け根のところなど、好きなところに押し当てると、くるくる回転するボールが当たって気持ちがいい。
『なでなであんど、肩たたき』マシーンは鳥のハーフの子にとって最適だ。頭をなでなでしてもらうのがとっても気持ちがいい。
頭の位置の高さにボールをセットして、左回転したり、たまに逆転して右回転になるが、そのボールに自分の頭を押し当てる。インコが丸い玉みたいなものに、自分の頭をなすりつけて、ぴろぴろ鳴いているときのようになる。トリのハーフの子に使っているところを聞くと『たまんねー』という答えしか返ってこない。ハーフの子は、人間より気持ちがいいポイントが多いみたいだ。
☆☆☆
午前中。もうすぐで昼というとき。教室に、ぐれたトリのハーフの娘がいた。
ぺたんこのカバンを机の横にかけている頭の色が紫の子。
「かったりー。今日は帰るわ…」
「おい。授業は始まったばかりだぞ…」
先生が注意する。
紫の頭の娘は「今日の範囲は137ページから145ページだろう。昨日の夜やっちゃったんだよ。最初の説明を聞いて、もうわかったから。帰るんだよ…」
「おい。座れ…」
「たりーんだよ。全国で20位に入る学力があれば文句ないだろう…」
「ぐっ。勉強ができるのは知っている。お前がトリのハーフだからな…」
不良で目がきついトリのハーフの娘だが頭はかなりいい。
娘は教室をそのまま出て行ってしまった。
今は授業中なので、廊下には誰もいない…
階段を下りて行った。
「おっ。ひさしぶりに使うか…」
娘は『なでなであんど、肩たたき』マシーンのそばに歩いて行く。
よし。誰もいないな…
このマシーンを使っているところは誰にも見られてはいない。
目つきがわるい不良少女であるあたしが、このマシーンをつかって、なでなでモードになっているところは見られたくはない。
誰もいないのをもう一度確認してから『なでなでモード』にセットをして、身長が167cmのあたしにちょうどいい高さに玉の位置をセットする。そして低速回転モードにしてスイッチを入れる。
自分の頭をボールになすりつける。
「あ。あ。あ。いい。すごくいい」
回転する玉に自分の頭をなすりつける。なでなでがいい感じ。たまに頭にあたる突起がちょうどいい。こりこり。なでなで。こりこり。
自分の逆側のほっぺたのほうもいいな。頭を逆向きにするか。
「あ。あ。あ。あ。あ。いいいいいい」
んんんんん。
「あ。あ。あ。あ。あ。いいいいいい」
んん。いいわぁ。これ。すごくいい。ちょっと前に、髪の毛が抜けて、抜けた所から羽毛の産毛が生えてきているんだけど、そこがむずむずして、かゆかった。
その場所を玉に押し当てて、なでなでモードになる。
いいわぁ。これ。すごくいいわぁ。
こんなところ絶対人に見られてはならない。へにゃっという顔になっているだろう。
あたしは、逆側をなでなでマシーンになすりつけようと思い、逆のほうを向いた。
「あ"」
人がいた。ベンチに座って。こっちをじっと見ている。
あたしは、逆のほうを見てから、またベンチのほうを見てみた。
やっぱりいる。人がいる。見られた。
半分ひきつった顔になって、『なでなであんど、肩たたき』マシーンの電源をオフにして、ベンチのほうに歩いて行く。
「おい。おまえ。いつからいた…」
「えーとだいぶ前…」
「なんでここにいる。授業中だぞ…」その男の子は気弱で体はだいぶ細い。
「具合が悪くて。今日も早退するところ…」目つきが悪い娘は、きっつい目で男子をにらむ。
男子は、きつい目でにらまれて、ぶるっと体をふるわせた。でも…「ぷっ」
笑いをこらえてふいてしまった男子。
この目つきの悪い不良少女が『なでなであんど、肩たたき』マシンを使って、へにゃっとなっているところを思い出したんだろう。
「絶対あたしがあれを使っていたことは言うな。かみ殺すぞ…」
「わかった…じゃあ僕は帰るよ…」体が弱そうな男子は立ち上がる。
あたしは『なでなであんど、肩たたき』マシンのそばにおいてあるぺったんこのカバンを取りに向かう。
どさっ。音がした。
なんだ。と思って見ると男子が倒れている。
「なんだよ。おい。大丈夫か?」かなり心配そうな顔で男子を見る。
不良娘だが、困っている人を見るとほっとけないタイプだ。
男子は目の焦点が合ってない。
「くそっ。立てるか…」
だめだな。あたしはひ弱な男子をおんぶしようとするがうまくいかない。
「ちっ」あたしはひ弱な男子をお姫さま抱っこした。
そのまま校門に向かって歩いて行く。この男子はあたしの家の近くで見かけることがあった。
たぶん家も知っている。
お姫様だっこのまま歩いて行き。家に到着する。
「おい。ついたぞ…鍵は…」
「えーと。ポケットに…」
☆☆☆
一人っ子らしい。両親は働いていて誰もいない…
家にあがり、男子の部屋と思われる部屋まで行ってベッドへ下す。
「くっそ。疲れた。学校からお姫様抱っこはつらいな…
軽くてよかった。お前、物ちゃんと食っているのか?
あたしより軽いんじゃないか?」
ぽぉっとした顔で見てくる男子。顔も赤い。熱があるんだろう。
「横になって寝な。あたしは帰るからよ…」
「うん。ありがと…」
☆☆☆
別の日。あたしは窓際の席から校庭を見ていた。
「あ。あいつがいる」ふらふらとしているじゃないか…
くそっ
「たりーから早退する」男子を見かけるたびに早退する不良娘。
☆☆☆
1か月はすぎたある日。
「んあ。寝ちまった。なあ… んぐっ」
こっちを見ている大人の人。
男子の家の居間でソファに座ったまま、一緒にならんで寝てしまったらしい。
夕方もとっくに過ぎて、暗くなったときに目がさめた。そして…
「いやぁ。すごく気持ちがよさそうに寝てたから。起こさないで起きるまで待っていたんだ…
いつもありがとう。息子が体弱くて、家に運んでもらったりしていたのは聞いていたんだ…」
「ほんと。ありがと。今日は夕飯も食べていって…」
「いや。あたしは…」
「さあさあ…」
不良娘は、テーブルの上に並んでいる好物のエビチリに目がとまった。
男子の両親に勧められ、夕食をごちそうになる。
☆☆☆
「なんでこうなったんだろうな…」
あたし。頭が紫の不良トリハーフ娘は、ひ弱な男子と付き合うことになっていた。
たまに早退する男子をみて、心配になって後をついて行くうちに、いつ倒れてしまうかも、ということで、男子のことをほっとけなくなった。
数回ふらふらっと、倒れてしまった男子の介抱をしているうちに情がうつってしまった。
元気がいいときにお礼に頭をなでてもらったとき、『なでなであんど肩たたき』マシンより、なでなではかなりうまいことに気が付いた。昔インコを飼っていたことがあるからと言っていた。
「なあ。また。なでてくれ…」あたしは、男子の横に座りながら言う。
「うん」男子になでなでされて、あたしは目を閉じた。
☆☆☆
「ねえ。汐音。トリのハーフの娘。最近目つきが変わったと思わない?」
ヒメルは休み時間。汐音に話しかけた。「たしかにそうだね。表情がきつかったけど、最近は柔らかくなった。きっとあれだな…」
「そうね。あれね…」
ぺたんこのカバンを持ったトリの不良娘のことが噂となっていた。恋の話。
「あ。そうだところでさ。今週の土曜日ヒメルとあたしと、あのクロネコの子をさそって遊園地に行かない? チケットが3つあるんだ…」
「そうだね… いいよ。ミミちゃんに聞いてみるよ…」
☆☆☆
あたしミミは、先週の休みにクラスの友達をさそって、服を買いに行っていた。
普段用の物とは別に、かなりかわいい系の白くてふわっとしているワンピースも買った。
いいことないかな…
「ねえ。ミミちゃん?」ヒメルが話しかけてきた。
今日はみのるお兄さんの家に来ている。今日の宿題でちょっとわからない所があったからだ。
「なに?」
「あたしのクラスに、不良のトリ娘がいてね。最近目つきがやわらかくなったんだ。きっと付き合う人ができたからだと思うけど、ミミちゃんはどう思う?」
「そうね。その人が誰かほかの男子と会っているところとか見た人いるの?」
「そうだね。いるよ。ヒメルのクラスではないんだけど、別のクラスの子みたいなんだ。その子は体が弱くて、たまに早退しているんだけど、不良娘は、男子が早退したらかならず、『たりーな。早退する』て言って出ていくんだ…」
「じゃあ。決まりね…」
宿題を教わった後。ひめるから話を聞いた。
「前に家に遊びに来ていたネコのハーフの子覚えている? その子から遊園地のチケットがあるって、3人で今度の土曜日に行かないって誘われてさ。その子はクロネコのハーフである君が気になっているみたいだよ…」
「えっ。い。行く。絶対行くわ」ミミちゃんはどきどきしながら答えた。
☆☆☆
土曜日。
「なんか気合い入っているね…」
僕ユキは、白いフリフリのワンピースを着てお出かけ準備をしているミミちゃんを見た。
「ヒメルと、ヒメルの友達のネコのハーフの男の子と遊園地に行くの…」
「そっか。頑張ってね」僕ユキはミミちゃんを見送った。
☆☆☆
ジェットコースターや、垂直に落ちる絶叫マシンや。お化け屋敷など。かなり楽しんだ。
お昼もその場で食べた。素敵なお店だった。雰囲気もいい。
いやあ。王子様みたいな猫のハーフの美形の子。そばを歩く女子たちが振り向くほどの子。
ヒメルも美形のほうになるんだけど、ネコのハーフの子は王子様みたいだから、なんかあたしは特別みたいな感じになる。「ふふん。いいでしょ」みたいな感じになる。
「えーと。飲み物飲みすぎちゃった。トイレに行きたくなったかな」
ネコのハーフの美形の子が言う。じゃあ「えーとあたしも。飲み物をちょっと飲みすぎたみたい。一緒に行ってもいい?」ミミちゃんは少し遠慮がちに言う。
「いいよ。一緒に行こう」美形の子は手をさしだしてきた。
いいのという感じでミミは見上げる。
あたしは手をつないだ。
やばい。いいなあ。これ。お付き合いをしたらこんな毎日が続くのかな…
トイレの前。男子トイレと女子トイレがある。
あたしは「じゃああたしはこっちだから」と女子トイレに行こうとする。
「あ。僕もこっちだよ…」美形のネコのハーフの子は女子トイレに入っていく。
「えっ。ちょ。ちょっと…」あれ。にゃ。にゃに???
☆☆☆
ミミちゃんは、家に帰ってきた。朝はるんるん気分で出て行ったが、ミミちゃんの耳はしおれている。
「なーに。告ってふられたのぉ」ラミちゃんがミミちゃんに聞く。
「どうしたの? なんかあったの?」僕はすごく優しくミミちゃんに聞く。
「えーとね。ヒメルの友達。ネコミミの長身の男子の制服を着ている子いるじゃない…」
「うん。いるわね。たまに遊びに来ているわよ…で?」
「じつは…」
「実は?」
「ネコミミの子は彼女だったのよ。つまり女の子…」
「えー。あのひと女の子だったの?」僕はミミちゃんに言う。そうか。てっきり『僕』と言っているし、制服も違うから男の人だと思ってた。確かに美形すぎる。
「勘違いしてたわ… あたし…王子様みたいだと思ってたのに…」
ユキは、ぽんぽんとミミちゃんの頭をやさしくたたく。
しおれたミミに変化はない。
「ほらっ。煮干し食べなさいよ… 次の子見つけるのよ…」とめずらしくラミちゃんはミミちゃんを元気付ける。
ミミちゃんはにぼしを食べた。いつもよりしょっぱく感じる。




