一時的に西暦4073年の火星で観光をしたあと地球へ帰る話(5)
火星の別の大陸へ移動する。
TMRがあるのですぐに移動が完了する。
昔は飛行機とかを使い、何時間もかけて惑星の反対側へ移動していたのがウソのようである。
移動が完了し、ロビーから外に出てみる。
ここは火星だが、なんとなく違う星系の星のように思える。
なんでかなと思っていたが。見てわかった。
道に生えている草が見たことのないものである。
お花の形は地球のと似ているが、お花の真ん中から茎がのびており、上にもお花が咲いている。
上のお花は下のお花の色と違っている。
そして、さらにそのお花の上にも咲いていて、色がちょっとずつ変わっている。
そのお花は7段草と言い、名前が書いてあるプレートが地面につきさしてあった。
「へー。めずらしいね。地球に持って帰りたいね」
ユキは写メをとる。
そして検索すると、お花屋さんがあるとの表示がでてきた。
「ねえ。火星にある異星人の町なんだけど。ショッピングはどう? 服とかみたい」
キララが言う。
「うん。いいね」僕もショッピングをしたいと思ってたとこ。
特にこの7段草が気に入った。ララちゃんとかにお土産として買っていきたい。
ララちゃんとラミちゃんはハーフのウサギっ子なので根菜が好き。
畑に何か植えるのは好きだと思うから、めずらしい植物や根菜があればきっと喜ぶだろう。
☆☆☆
しばらく進むと、にぎやかになってきた。
地上には巨大な樹木のような外観の建物が建っており、そこに人が住んでいるようであった。
道と道の間も広いし、地球にはない植物が植えられている。
きっと、住民にとって、なじみのある地元の植物を見ると落ち着くんだろうか。
道の両脇を見ると、お店がある。
どれも入り口は地下に向かって続いている。
「ここかな。入ってみよう」きららがしっぽで『ぱしぱし』してきた。
「うん」僕は横の方を見てよそ見をしていたからしっぽの『ぱしぱし』はキララがたまにやるものである。
地下に向かって続く入り口を進むとお店になっている。
植物とペットがメインのお店だ。
僕は店員を探すが、店員の人がどの人かわからなかった。
制服ってないのかな。
キララを見る。
キララはTMRでほしいものを探しているようだ。
「こっちだよ」
キララは指をさす。
キララの後をついていくと、七段草の種が入っている袋が置いてあった。
結構人気の商品みたい。
他にも花が咲くたびに花の色が変化する植物の種も置いてあった。
「これ買ってく?」
キララが聞く。
「うん。これ。TMRの共通マネー使えるよね」
「うん。決済したあと、TMRの宅配ボックスに入れるんだよ。私はあっちに行ってるから」
とキララは両手で種を持っていたが、しっぽであっちのほうを示す。
きららは両手に持っている種を僕の両手に手渡してきた。
僕は片手でTMRを操作して決済をする。
そういえば、ミミちゃんだったらネコのしっぽを使ってボタンを押すんだろうかと思った。
そういえばしばらく家に帰ってない気がする。気がするだけなんだけど。
僕は決済をしたあとに、植物のことが書いてある本が売っているのを見た。
この本も粒子状の物質を使っている。
自由に手で持ったり、粒子に分解したりできるので物理的な昔ながらの本と電子書籍の間のような本である。もう、この時代だと当たり前になっている。さすがにこの本は僕達の時代にはない。
この種類の本はもう買ってあるので、購入してライブラリに追加することができる。
この本も買う。
で。食べ物系の植物はないのかなと探してみることにした。
根菜に似たものもあったが、食べられないとあった。
苦いみたい。
でも買ってみるかな。安いし。
あと、たまご草というのもある。
実が卵みたいであるようだ。味もそれなりにおいしいみたい。
これもいいかも。そのたまご草の種も買う。
やっぱり他の星系由来のお店だとめずらしいものがいっぱいあるね。
僕は欲しいものを買い、キララのところへ行くことにした。
☆☆☆
キララは何かを見てる。
僕はそっと後ろから近づいていって、キララに抱きついた。
「何みてるの?」
「ん? ユキ君終わったの?」
キララは手に持っているものを見せてくる。
光の加減で手を動かすと、色が変わって見える本にはさむしおりであった。
押し花というのはこの町に住んでいる異星人にもあるらしい。
粒子状の物質を使っている本には印をつけることもできるが、しおりを挟むのが好きな人もいる。
文献で昔の人の行動を読んで真似をしたい人も出てくるのかな。
ペットも見てみたが、地球人には売ってくれないらしい。
なのでこのお店をあとにすることにした。
☆☆☆
向かいにある、服を売っていると思われるお店。
また、地下へ続いている入り口から中へ入る。
いろいろな服が売っている。
色はカラフルなほう。
TMRをかざすと説明が表示される。
この町の住人が住んでいる元々の惑星にある草木からとった色で染められている服。
「あー。この服。いい色。ねえユキ君」
キララが服を手にとる。
とっても綺麗な淡い緑色と薄い青色をブレンドしたかのような色合いのワンピース。
「うん。キララに似合いそう」
僕もその服を見て言う。
「TMRで撮影してから転送してくれる?」キララは服を持ち、こっちを見る。
撮影してから、僕はボタンを押す。
すると、キララがその服を着ている映像が表示された。
キララもTMRを見てる。
見ながらくるっと体を回転させると、画面の中のキララも回転する。
服のすそもふわりと広がる。
「いいね」
ユキは言う。
「うん。いいね。これ。買おう」
サイズもぴったり。しっぽを通す穴の切り込みもある。
ユキもパーカーのようなものを手にとってから買うことにした。
このパーカーも頭のところに切り込みがあり、お耳が出せるようになっていた。
僕には必要ないけど、普段はぴったりくっついているので気にならない。
服のサイズも合うし、好みに合いそうだし、買おう。
あ。どうせならみんなの分の服を買っていくことにした。
みんなには上に羽織れるような服にしよう。
えーと。ララお姉さんとミアお姉さん、ミミアお姉さんの分は背が高いから大き目のサイズにする。
ミミちゃんは僕とほとんど同じ体形。
ララちゃんには子供用のものと…
それぞれ買い、僕達は服屋さんをあとにした。
☆☆☆
しばらくぶらぶらと町を歩く。
なんか面白いね。
ここは地球ではなくて火星で、僕達のいる時代からはるか未来なんだけど…
太陽系の中とは思えない感じ。
見たことがない植物と地球人以外の人がデザインした建物があるので、異星にいるように思える。
近くを歩いている人達も、僕みたいな地球人の人からキララのようなハーフの人。
それと他の星系出身の異星人もいる。
体の大きさは僕達とあまり変わらないように見える。
子供や家族づれ。親と一緒に歩いている人達。
そういうところは僕達の地球とあまり変わらない。
そういえば、道も綺麗。
ごみとかほこりは落ちてない。
しばらく街をぶらぶらしたあと、キララが言った。
「別の星系の人が作った町が隣にあるからそっちに行く?」
「うん。そうだね」
この街。植物が好きな種族みたいなので、あまり植物に関連しないものは見かけなかった。
違うところも見てみたいし。
☆☆☆
TMRにより別の地区へ移動するとまた雰囲気が変わる。
今度は鉱物が目立つ。
地球にはないと思われる鉱物結晶を使っているオブジェが道の両脇に生えている感じである。
建物も何かの巨大な結晶を使っているかのように表面が滑らかである。
「うわぁ。すごい。なんか異世界みたい」
感想を言う。
キララは特徴のある建物の写メをとる。
僕はキララが撮影している後ろ姿と鉱物結晶の建物がいい感じに入るように撮影する。
キララが振り向いた。
「なに。私を撮影したの?」
キララはしっぽを左右に動かしながら言う。
「うん。絵になると思って」
と言う。
「じゃあ私も」
キララも僕のほうに向けて写メをとる。
☆☆☆
でも…冷ややかな都市だね。
歩いている人を見ると、この場にふさわしくない感じの、もこもこの体毛を持つ人達がいる。
背の高さは僕達よりちょっと低い感じ。
「あー。地球人がいる」
子供が何名かこっちに来た。
そして。ぎゅ。
ぎゅ。ぎゅ。
4人僕にだきついてきた。
キララのほうを見ると、キララも4人ぐらいに抱きつかれていた。
「あはは」
建物は冷ややかだけど、体毛がもこもこしている子達に抱きつかれていると、ふわふわな感触でいっぱいになった。それと体温は高め。だから夏だと抱きつかれると暑いのかもしれない。
「ねえ。家にきてよ」
「あたしの家にも」
「ねえ。こっち」
子供たちは人懐っこい。
「いいよ」
キララが言う。
僕はもこもこの子達に連れられてどこかに行く。
☆☆☆
ここの町の住人のお家。
入り口がどこかわからない。
けれども、壁にタッチして入り口を作り、中へと入って行く子達。
僕達は子供にくっつかれているのでそのまま中へ入る。
中へ入ると普通のお家になっている。
壁もあり、窓もあり。外が見える。
「あら? 地球人を連れてきたの? ようこそ…」
「ちょうどいい。お茶にしようと思ってたんだ。さあさあ。こっちへ」
父親と母親と思う人が言う。お茶は父親が用意している。
母親はもっと幼い子供を抱っこしている。
テーブルに座る。
椅子は結構余裕をもって並べてある。
きっとお友達が遊びに来るからこうなっているんだろう。
「おひざの上いい?」
「私もいい?」
僕達を案内してきた子のうち、一番小柄な子が僕の膝を手のひらで叩いて言う。
「いいよ」
「うん」
「やった」
「私はお兄ちゃんの膝にすわる」
膝の上にすわってきたもこもこの子。
あ。やっぱりふわふわだ。
動物みたい。
キララの膝の上にも座ってきた。
キララはしっぽを前のほうにもっていく。
その子の脚の上にキララはしっぽを乗せる。
「ふわふわのしっぽ。毛なみがあたし達と違うね」
と言いながらキララのしっぽを手でなでる。
「ほんと?」
みんな見てる。
「はい。どうぞ」
父親が温かいのみものを出してきた。
「ありがとう」
僕はキララに小声で聞く。
「ねえ。マナーとかあるのかな? 他の星系出身の人だと地球人と違ってて失礼になってしまったりとかないのかな」
と言うと、キララは「大丈夫。地球と同じみたい」
キララは飲み物に口をつけた。
膝の上にすわっているもこもこの子。ふわふわで抱き心地がいい。
頭もなでてみる。
頭の毛もふわふわだった。
なごむ。
あたたかい飲み物を飲みながら、この街の暮らしを聞く。
「たまに地球まで買い物に行ったり観光したりするの。ラーメンだっけ?あれ。食べるの難しい」
と子供が言う。
「そうそう。麺というの。あれ最初どうやって食べればいいかわからなかったわ」
「そうだな。私はもう慣れた。結構うまいぞ。麺とからんだ汁がうまい」
自転周期はちょっとだけ違うみたいだけど、住みやすいそうだ。
地元の惑星と似た感じにしてもらい、建物も建設して、重力も調整して…
夜に見える星空は違うけど…町の感じが同じなので、最初は別の街に引っ越したぐらいの感じの違和感しかなかったという。
地球人も遊びに来るし…
よく、お肌がすべすべの地球人がめずらしいので、抱きついてすりすりとかしてるらしい。
「私も子供のころ。地球人に抱きついて連れて来たな」
「私もよ…」
「やっぱり」
「いいひとおおいし」
「建物が鉱物の結晶でできているんですか?」
僕は聞いてみた。
「そうだよ。好物結晶を元にしているナノマシンと言えばわかるかな。設計データを入れると作ってくれる。分解もできるし…家の場所を移転したい場合は家のデータを持っていくんだ」
あれかな。粒子状の本と同じような技術かな。粒子の種類を変更すると鉱物になる?
膝の上の子をなでていると、なんだか眠くなってきた。
心地がいい。
「眠いかい? 飲み物で体があたたまったのと、この子達はふわふわだからね。休んでいくならそのまま寝てもいいよ」
と言われる。
「えーと。いや。僕達はもうそろそろ…帰ろうと思うので」
「そうだね」
と言う。
「そうか。わかった。ほら。膝の上から降りなさい」
「はーい」
「はーい」
膝の上からもこもこの子が降りる。
生きているふわふわのクッションのような子が降りた。
なごりおしい。
☆☆☆
家を出た後、この街もぶらぶらする。
お店の中にも入ってみる。
毛をブラッシングするためのものも売っているので買うことにした。
キララもしっぽの手入れをするのにちょうどいいと言ってたし…
「じゃあ宇宙船に戻って時間移動して、地球の僕の町へ帰る?」
「んんーん」と僕はのびをしてキララにうんと言う。
☆☆☆
宇宙船の中。
時間も移動しながら帰路を地球へ向ける。
ソファに座る。
「ねえ。ユキくん。私の膝の上に」
と言われる。
「ひざのうえ? 僕がキララを抱っこしたいと思ってたんだけど」
と言うけど…
「だめ。私がぎゅっとしてくつろぎながらうとうとするの」
「じゃあソファの上に寝っ転がって一緒に抱き合うのは?」
と言う。
「それならいいか」
ソファの上によこになった。
☆☆☆
ピーピー音がした。
目を開ける。
窓から外を見ると、見慣れたものが見える。
黒い空間に浮かんでいる水の惑星。
見慣れた大陸の形。
「あ。うっかりしてた。ここ。僕達の時代だった。宇宙船を停泊している衛星軌道上に宇宙船を停泊させないとね」
キララが言う。
そっか。忘れてた。
☆☆☆
僕達の時代よりちょっと未来へ移動してから衛星軌道上へ宇宙船を停泊させる。
ついでにメンテナンスも依頼する。
そのあと、TMRで時間と場所を移動する。
TMRの自動ドアをくぐると僕達の町であった。
ちょっと歩くと僕の家。
入り口を開ける。
見慣れた靴。
どん。
何かを踏んだ音がする。
「危ないわね。踏み潰されたらどうするのよ」
ミミちゃんの声がする。
「威嚇よ。なんであたしのおやつ食べたの?」
ラミちゃんの声。怒ってる。
「いいじゃないの? 別にあなたは食べないと思ったから、あたしの友達にあげたの。悪い?」
「あたしに聞いてからにして」
と言う声。どん。
「ぐえ。背中踏まないで。死ぬから…潰されるから」
と言うミミちゃんの声。
「また喧嘩してるね」
「うん」
と言ったあと、ただいまと言い廊下へと足を乗せる。
「あ。おかえりー」
幼稚園児のララちゃんがだきついてきた。
どす。勢いがある。
うさ耳の子。
くるっと顔を上にむけてこっち見てる。
「ねえ。いっぱい。いろいろなにおいがする」
ララちゃんに言われた。
「うん。未来で観光してた」
「そっか。おみやげある?」
期待する目でこっちみてる。
「うん。あるよ」
僕はTMRの宅配ボックスに入ってると言い、居間へ行くことにした。