一時的に西暦4073年の火星で昔ながらのお店でごはんを食べる話(4)
僕達は昔の日本を再現した町へと移動することにした。
いったん西暦4023年の地球へ戻り、火星へと行く。
火星への移動と同時に未来へも移動し、今いる時代へと戻って来ることにした。
☆☆☆
地球の衛星軌道上から出発し、低速で火星へと向かう。
途中はTMRのワープ技術で空間を飛ばし、見た目では光速を超えた速度で移動する。
場所と時間をセットして時間移動はちょっとずつ行うことにした。
火星へつくまで30分ぐらいとした。
実に便利。
「ねえ。キララのしっぽ。お手入れしていい?」
ユキはキララのしっぽを見て言う。
「うん。いいよ」
しっぽをユキの前に出して、ユキの脚の上に乗せてくる。
そばに置いてあるしっぽ専用のくしを使い、キララのしっぽをお手入れする。
「ゆっくりやるからね」
とユキは言い、毛を抜いてしまわないようにくしをいれる。
「そうそう。上手」
キララはユキがくしを動かすのを見ている。
キララはそばに置いてある飲み物を手にとり口にふくむ。
結構しっぽの毛並みがそろってきた。
「なんかふかふかになってきたね」
ユキはくしをテーブルに置いて、手ぐしでしっぽの毛をごわごわする。
手入れが終わったあとにしっぽを持ち上げるユキ。
「しっぽってそこそこ重さあるよね。ジャンプするとお尻が上下に引っ張られるの?」
とユキは聞いてみた。
「うん。そうだね。惑星にもよるけどジャンプするとそうなるね。しっぽって必要なのかな?」
キララが言う。
「どうだろうね。僕にはしっぽついていないし…でもかわいいよ」
ユキはキララのしっぽと顔を見て言う。
「そうかな。私は子供のころトリのハーフだったからしっぽは元々なかったし…羽はいいよ。飛べるし… ばさばさすると足にかかる重さが減るし… 脚がつかれたら、ばさばさやってた」
とキララが言う。
「トリね。飛べるのはすごいよね。でもキララのおみみとしっぽ。可愛いし」
とユキはしっぽを手ぐしでなでていたが、お耳もなでる。
「うん。きもちいい」
目を閉じるキララ。
ほんわかな雰囲気でまったりしながら火星へと向かう2人。
☆☆☆
火星の衛星軌道上へ船を停泊させる。
見た感じは地球っぽく見える。
この時代だと火星は水の惑星となっている。
白い雲もあるし…海もある。
大地には緑があり、ところどころ赤っぽい土だろうと思う地面も見える。
地面が赤っぽいところは火星の面影なんだろうか。
衛星軌道上から場所を選んで備え付けのTMRで移動する。
☆☆☆
TMRにより、あっというまに地上へと移動する。
「やっぱり体が軽いね。あ。でも地球の重力の1/3だっけ? それよりは体が重いかも」
ユキが言う。
「うん。惑星のテラフォーミングキットが発売されていてね。それを使って水の惑星にしたみたいだよ。そのキットにより重力が少ない惑星は重くして、水とか大気が逃げないようにしているのかな」
とキララがTMRを見ながら言う。
「テラフォーミングキットね。でもキットと言っても一般の人が買える値段じゃないよね?」
ユキはキララに聞く。
「まあそうだね。この状態になるまで900年かかるみたい。昔、気の長い人がいて、何年かかってもいいから、テラフォーミングしたいという会社の会長さんがいてその言葉を守ったみたい。今は世代を重ねてその一族の人も火星に移住して住んでるよ」
とキララがTMRを見ながら言う。
うまいね。解説というか…ずっと前から知っているかのように言うキララ。
キララは続けて言う。
「あと火星は他の星系の人達も住んでいるみたい。ほら。海外にチャイナタウンとかあるでしょ。ああいうのみたいに他の星系の町もあるみたい」
「へー」
変われば変わるもんだね。
火星も普通に緑の惑星になるのかと思ったけど、テラフォーミングキットにより緑地化させて、他の星系の人も住んでいる惑星になっているのか。
歩きながら街並みを観察する。
普通に道のわきに立っているもの。
「あ。電柱だ」
電柱を見て言った。僕達の時代だと電柱がない地域がほとんどである。
昔の映像とかを見るとかなりあったみたい。
道路もあり、日本の街並みである。
「僕達の住んでいる時代より前みたい。西暦2000年代初期のころかな」
「かなり古いね。おばあちゃんの時代より前だね」
「このころは令和という年号らしいね」キララはTMRを見ながら言う。
でも家は新しいものも見かけるし、宇宙船を改造して作った家や、僕達がちょっと前に泊まっていた1階しかない外観のマンションもある。
「これ。あれだね。古い町並みと新しい街並みが混ざっているね」
キララが言う。
たしかにそうみたい。
昔には無い建物もあり、僕達の時代より新しいものもある。
古めのお家の建物に『ご自由にお使いください』と書いてある立て札がある。
「入ってみる?」
キララがしっぽを動かして建物のほうを指さす。
すっかりキララもきつねっ子になれたものだね。
中にはいり、玄関で靴を脱ぐ。
お家の中は僕のお家と変わらないような感じだ。
玄関とか廊下とか、古めかしいタンスとか棚とか。壁にかかっている時計とか。
そのほかわからないものもあった。
廊下に置いてある何かの機械。
キララは「これは固定電話だね。お家の中にあったもの。これはほんとの初期のもの。黒電話だね。昭和かな」
「えーとつまり、電話専用の機械?」
電話だけのためにこんな大きさの機械があるのか。
ふーんと言う感じで見る。
まったく使い方がわからなかった。
受話器をとる。
だが、どうやって電話をかけるのか。
円周上に数字がならんでいて、穴があいている。
ユキは数字を指で押してみた。
なんともいわない。
画面がないとわからないや。
ユキが電話を見ていると、キララの声がした。
「ユキ君。テレビがあるよ」
キララは薄目の板がたてかけてあるものの前にいた。
ユキはテレビを見る。
「テレビもこんなのなんだね。令和の時代ってブラウン管だっけ? もっと分厚いものを使っているのかと思ってたよ」
ユキは液晶パネルというのを使っているテレビを見て言った。
「昔の表示装置だね。このころはフルHDだっけ、4Kとか8Kとかというのがあったみたい」
キララが言う。
「目を近づけるとドットが見えるとかだっけ?」
ユキがテレビの光っている表示部分に目を近づけて良く見ようとする。
「目が痛くなるよ」
キララが言う。
「そうだね。結構まぶしい」
テレビには当時の放送が流れている。
当時のCMが流れた。
洗濯用洗剤。けもののハーフの子は出ていなかった。
「これ。僕達の時代のCMだと、決まってきつねっ子かトリのハーフの子でてるよね。なんでだろ」
ユキがキララに聞く。
「体毛がふかふかだからじゃない? 昔しっぽを洗濯機につっこんでいた子いなかったっけ? しっぽが洗えるか試そうとしてさ」
とキララが言う。
「あー。あったあった。それはだめというCMだっけ? しっぽが洗濯物とからまったりするし」
「僕はトリだったからね。トリのハーフの子がお洗濯して、ものほしざおに干すときに飛んでいって干したりしてね」
「うん。なぜかものすごく高い位置にあるものほしざおにシーツをかけたりというのあったね」
昔のCMを思い出す。
でもここの時代はもっと前。ハーフの子が出てくる前である。
他の部屋も見てみる。
こたつとか、ベッドとか、床のうえに敷くお布団もあった。
お布団は僕達の時代で使っているものとあまり変わらない感じがした。
キララがTMRを見ながら言った。
「ユキ君。もうちょっと行くと商店街がありそうだし。行ってみる?」
ユキはうんと答えた。
☆☆☆
お家を出て歩いて行くとお店の前に服が展示してあった。
トリ用。きつねっ子用。ネコミミの子用の帽子とか、上着。ズボン、スカートがあった。
初期のはしっぽの箇所にチャックがついていた。
のちにチャックは取り払われたが…
「うわぁ。これ。しっぽの位置にチャックがついてるよ。チャックに毛がかんだらと思うと怖いね」
キララが言う。
たしかにね。髪の毛をチャックにかんじゃうというのに似てるのかな。
デザインもなんとなく古めかしい。
向かいには食べ物屋さんがある。
お店の前にサンプルがあるので見ることにした。
けれども。かつ丼と天丼の名札が逆についていた。
あと、きつねそばには油揚げが乗ってなかった。
「なにこれ。きつねそばに油揚げがのってないよ。かわりに何かな? はんぺんを焼いたもの?が乗ってるよ」
ユキはきつねそばを見て言った。
「ほんとだ。どんな感じなんだろう」
お店の中をみると店員がいた。
他にもお客さんがいる。
「食べていく?」
キララが聞いてくる。
そうだね。ふるめかしい食べ物屋さん。
間違っているのもあるし…
「うん」
中に入る。
ユキは椅子に座る。
きららは向かい側。
ユキはテーブルをタッチした。
けれども、テーブルをタッチしても何も表示されない。
「あ。ユキ君。ここは未来だけど…昔の日本を再現した町だから…」
とキララが言い、そばにたてかけてあるプラスティックでラミネートされている細長いものを手渡してきた。
「あ。これ。メニュー? 懐かしいね」
電子式でもなく、紙でできたメニューである。
見てみる。
ラーメン600円。チャーハン550円。カレー500円とあった。
なんか安いね。
そしてきつねそば400円。かつ丼、天丼もある。
どうしようかな。
頼んでから思っていたのと違うのが出てくるのもやだし。
「じゃあ。カレーそばにしよう」
「私はきつねそば」
キララは油あげは好きではないけど、はんぺんを焼いたものがのったそばが気になったようだ。
☆☆☆
普通に店員がトレイに乗せて2人分の食べ物を運んできた。
ユキには思ったとおりのもの。カレーそば。キララにはきつねそば。
だが、サンプルにあったとおり、油揚げはなくて、はんぺんを焼いたものが乗っていた。
「本当にはんぺんだね」
キララはいただきますをした。
ユキもいただきますをする。
食べてみると普通のカレーそばの味である。
キララのほうも見てみる。
くくく。笑いそうになってる。
「どうだったの?」
ユキは聞いてみる。
「うん。見た目そのまんま。はんぺんを焼いたものがそばの上にのってるもの。意味があまりないかも」
おつゆがしみる油揚げがいいのであって、焼いたはんぺんだといまいちであった。
「キララは油揚げが好きじゃないんだよね」
と聞く。
「うん。一時期食べ過ぎて気持ち悪くなっちゃってね。きつねっ子なのに」
と言う。
店員の人がみてる。
そのあとやってきた。
「なあ。あんたがた。きつねそばになにかあったかい?」
と聞いてくる。
キララが言う。
「僕達は昔の地球から来たんだけどね。きつねそばって油揚げが乗ってるのが普通なの。焼いたはんぺんが乗ってるの見たことがないよ。あと外の食品サンプルの天丼とかつ丼の札が逆だったし」
と言う。
「え? そうなのかい? 昔の文献を見て再現したつもりだったんだけどな。違ってるのか?」
「うん。そうだよ。でもこのカレーそばは昔とおんなじ味だね」
とユキが言う。
「おお。そうかい。昔とおんなじか…それは良かった。あとお店の雰囲気はどうだい?」
店主が聞いてきた。
うん。雰囲気は昔のまんま。テーブルをタッチしてもテーブルにメニューが表示されないし。
「そうかい。あ。ちょっとまってて」
と店主が奥へひっこんでいく。
ちょっとすると、おいなりさんを2つずつお皿に乗っているものがでてきた。
付け合わせにお皿の横にキムチが乗っていた。
「これサービス」
とおいなりさんをくれた。
付け合わせにキムチがついているのがかわっているけど。
これは言わないでおいた。
未来のどこかの時期にこういうのが流行るんだろう。
キララもおいなりさんを食べた。
「うん。このおいなりさん。おいしいかも」
キララが言う。
きつねっ子がおいなりさんを食べているのを見ると、つい見てしまう。
☆☆☆
お店を出る。
お金は共通マネーでのお支払いが可であった。
昔のお金。持ってないし。
キララがTMRを見て言った。
「今度は火星にある異星人の町を見に行かない? ついでにめずらしいお土産も買いたいね」
と言うので、ユキは「見てみたい」と言う。
「じゃあ移動しよう」
キララはTMRを操作した。