4 カルディナ王国の王女
隣国のお話です
今回も短めです
ここはカルディナ王国、魔王の収めていた国に最も近い国であり、魔王との戦いでは最前線だった国でもある。
その王城の数ある部屋の一室、第三王子の一人娘アンジェリーナ王女の為の個室である。
そこでは妾の専属である二人の侍女が仕えていた。
黒髪でショートカットの幼さを残した侍女がファム、愛嬌のある笑顔でお菓子を用意して勧めてくれている。
美しい黒い髪を束ねている侍女はイーリス、背が高く凛とした佇まいで紅茶を入れてくれている。
二人共信用のおける専属の侍女である。
暖かい日差しを受け紅茶を飲んでいると、遠くから足音が聞こえてきた。
やがて部屋の前で停まり、扉をノックする音が聞こえる。
「騎士ブラハム、騎士リュース、両名只今戻りました」
「入るがよい」
入室の許可を確認したイーリスが扉を開けると、二人の騎士が部屋の中央まで進みそこで止まる。
その場で跪こうとする所を手で制して止める。
「よい、この場は妾の専属のみ、堅苦しい挨拶は不要じゃ」
「「はっ」」
ブラハムとリュースは姿勢を正す。
髭を蓄えガッシリとした騎士はブラハム、第七騎士団長を務める歴戦の猛者である。
若く体の細い騎士はリュース、見た目から騎士らしくもない印象を受けるが諜報活動をメインとしているのでこの方が良い。
「婚約者候補の調査報告に参りました」
ブラハムは資料を取り出す。
その資料をイーリスが受取り、アンジェリーナ王女の元に持ってくる。
「ご苦労じゃった」
労いの言葉をかけ、資料に目を落とす。
読み進めるに連れて、あまりにも酷い内容に眉をしかめてしまう。
「なんじゃ、またつまらん相手じゃのぅ」
「今度はどんな方なのですか?」
「ファムも興味はあるのかや?見てみるがいいぞよ」
アンジェリーナは読み終わった資料を傍に控えるファムと呼ばれた侍女に渡す。
「また勇者ですか? 今度は『腐蝕』の勇者と書いてありますね」
「いやぁ~、あれは本当酷かったすよ、『俺は勇者だ』っと威張り散らして人を見下すわ、女は自尊心を満たすための道具としか見てないわ、無理やりってのもありましたね、腐蝕の勇者って心の方が腐ってるんじゃないっすかね」
ブラハムがギロッとリュースを睨む、言葉使いをなんとかしろと言いたいのだろう。
リュースは平民に紛れての潜入や調査の仕事が多いため言葉使いが悪い、報告の時に言葉使いに気をつけさせると正確性が損なわれるので専属の部下しかいない時はその言葉使いを許している。
「あとは、『俺は勇者の後継者に決まっている』と言ってるみたいっすね」
「おかしいのぅ、後継者は決められていないから争いになっているのではなかったかや?」
「それだけの『何か』を見つけたか、手に入れたか、今その辺りを探ってるとこっす」
「何やら気になるのぉ」
そもそもいくら勇者とは言え、経歴にも人格にも問題のあるような人物が婚約者候補に上がることがおかしい。
「国王様はどうしてこんなのを受けたのでしょう?」
「相手は仮にも勇者じゃからのぉ、バッサリと断るわけにも行かないのじゃろう」
今まで婚約者も決めていなかったので婚約の申込みは数え切れない程あるのだが、国王と父上が殆どバッサリと切り捨てている。
第三王子の一人娘なので王位継承権はまず望めない、政略結婚の道具になる覚悟もあるが、国に何の利益も齎さないような男のもとに嫁ぐつもりはない。
「ブラハム、リュースよ、二人ともご苦労じゃった。下がって良いぞ」
「「はっ」」
ブラハムとリュースは失礼しますと礼を取り去っていった。
再び静寂が戻り、穏やかな日差しを受けながら紅茶に手を伸ばす。
「お祖父様と父上に義理立てて、一度会ってそれでお終いじゃな」
そう呟き、お菓子に手を伸ばそうとした所でイーリスに止められる。
「姫様、そろそろご昼食でございます」
「そんな時間かや、今日は何じゃ?」
「勇者料理のようですよ、確か『カラーゲ』のようです」
「またか、それはもう飽きたのじゃ」
先月、新たに採用された宮廷料理長は第一王子が見つけてきた料理人で『勇者料理』を作れるという事で採用が決まった。
どんなものかと期待してみれば『カラーゲ』と言う鶏もも肉を味付けして油で揚げた物や『ピザ』と言う特製のパン生地の上にチーズやたくさんの具材を載せて焼いた物だ。
勇者料理の作り方は秘匿されており、勇者料理を作れると言うだけで料理人としては一目置かれるほどである。
しかしその事と料理の腕は別なのであるが。
「油が多くて紅茶までまずくなるのじゃ、あの料理人は妾を太らせるつもりかや?」
「でしたら、一度本場の勇者料理を食べに行ってみるのはどうでしょう?」
ファムの提案も悪くない、どうせ腐蝕の勇者とは婚約を断る為に会わねばならない。
それならば気の重くなるような事はついでとしてしまって、美味しいものを食べに行くのを目的としてしまえば気も楽になるというものである、もちろん良い料理人が居れば専属料理人として引っ張ってきても良い。
「悪くない提案じゃな、よし、今すぐ向かうのじゃ、準備をせい」
勢い良く立ち上がり、びしっとポーズを決めて指示を出す。
「姫様、十日後に第三王子の公務に付き添う約束がございます、出発は早くともその後かと……十二日後ならば調整できそうです」
「む、そうじゃったか、ならばそのようにせい」
イーリスにスケジュールは管理させている、十二日後の出発が良いとの事なのでその日に決めることにした。
隣国の人達の出番は暫く後です
もうすぐ本編開始します