3 リリスの魔王領での騒動
もう少しだけプロローグが続きます
今回短めです
かつて魔王城だった場所。
私は魔王様によって生み出された魔物、種族も何もない、魔族としての唯一の個体、リリスと名付けられ常に魔王様に付き従ってきた。
三十年前に勇者に倒されるまでは……
魔王様は私に言い残した。
『魔族や魔物達を守り、次なる魔王に従え』と……
三十年の間、かつて魔王軍の幹部だった者達と共に魔王様の領地を治め、人間と憎き勇者から魔族と魔物を守ってきた。
今日もいつもの日課の魔王様の部屋の掃除から一日が始まる。
夢魔のチャムを連れて魔王様の部屋を訪れる。
異変に気が付いたのはその時だった。
「まさか!」
大広間の壇上に魔王様の持ち物が収められた台座が有る。
その台座に収められている指輪が光り輝いていた。
魔王様が次なる魔王の為に最後の力を込めた物だ。
これが意味するのは魔王様の復活、もしくは新たな魔王が降臨された時だけだ。
光は南の方角、人間の領地を指し示していた。
リリスは震えていた。
魔王様との最後の約束が果たせる喜びに涙さえ溢れてくる。
「チャム! スターリィーワイザーとアルヴィスを呼んで」
「は、はいリリス様」
チャムが大広間を出ていくのを見届けて、リリスはそっと魔王の指輪を手に取った。
「すぐに御迎えに上がります、魔王様」
────
しかし、いくら待ってもスターリィーワイザーもアルヴィスも来なかった。
魔王様が降臨された事は伝えてある筈なのに!
「何で来ないのよ! 魔王様に対して不敬だわ! チャム、ちゃんと魔王様が降臨された事は伝えたんでしょうね?」
「はわわわ、はい、リリス様、ちゃんと伝えました」
リリスはチャムを連れて長い回廊を進んだ先、執務室の扉を開け中に入る
其処には、豪華なローブを纏った髑髏の魔物と、青い巨躯の肉体を持ち二本の角を生やしたデーモンが座って読書をしていた。
「スターリィーワイザー、アルヴィス、何で来ないのよ!」
「何故我がそなたの呼び出し何ぞに応じる必要があるのだ?」
スターリィーワイザーと呼ばれた魔物は、本をパタンと閉じて赤い光を眼に宿した髑髏の顔を此方に向けた
「魔王様が御降臨なされたのよ、御迎えに上がら無くてどうするのよ!」
「くだらぬ、我にとって魔王など面白いか面白くないかよ! 我の魔導の探求に何の役にも立たぬわ!」
予想はしてたけど、この髑髏野郎は自分の利益になる事にしか興味を示さない。
頭蓋骨かち割ってやろうかしら!
「我は別に魔王に従ったわけではない、面白そうだから付き合っただけに過ぎぬ」
「良いわ、スターリィーワイザー! 貴方は此処に残ってなさい」
スターリィーワイザーは死の魔物として長くこの世界に存在してきた。
魔導の研究の為に肉体を捨て、七千年もの間研究をしてきたが、此処二千年程は何の成果もあげられないので退屈なのだと何時も言っていた。いい気味だわ。
「アルヴィスはお迎えに上がるわよね?」
「イッテモイイガツマラヌソンザイデアレバ……」
「人型になりなさいよ! 聞き取りにくいのよ!」
しぶしぶと巨躯のデーモンは小さく姿を変え、オールバックでメガネを掛けた身なりの良い人間の姿に擬態した。
「御迎えに上がってもよろしいのですが、もし、魔王として認めるものが無ければ殺してしまうかもしれませんよ?」
「ふむ、それは面白い、それならば我も行くとしよう」
「はぁ? そんなの許されるはずないでしょ!」
「早速行こうではないか、心配せずとも魔王の真価が解るまではちゃんと御主の言葉に従うとも」
「そうですね、魔王様なのですから我々に認められるほどの力は有るのでしょう?」
魔王様に対して何たる不敬!
腹の底から怒りが湧いてくるが、こいつらならやりかねないわ、何としても魔王様を守らなきゃ……
「チャム、念の為にシャドウアサシンの双子を連れて来なさい」
「はわわわ……わ、解かりました、すぐに連絡してきます」
ただでさえ、魔王様が降臨された場所が人間の世界だって言うのに、スターリィーワイザーもアルヴィスも役に立ちそうにない。
私は焦っていた、魔王の指輪が指し示すのはおそらく人間の国、状況も分からないでは軍を向けるわけにも行かない。
少数精鋭でスピード重視で隠密性を考えた構成だ、これがベストだろう。
「準備が整い次第南へ向かいます、急いで準備なさい。」
「は、はい、リリス様」
不安を胸に懐きながら、人間の住む領地へと出発するのだった。
後二話だけ別視点のプロローグを挟んで本編開始します
どうか最後までお付き合いいただけたら幸いです。