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三流料理人の魔王とその娘  作者: 豆柴
プロローグ
2/22

2 おちゃ女神様

 気がつくと、見知らぬ場所に居た。

 円形の大理石のような床、その中央には噴水があり、周りには整えられた様々な植物が植えられていた。

 ここは庭園だろうか?

 空には雲一つない青空。

 広い庭園は優しい光に包まれていた、そして……。


「女神……様?」


 目の前に現れた美しい女性に見惚れてしまい、思わず声に出してしまう。

 スレンダーな肉体(からだ)に、健康的な肉付きを隠す白い布は決してその美しさを損なわない。

 ただ『美しい』ただそれだけを感じさせる。

 あらあらまぁまぁ、と嬉しそうにしている。

 あ、この声さっきの幻聴の声だ。


「私はあなた達からすれば高次元の存在で、この世界の管理者なんだけど……でも良いですねそれ。私は女神様!」


 ポーズを決めてウインクする姿が凄く良く似合っている。

 お茶目な女神(ひと)だ。


「あなたの願いを叶える為に()んだのだけども……覚えてないかしら?健康な体とか、やり直したいとか……」


 そう言われて、さっきの事を思い出す。

 あの時は痛みに耐えるので必死だった、そういえばそんな事考えてた気がする。

 という事は、俺死んだの?

 でも、願いを叶えるってどういう事?


「俺は、死んだ……?」

「はい、心臓が止まってぽっくりと」


 おおう、とてもショッキングな事をとてつもない笑顔で答えてくれる。

 って事は此処は天国なのだろうか?

 ろくな人生じゃなかったが、多少の未練はある。

 あ、そういえば願いを叶える為に()んだって言ってたような、

 もしかして本当に健康な体で人生をやり直せるのだろうか?


「あの、もしかして生き返れるのですか?」

「えぇ、でも私の管理する世界、あなたにとっての異世界ですけど」

「異世界!」

「その代わり、私の願いも聴いてもらいます」

「ね、願い?」

「『神様なんでもしますから』と仰言っていたので」


 確かに言った、心の中で。

 しかし、それは下痢で苦しい時等の俺の定番だ!

 横断歩道を渡る時に『白線から足を踏み外すと谷底に落ちて死ぬ』と妄想しながら渡るような、ただの俺ルールだ。

 実際にどうなるわけでも無いと解っていながらの苦しい時の神頼みなのだ。

 それに、女神様に何のお願いをされるのだろう?

 俺はただのおっさんだ、実際に俺に出来る事などあまり無い。


「えっと……何をすれば?」

「あなたには私の管理する世界を救ってもらいます!」

「はぇ?」


 へい、何を言っているんだ?

 俺にそんな力があるわけがないじゃないか。


「救うって、何か起きているのですか?」


 混乱するオレに神様はゆっくりと教えてくれた。


 かつて、強大すぎる魔王が生まれてしまい、数百年に渡って君臨し続けたそうだ。

 何度も勇者が生まれ魔王に挑んで散っていった。

 人類は追い詰められて、とうとう人類は異世界の勇者に頼ることを決意

 沢山の生贄を捧げ大秘術を使い女神に協力を仰いだ。

 世界の法則に従い、女神はいくつもある世界の中で俺の世界の住んでた世界の管理者と交渉して勇者選定を行った。

 召喚された勇者は女神様から幾つかの女神の加護を授かり魔王を打ち倒したらしい。

 その選定に使われてたゲームがオレが死ぬ前にプレイしてた『フェアリーテイル~3人の女神~』

 オンラインで繋ぐことで選定の為の経路が開く仕様になっていた。

 もう課金サービスは終了していたので異世界と繋がる事はないはずだった。

 しかし俺はワンディチケットを使って繋げてしまった。

 女神様は急に異世界との繋がりを感じたと思えば俺が死んだので呼び出した。

 全ては偶然らしい


「良く出来ているでしょう? あのゲームは私の管理世界がモチーフなのですよ。今あのゲームをプレイする人がいるとは思いませんでした」


 うふふっと無邪気な笑顔がおちゃめで可愛い、やっぱり『おちゃ女神様』だな。

 やっぱりワンディチケットでオンラインしたのが原因だったのか


「俺もまさかワンディチケットがまだ有効とは思いませんでした」


 女神様も驚いてたようだが、こっちも驚きだよ

 しかし、女神の話を聞いていくつか疑問が生まれた。


「あのぅ、女神様、どうして私の世界だったのですか?なぜ私は此処に呼ばれたのですか?」


 もう勇者は召喚されて魔王を打ち倒したのなら、もう呼び出す必要は無いはず。

 俺の拙い質問でも女神様は何を聞きたいのか察してくれたようだ。


 俺の住んでた世界は稀有な存在だったらしい。

 何処の世界も同じような進化をするはずだったが、

 魔女狩りや悪魔狩りなどで魔力や魔法に頼らない進化を遂げ、魔力のない科学による世界が構築された。

 魔力もなく、神の作った世界を科学で解明して発展していく様は神様にとってとても異質だった。

 そんな世界だからこそ、選んだのだろう。

 そこで俺の元の世界の管理者(神様?)にお願いして勇者選定を行ったそうだ。

 何でゲームだったのか? それは俺の元の世界の管理者が提案して決めたらしい。


 召喚された勇者は女神から加護を授かり、遂には魔王を打ち倒し平和が訪れた。


 しかし、今度は世界が崩壊しそうになってるらしい。


 なぜそうなったのか女神様からは細かいところまではわからない。

 だが、世界を構成しているエネルギーが急激に減少している事だけは確実らしい。

 試行錯誤してなんとか維持をしてたがエネルギーの減少も崩壊も止まらず、諦めかかっていた所に俺がゲームを起動して繋がったそうだ。

 急激なエネルギーの減少ってなんだろう?

 何処かから奪われているのか、漏れているのか、ただの使い過ぎなのだろうか?

 ゲームで『とびだせ! 魔物の森』で放置した村みたいになってたのはやっぱり関係有るんだろうなぁ、あのゲームも開始からいきなり家を買わされて、『まじ(よし)』っていうタヌキ型モンスターに借金背負わされるんだった。

 返済の度に新しい借金背負わされる理不尽さがあり相当厳しいゲームだった。

 おっと、いかんいかん、余計な事考えてる場合じゃない。

 そもそも俺に出来る事なんか全く考えつかない。

 女神様は何を期待して俺に……。

 そう考えてると女神様がずいっと覗き込んで来た。


「あの、聴いてます?」


 ドキッとした! 良い匂いがする。

 近い近い近い! 近いから!

 その姿勢やばい! 胸元見えてるから!

 俺は慌てて離れる。

 その様子にキョトンっとした顔を見せたと思えばクスクスっと可愛い笑顔を見せる。

 コロコロと表情が良く変わるので目が離せないおちゃ女神様だ。


 まだドキドキしてる。

 そういえば慌てて離れた時、女神様に少し触れた気がした。

 その時、多分引っ掛けたのだろう。

 女神様の服の肩の結びがスルリと解けるのをスローモーションのように感じた。


 一瞬すぎて殆ど見えなかったが、とても美しかった……。



 ────



「もういいですよ」


 俺はゆっくりと女神様の方に振り返る。

 ちゃんと服装は直ってた。

 幸か不幸か、女神さまは手を口元に当てて笑っていたので大事なところは腕に隠れてて見えなかった。

 計算なのだろうか? 天然だろうか?

 おそらく後者だろう。

 さっきから俺はおちゃ女神様に振り回されっぱなしだ。

 もう自分が死んだ事や、悲壮感も、考えてた事も、全て吹っ飛んでいた。

 そもそも何を話していたんだっけ?


「それで、あなたには崩壊の原因を突き止めて、世界の崩壊を止めてほしいのです」

「えぇっと、あの、もう若くないので碌な事が出来ないと思うのですけど、体も壊してたので私にはとても……」

「大丈夫、『若い頃に戻ってやり直したい』って願いを女神のパワーで叶えちゃいます」

「生き返るだけじゃなく若返ることも出来るのですか?」

「はい、正確には転生ですが」


 コッチの世界でもう少し生きられるという事か、それはありがたい。


「世界を救うってどうすれば良いのですか?その勇者の様なのを相手にする事もありえるのですか? 女神の加護を持つ勇者相手に対抗できるような手段は何かあるのでしょうか?」

「崩壊を止める方法は原因を探すところから始めることになります。

 加護についてはもう勇者に与えてしまっているので与えられるような物はもう無いのです」


 凄く申し訳そうな表情をする女神様

 うわーうわーどうしよう、そんな顔しないで、ほら笑って笑って

 何をしたらさっきのような笑顔をみせてくれるだろう

 必死で考える。


「だ、大丈夫です、女神の加護なんて飾りです! 偉い人にはわからんのですよ」


 だー、余計に失礼なこと言ってしまっている!!!

 俺のバカバカ! 頭を床に打ち付け、悶ながら転がってしまう。


 そんな俺を見て女神様はクスクスっと笑顔をみせてくれた

 そして何か思いついた様だ


「今は魔王が居ないので、魔王の役割(ロール)が空いてますね、肉体を少しだけ強化して魔王紋(まおうもん)を刻んでおきます、勇者が魔王の力を封じたので魔王の力はありませんが、何かの役には立つと思います。

『知識と経験を持ったまま人生やり直せれば』とう言う願いも、記憶は維持したまま転生させるので叶えられますよ。それと……」


 なるほど勇者の対抗できそうなのは魔王の力ってことか

 チートは貰えそうにないが、それなりに優遇してくれているのは良くわかった


「じゃーん♪*****! これを使っちゃいます」


 え?聞き取れない?

 何かを言いながら誇らしげに見せる物は黒よりも深く黒いものだった。

 なんかモヤモヤしててこわい。


「これはそうですね……なんて説明したらいいのか、言葉にするって難しいものですね、創造、無、力、世界……うーんどれも違うなぁ……」


 なんか物凄い事言ってますが……バリバリとチート臭い!


「なんか物凄そうですけど、何が出来るんですか?」

「なんとこれで女神と通じ合って会話が出来ちゃいます♪」

「……」


 電話かーい!

 さっきの創造とか無とか言うのは何だったんだぁぁぁぁぁ!


「え? あれ? これ物凄いものなんですよ? 繋がる力というか……離れてても会話ができちゃうんですよ?」

「会話以外に何かできるのですか?」

「しっかりと封印されているので、それだけですよ?」


 屈託のない笑顔でハッキリ言われるが確かに女神様と会話できるのは凄い事なのかもしれない。

 本当は勇者のように女神の加護を欲しかったけども、これが精一杯なのだろう。

 俺のために色々一生懸命考えてくれるのがものすごく申し訳なってくる。

 まず何が必要なのか、それとメリットとデメリットを考えることにする

 まず異世界の事だ、なんにも知らないぞ。


「えぇっと、異世界の知識がまったくないのですけど、会話とか通じるんですか?」

「大丈夫です、女神の力でその辺はフォローします、

*****を使って大事な事は伝えますね♪」


 さっきの真っ黒な揺らめく塊を見せながら笑顔で答えてくれる

 もう『黒電話』と呼ぼう。


「すみません、それの名前が認識できないみたいなんです。俺の世界では通信機器は『電話』って言うので、それを『黒電話』って呼んでも大丈夫ですか?」

「はい♪大丈夫ですよ、『黒電話』可愛らしい名前ですね♪」


 かわいい? 俺には無骨な骨董品のイメージしか無いのだが、女神様の感性はわからない。


「では、黒電話さんの使い方を説明しますね、黒電話さんで出来る事は【繋がる力】です。会話する相手と繋がって言葉を適切に翻訳して貴方に伝えてくれます。貴方が知っている言葉を基準に翻訳するので、貴方の知らない言葉などは翻訳されずにそのまま伝えられるので注意してください。」


 翻訳機能付きの黒電話か、意外と高性能だ 


「そうですね、あとは成功報酬として『あなたの本当の願い』を叶えっちゃいます♪」

「本当の願い?」

「それは内緒です♪」


 指を口に当てながらそう応える。

 本当におちゃ女神様はかわいい。


 かなり悩んだが、交渉の末に異世界の知識と連絡手段をもらう事が出来た。

 しかも報酬に本当の願いを叶えてくれる!

 本当の願いってなんだろう?

 問いかけても女神様は答えてはくれなかった。

 しかし、転生して第二の人生を歩める、それも優遇された条件で。

 報酬に願いを叶えてくれて、失敗してもデメリットは無し。

 悪くない……いや、かなり良い条件だ。

 それに、女神様の悲しい顔は見たくない、頑張ろう。

 強く決心した、もう迷わない


「わかりました、やってみます」

「本当ですか! それでは早速送り出しちゃいますね」


 女神様が俺の手にそっと触れると、俺の身体がキラキラとした光りに包まれ始めた。転生のプロセスが始まったらしい。


「何かあれば直ぐに連絡するのですよ? ご飯もしっかり食べて下さいね、風邪など引かないように暖かい格好するのですよ、それからええっと……」


 オカンか!


「暫くは無理などしないで下さいね()びだした時にはもう魂の浄化が始まっていたのですから……」


 ん? 今大事そうな事をサラッと言わなかったか?

 そう思った瞬間、俺は光りに包まれたまま飛んでいった。




 ────




 すごくかわいい男の子だった。


 急に経路(パス)が開いた時は本当に驚いた。

 もう開くことのない経路(パス)を開いた張本人がいきなり死んでしまったから。

 別の世界に干渉するのは禁則事項だが、彼は死んでしまった事で元の世界の管理から外れていた。

 喚んだのはただの気まぐれだった。

 高次元存在である自分からは相手を魂で見る。

 魂に触れて彼の全ての情報を読み取った。

 すごく優しい魂だった。

 本当に親を大事にしていたのが解る。

 一生懸命介護していたのが伝わってくる。

 彼女が出来た時も本当に相手を思いやっていた。

 友人と思ってた人もとても大事にした。

 だが彼は周りから愛されなかった。

 女性に恵まれなかった、振られて何度も辛い目にあった。

 友人にも恵まれなかった、何度も裏切られて騙された。

 とても辛い思いをしたのだろう、魂に沢山の棘が刺さっていた。

 彼は愛に飢えていたのだろう、魂がとても傷ついていた。

 辛い思いをした、だから優しくなれた。

 愛されたい、だからみんなを愛した。

 親から沢山の愛情を貰っていた、だから愛を知っていた。


 魂に深く刺さっていた沢山の棘はとても細かく柔らかくなって、まるで綿毛のようだった。

 傷ついた魂はしたたかな強さを持っていた。

 だけど少し歪んでいた、相当辛かったのだろう。

 でもそこがまた可愛かった。


 私には姉と妹が居たのだけども、弟が居たらあんな感じだったのだろうか?

 彼を送り出して少し寂しく思う、もう少し話をしてみたかった。


 私は彼の願いを叶えて送り出した。

 でも本当の願いはまだ叶えていない。



 これからあの男の子はどんな人生を歩むのだろうか

 せめて私の管理する世界では幸せになって欲しいと思った。

 世界の崩壊を止められるとは思っては居ないつもりだったけど、どこか期待してしまう。

 そんな男の子だった。

 世界が完全に崩壊するまではまだ数百年は猶予が有るだろう。

 それまで彼には精一杯生きて欲しい。

 精一杯幸せになって欲しい。


「がんばれ、男の子♪」


 願いを込めてそう呟いた。

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