1 デスストーリーは突然に
「はぁ……」
思わずため息がでる……。
先月にまた仕事を失ったからだ。
仕事なんてものはすぐに次が見つかるだろう、
俺みたいなクビにしやすい料理人はそこそこ需要があるのでそこは悲観してない。
だがしばらく収入が減るのが辛い。
家に帰り着くとポストを確認する、2つ封筒が入ってた、1つはスポーツジムからのお知らせと……。
「弁護士さんが言ってたやつかぁ」
弁護士事務所からだった。
親が亡くなってから遺産の分け方で揉めて兄や姉とは険悪だ。
別に遺産が沢山有るわけじゃないし欲しくもない。
だが親を介護もせずに文句ばかり言って、お金ばかり要求してくる様な兄や姉に少しでも渡したくないだけだ。
ストレスで胃が痛くなりそうだ。
「ただいま」
独りになってから独り言が増えてきたと自分でも思う。
暇になった……もう今日はやることも何もない。
仕事を失ったのでぽっかり空いた時間。
暇つぶしにゲームでもしようと昔のゲームを引っ張り出してきたのはただの気まぐれだった。
『フェアリーテイル~3人の女神~』
フェアリーテイルというのは『おとぎ話』と言う意味があって、『三人の女神のおとぎ話』と言う名前のゲームと言う事になる。
決してマンガジンで連載しているジャンピースの様な漫画の事ではない。
昔に仕事に影響が出るぐらい嵌まり込んでたゲーム。
自由度が高くやりこみも生産も凄く拘ってたゲームだった。
懐かしく思いながら電源を繋いで起動する。
壮大な音楽とともに可愛い絵柄をバックにタイトルが現れる。
ゲーム開始を選択すると3人のキャラが並んでいた。
まだ昔作ったキャラが残ってたので一番レベルの高いキャラを選択。
ゲームが開始されると早速ステータス画面や装備画面などを観る
あーこんな装備つけてたのかぁ……。
能力やスキルまで確認して、それから家の外の農場や牧場なども確認していく。
手入れをしていないので枯れていた。
ちょこちょこっと畑を耕して農場を整えてから近くのダンジョンに狩りに出かける。
もう思い出補正だけでも楽しかった。
内政やアイテム蒐集が好きだったので、ステータスやスキルは内政生産向けだ。
そこそこ有名なクランに所属してたのだがそこは空欄になってた。
おそらくは強制脱退させられたか解散したのだろう。
狩りを終えた後、街中を散策しながらふと思い出す。
そういえば収納してた箱にワンディチケットも一緒に保管してあったな。
絵柄が可愛いので残してたのだが、よく見れば未使用のチケットも数枚残ってた。
有効期限書いてないけど流石にもう使えないよな?
そう思いつつもスクラッチを削り、出て来た番号をアカウントに登録してみた。
オンラインモードに切り替えてみるとアップデートが開始された。
まだ使えた!
昔のゲームのアップデートなど今の高速回線ではそう時間のかかるものではない。
すぐにアップデートは完了した。
画面が切り替わり……。
「なにこれ?!」
大自然あふれる広大な世界を冒険するゲームだったはずが、目の前には荒廃した大地が広がっていた。
まるで昔良く遊んだ『とびだせ!魔物の森』で、しばらく放置した村のように街の中まで荒れていた。
引退してしばらく遊んでなかったけど今はこんな風になってたんだなぁ。
プレイヤーも見かけないし、フレンドリストを開いてみても誰も居ない。
「えっ?経路??」
ん?
何か聞こえた気がしたけど此処は俺の部屋だ。
誰も居ないし居る筈もない。
そういえばさっきから少し気分が悪い。
ゲームなんて久しぶりだから画面酔いでもしたのだろうか?
何か飲み物でも取ってこようと立ち上がろうとした時だった。
─ ドクンッ ─
急に胸が締め付けられるように痛みだした。
その場で蹲るようにして痛みを堪える。
最も楽な姿勢を探してうつ伏せで蹲るのに落ち着いた。
息苦しい!
119番! 救急車! スマホは? そうだ机の上!
そう思っても痛みで体を動かすことも出来ない。
しばらくしたら治まるだろうか?
「え? あれ? なんで繋がって……?」
幻聴まで聞こえてきた。
しかもきれいな女性な声で。
本気でやばいかも……。
ここは何か別のことを考えて一番苦しい時を乗り切ろう。
苦しさを押さえ込んでしまえば、一番苦しい波を乗り切れば救急車でも呼べる。
俺は下痢で苦しんでる時とか神様に祈ったり、都合の良いことを妄想して気を紛らわせたりするタイプだったりする。
苦しい時の神頼みって奴だ。
あぁ神様、なんでもしますから健康な体が欲しいです。
きっとブルース・ウ◯リスがあの窓から飛び込んできて助けてくれる。
痛みだけテレポートで飛ばすことが出来るかも……。
しかし、治まる様子もないので妄想をやめた。
視界も狭まってくる。
「えっ? 何言ってるのかわからないんだけど……? ねぇ、あなた大丈夫なの?」
全然大丈夫じゃない!
あ、もうダメかも……。
死んだらどうなるんだ?
俺の財産は兄や姉のところに行くのか……すっげぇ嫌だ!
こんな事ならどんどんお金使って、美味しいものとかもっと食べておけばよかった。
あぁそういえば、来月はギャルパンの劇場版があるんだった。観に行きたかったなぁ……。
あの時こうしていれば……。
後悔することばかり浮かんでくる。
碌な人生じゃなかった。
「ねぇ、そんなに今の世界が嫌ならこっちの世界に来ない?」
こっちの世界?
あぁどうせ嫌なことや苦しいことだらけの世界だ。
もし違う世界があるというなら行ってみたいし、やり直したい。
どうせなら若い頃に戻って人生やり直したい。
あの時の俺は経験も知識もなかったから失敗だらけの人生だった。
知識と経験を持ったまま人生やり直せればもっと上手くやれるのに。
「あらあら、注文が多いわね、それよりさっきの……」
……意識が薄れてきた。
痛みや苦しさも遠のいて力が抜けてくる。
「なん……別の……転……して……る。 ……世界……止め……」
幻聴もだんだん聞こえなくなってきている。
何を言っているのかわからないけど何かして欲しい事は伝わってきた。
ゴメン……何か出来るのならしてあげたいけど……もう……。
始めてみました
見切り発車な部分はありますが最後まで頑張りたいと思います。
皆さんに楽しんで頂けると幸いです