レセンタイムズ
ショーウィンドウにうっすらと映る『わたし』は、商品みたいな顔をしていた。
量産品の制服に、校則にのっとった長さの黒髪をまとめて、どこにでもいるまじめな高校生のふりして立っている。唯一、髪に飾った安物の黄色いヘアピンが、アクセント。
ガラスの向こう側には、五十万円の指に嵌めるわっかとか、八十万円の首にかけるわっかとかが置いてあって。
まるで、わたしがアクセサリーに品定めされているみたいな気分になって、わたしは『わたし』から顔をそらした。
現代文の授業のあとのことだった。
山田先輩に告白された。
ずっと前から気になっていたって、付き合ってくださいって、告白された。
ガラスに映った『わたし』も、現実のわたしから顔をそらしているに違いない。
でも、本当にそうなのかを確かめたくて、わたしは横目でガラスを見た。
そこには、とうぜん、横目でわたしを見やる『わたし』がいた。その向こう側には、そんな愚かなことをするわたしを品定めする高額なわっかたちがいて、めまいがする。
現代文の授業のあとのことだった。文豪の小説について、先生がなにか話していた記憶がある。
山田先輩が、よくわたしのことを見ていたのは、知っていた。気付いていた。
わたしは容姿が良い。
自分でいうのもなんだけれど、整った顔をしている。
どこにでもいる、かわいい女子高生が、わたし。
ショーウィンドウにうっすらと映る『わたし』は、商品そのものだったのかもしれない。
量産品の制服、校則通りの髪、どこにでもいるかわいい女の子。
手の届く場所にいる、手の届かなくもないところにある、商品。
虚像の向こう側、小娘には手の届かないわっかではなく、ショーウィンドウのこちら側に置いてあるもの。
現代文の授業のあとのことだった。その文豪は、なんという名前だったっけ。
山田先輩は軽音部とバスケ部を兼部している長身のイケメンで、みんなの憧れの的だった。
わたしは選ばれた。選ばれてしまった。ショーウィンドウに飾られていたわけじゃないのに。
テンパって、なにも言えなくて、うしろ向いて駆けだした。
気付いたらショーウィンドウの前で、立ち止まっていたわたしは、ずいぶん長い間そうしていたように思う。
山田先輩は、きっとがっかりしているだろうし――もしかすると、怒っているかもしれない――それに、遠巻きに見ていただれかが、ラインで全校生徒にわたしの醜態を拡散しているに違いなかった。
山田先輩の気持ちを深読みしてしまう、鬱屈したわたしの脳みそは、ぐるぐるぐるぐると同じような思考を繰り返して、最終的には「明日、どうやって学校をサボってやろうか」みたいなことを考え始める。
ねえ、どうしたらいいと思う? 『わたし』に目で問いかけると、彼女は現実のわたしになにか意味ありげな目線を向けてきている――みたいに見える。
ただ、途方に暮れて、すべて投げ出したくて、逃げ出したいだけなのに、こうして見ると『わたし』はなにか案があるように見えてしまう。
つまりは、それが山田先輩から見たわたしだったのかもしれない。『わたし』は、こうしてみると、ショーウィンドウの向こう側にいるみたいだから。
本当はこちら側にいるのに、ショーウィンドウに反射して。
なにも考えてないくせに――大したことを考えたこともないくせに、商品みたいな顔してるから。
――ふと、現代文の授業のことを思い出した。
なんだかよくわからない男が、なんだかよくわからないけれど悩みを抱えてうろうろして、本屋に檸檬をおいてきてにやにやするという、なんだかよくわからない小説だった。
けれど、なんとなく――わたしは黄色いヘアピンを外して、ガラスの前にそっと置いた。
前を見れば、『わたし』はアクセントすら失って没個性に。けれど、なぜだか『わたし』はニヤニヤしていた。このニヤケ顔じゃ商品はムリかも。
どうしてあなたはそんなにもニヤニヤしているの? 問いかけても答えはない。当たり前のことだけれど。
でも、たぶん、なんだかよくわからないけれど、ヘアピンが爆発する妄想とかしているのだと思う。
お題:「アクセサリーショップのショーウィンドウ」と「女子高生」
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