プロローグ
内容を大幅に変更しました。
そこは辺境…否、秘境とも言っていい場所にある村落。そこに住んでいる者の殆どは魔族であるにも関わらず、その村はなぜか人間の大陸にあった。
そんな村で今1人の男の子が生まれようとしている。
彼の名はエルカ
ただの魔族として育ち一般的な幸せを得て、年老い家族に看取られ眠るように息を引き取る...そんな人生もあり得たかもしれない。
だが彼の人生は変動する。この瞬間、いや、正確には彼が生まれる寸前より。
それは神の気まぐれか、またまた星の導きか。
後に彼の人生を大きく揺るがすことになるであろうこの男、オスカー=セブルスタがこの村へと訪れたことによって…
「起きろ坊主、いつまで寝てるつもりだァ?」
ああ、酷く耳障りだ。
このまま無視してしまいたい、この幸福に浸かっていたい。
だがそういうわけにもいかないのだ。
なぜならこの不快感を発しているやつを無視していると・・・
わずかながらも痛みを伴ないながら体を打ち付けられる感覚、押し寄せる冷気、そして口と鼻から逆流してくる・・・水?----水!
「ゲハッ、ゴホッ、て、てめぇ、なにしやがんだよ!」
「一度で起きなかった坊主が悪い、毎度毎度バケツを持ってくるこっちの身にもなりやがれ」
今俺の目の前に立ち、片手にバケツを吊り下げている男の名はオスカー、不本意ながら俺はこの中年親父の世話になっている状態だ。
そして今もオスカーとの模擬戦中で・・・
どうもまたやつに意識を飛ばされていたようだ。
「ほら意識が戻ったんならはやく構えな、それとももう終わりかい?」
「なわけねーだろ、今度こそてめえのそのいけすかねえ笑みを焦った顔に変えてやるよっと」
俺は言い終わると同時にやつとの間合いを詰め腰だめから刀を抜き放つ。
刀といっても、平均的な2尺3寸のものではまだ8歳の俺には重すぎて、振ること、ましてや取り廻すことなんてとてもではないが不可能だ。
だから使っているものは所謂脇差と呼ばれる1尺8寸の刀だ。
俺とオスカーは毎日木刀での打ち合いが終わると真剣での模擬戦をしている。その際はさすがのオスカーでも致命傷になるような傷は負わせてこない。まあ逆に軽い切り傷や打撲くらいは平気でつけてくるのだが・・・
どうもやつは器用で模擬戦が終わると毎回回復魔法をかけてくれる。そのおかげもあってか最初のころと比べると大分痛みへの耐性はついたようだ。
それはそうとなぜ真剣での模擬戦を行うのかというと
「実際に刃物を他の生き物に向けるってのは難しくてな、いざというとき慣れておかないとへまをしかねん。逆もしかり、慣れてないやつがいきなり刃物を向けられても大抵足がすくんじまう。その訓練もかねてだ」
と前語っていたのを覚えている。
まあ正直昔は怖くて足もすくんでいたが今では慣れて抑え込むことも簡単である。
完全に恐怖を感じなくなってもそれはそれでだめだという。まあそれは何となくわからなくもないのでいつも心にとめている。
とまあ何となく思いながらも時間は進み
俺の抜き放った刀をオスカーが真上へと受け流す。
いつ見てもきれいな受け流しだ。
だが俺もまけじとあいた左手で掌底を繰り出す。
それも読んでいたのか俺の掌底を軽く打ち払う。
何度かそういったやり取りを繰り返してるうちに
「まったく、相手が俺とはいえ全くためらいもなく斬りに来てるな・・・」
「あたりめーだ、これくらいの気持ちでいってもてめえには掠りもしないんだからな」
「まっ、そりゃそうか」
とやつは笑いながら
「だがまあ大分腕をあげたよな、お前はよ」
「こんな毎日を送ってたらいやでも強くなると思うんだが?」
「なんだ、嫌だったのか?」
「比喩だよ比喩、俺は強くならないといけないからな」
「そうだな、まあ安心しな、坊主のその気持ちがなくならないうちは俺が鍛えてやるからよ」
とやつは心底楽しそうな、無邪気な笑みを浮かべ
「だがまあ、そろそろ潮時か」
と言ったと同時に俺の視界から消え
「今日はここまでだな、後はまあ、寝てな」
という声が聞こえたかと思うと
首の裏に確かな衝撃が走り、俺の意識は暗転した。
宜しくお願いします。