IV
ぼんやりとソファーに座り続けたまま、俺はまだ動こうとしていなかった。
「……仕事、するか」
さすがにそろそろ動こう。時間が、もったいない。
鞄からノートパソコンを立ち上げて、起動準備をしながら資料を広げる。晦日だろうが大晦日だろうが、やることがあるのに変わりはなかった。
俺の仕事は、出版社の編集だ。
昔から本が好きで自分でも書いていた俺が、どうしてもやってみたかった仕事だった。出版不況のせいか給料はよくないけど、やりがいはある。優華も前は俺のことを応援してくれた。
いつからだろう、あいつとの仲に綻びが見え始めたのは。ずっと昔なようにも、つい最近のようにも感じるよ。
俺たちが出会ったのは、今日から数えて十ヶ月近く前だっただろうか。
あっという間に付き合い初めて、四ヶ月でゴールインした。同僚からはずいぶん羨ましがられたもんだ。相原さんすごいっすね、なんて言われるたびに鼻が高くって、それがよけいに優華への愛情を高めてくれたっけ。
今は……そうじゃ、ない。
「……まだ帰って来ないのか、優華」
気づけば俺は、時計の文字盤を見上げ、そう独り言を言っていた。
優華が出て行ってから、もうすぐ三十分になる。今回は長いみたいだな、と俺は苦笑いした。普段なら十分やそこらで帰ってきて、口を尖らせたままベッドに入るのに。
かねてから何と言うか、嫌なことがあると目を背けたがる優華らしい行動だと思っていた。それだけ俺と会いたくないんだろう。
いいよ、そんなのこっちから願い下げだ。
……そうは言いつつも、時計が気になって仕方なかった。