II
ばたんっ!
盛大な音をあげて、金属のドアが閉まる。
部屋の中に急に静寂が充ち満ちて、緊張を失った俺はソファーに座り込んだ。
怒りでまだ、身体が震えている。参ったな、こりゃ落ち着けるまではかなり時間を使うだろうなぁ。俺は頭を掻く。
それもこれも全部、優華のせいだ。
たかが上着をそこに置いておいたくらいで言いがかりをつけてくる、優華が悪い。そうだ絶対あいつが悪い。
底知れず沸き上がってくる腹立たしさや憎しみに、心の奥底の方が煮えくり返っているのが分かった。
大体、優華は身勝手なんだよ。
いつもいつも俺が折れてるのをいい事に、好き放題言いやがって。しかも、逃げるし。
テレビをつけてコーヒーを装いながら、俺は深呼吸をした。いいか、落ち着け。落ち着くんだ。
今夜も仕事がたんまりある。どうせ優華は放っておけば帰ってくるだろう、そんなことには構っていられない。
俺は俺、優華は優華なんだから。
「……はぁ」
コーヒーを相手にため息を吐くと、眼鏡が一瞬にして白く曇ってしまった。
眼鏡を外しながら、思う。ああ、思えば俺の眼鏡も曇っていたんだなって。
付き合って結婚するまで、優華があんなに雑というか、ルーズな奴だなんて知らなかった。そりゃ、俺は確かに色々足りないよ。そのくらいは自覚してるさ。でも正直言って、優華だって人のことは全く言えないと思うんだ。
なんで俺、あんなに優華を好きになったんだろう。世界のあらゆる七不思議よりもよほど、そっちの方が不思議だよ。
俺はソファーにより深く腰かけると、天井を見上げた。
結婚してから、ちょうど半年。今日は十二月三十日か。
東京の外れにあるここ町田市に借りた初めてのマイホームは、狭い。寝室だって一つしかない、嫌でも寝る時は優華とはち合わせだ。寝る直前までこんなケンカを引き摺りたくないし、どうしたもんか……。
いずれにせよ。
帰ってきても、俺からは絶対に謝らない。
俺は悪くないから。
当然だよな、優華。
俺は天井の板を眺めながら、誰にともなく決意表明したのだった。