あなたを白黒つけたくて
この小説には、あからさまな読み辛さが含まれております。
地霊殿、地底世界にある旧都の中心部に位置する巨大な建物。
そしてその館の主は妖怪や怨霊に忌み嫌われる覚り妖怪の古明地さとりだ。
しかし……そんな地霊殿に今日はお客様が来る事になった。
「困ったわね……」
窓を見ながら一言呟き、はぁっとため息をついた。
彼女は地霊殿の主……古明地さとりだ。
普段は落ち着いている彼女だが今日に限っては何やら
そわそわしていた。
「どうしたのですか、さとり様?」
と、黒い猫が声をかけた。
姿は違うが火焔猫燐だ。
「ちょっと困ったことになって……」
しかしそれでもさとりはそわそわしていた。
何が彼女をそこまでそわそわさせているのか……。
「?」
状況のわからないお燐はただ首を傾けるしかなかった。
「あ……ごめんねお燐」
先ほどからそわそわしていたさとりは少し落ち着いたのか
首を傾げていたお燐の方を見て謝った。
「いえいえ気にしないでください。それよりもどうしたのですか?」
お燐はさとりに質問した。
「それが……四季映姫様がこの地霊殿に視察に来られるとかで…」
四季映姫・ヤマザナドゥ……地獄にて死者を裁く閻魔様であり、楽園の最高裁判長。
説教好きであり、その性格か能力故かあの八雲紫でさえ苦手としている。
「えぇ!?あの閻魔様がこの地霊殿にですか!?」
黒猫の姿をしたお燐は動揺を隠せなかった。
「まぁ、普段通りにしていればいいのかもしれないけど……相手が相手だし……」
四季映姫の説教好きはこの地霊殿にまで広まっていた。
「しかし……また突然ですねぇ……」
「そのおかげで中々落ち着くことができないのよ」
「それで先ほどからそわそわしていたのですね」
「そう言えば……お空とこいしの姿を見てないのだけど……お燐は見かけたかしら?」
お燐と話をして少し冷静さを取り戻したのか、四季映姫の事よりお空とこいし
の事を気にしだした……。
「お空は何時もの様に核の管理をしてましたけど……こいし様は見かけませんでしたね」
「困ったわね……お空はいいとしても、映姫様が来た時に迷惑にならなければいいけど……」
「どうします?一旦広間に戻ります?」
「そうしましょう……あとお空も連れて来て」
「わかりました」
お空こと霊烏路空は地下で灼熱跡地の温度調整……ようは熱の管理をして、特に何も無い時はカラスの姿に変身している。
またこいしこと古明地こいしは古明地さとりの妹で無意識を操れる為、他者に存在を
感知されなくなり、姉のさとりでさえ、こいしが何処にいるのかはわからない。
一方その頃、地霊殿に視察として訪れる四季映姫はと言うと………
「ふむ、ここですか」
地霊殿の扉の前に二人の女性が立っていた。
一人は小柄で悔悟棒を持っている。
もう一人は大柄で先端のひん曲がった鎌を持っていた。
小柄で悔悟棒を持っているのが、四季映姫・ヤマザナドゥで
大柄で先端のひん曲がった鎌を持っているのが小野塚小町だ。
「しかし、映姫様。またなんで地霊殿に視察を?」
小町が映姫に尋ねる。
視察に行くとだけ言われ、その理由を小町は映姫から聞かされていなかった。
「まぁ、視察ってのは表柄の言い分であって実際は……ただの挨拶ですよ」
「映姫様が挨拶って言うと視察より余計に怖いような……」
小町はボソッと呟いた。
「何か言いましたか?」
映姫は持っていた悔悟棒を小町に向けた。
「と……とにかく中に入りましょうか!」
小町は慌てて地霊殿の扉を開いた。
「ずいぶんと立派なお屋敷ですね」
映姫と小町は地霊殿の中に入ると辺りを見渡した。
「地底にこんな所があったなんて……まるで紅魔館みたいな所ですね」
「長話はそこまでみたいですよ小町。」
「地霊殿へようこそ……四季映姫様」
映姫と小町が辺りを見渡していると声が聞こえ
二人ともそちらに向くと一人の少女が立っていた。
「あなたがここの……地霊殿の主の?」
「古明地さとりです」
映姫と小町の目の前に立っているさとりは
先ほどのそわそわしていた状態とは打って変わって
妙に落ち着いている。
「私がここに来たのは、弾幕ごっこをするためではありませんよ?」
「知っています。ここに来たのは視察と言う名の挨拶……ですよね」
さとりは意図も容易く映姫の心を読んでみせた。
「それが心を読む程度の能力ですか」
普通は心を読まれると動揺してしまうが
映姫は動揺せずに、さとりの能力を聞いた。
「私が心を読んでも平気でいられるとは……流石と言った所でしょうか」
「まぁ、噂で聞いてましたし隣にいる小町からも聞いたので」
二人は全く動じず、互いににらみ合いをきかせていた。
そんな様子を映姫の隣で見ていた小町はすっかり置いてきぼりに
されていた。
(あちゃー……全くあたいが出る所がないよ)
小町は頭をかきながらそう思った。
「好きな所で出てきていいのですよ」
さとりは小町の心を読んだ。
「こりゃ、まいったね」
苦笑いをしながら再び頭をかいた。
むにゅ
「え……」
誰もいないはずなのに誰かに胸を揉まれ
小町は突然の事に頭が混乱していた。
むにゅむにゅ
「き、きゃん!!」
「どうしたのですか、小町?」
「だ、誰かがあたいの胸を……」
しかし、周りには誰もいなかった。
「こいし、そこまでにしてあげなさい」
「お姉さんの大きいねー」
小町の背後から声が聞こえたので
映姫と小町が後ろを振り向くと一人の少女が立っていた。
「……いつの間に……」
二人は声を合わせてそう言った。
「私の妹の……古明地こいしです」
「久しぶりのお客さんだね、お姉ちゃん」
「ふむ、古明地こいし……確か」
「私と同じ覚妖怪でありながら無意識を操れます」
古明地こいし、姉の古明地さとりと同じ覚妖怪。
さとりと同じく第三の眼を持っているが、他者の心を読む事によって
忌み嫌われるの恐れ、眼を閉じ無意識を操っている。
「気づかないわけですね」
「でも、何かと便利だよ?」
「あたいはもう、勘弁してもらいたいね」
「少しにぎやかになってきたので場所を移しましょうか?」
「えぇ、そうですね」
「お燐、お空!」
さとりがそう呼ぶと、黒い猫とカラスが走って(飛んで)来た。
「なんですか、さとり様?」
「うにゅ?」
「小町さんをこいしと一緒に地霊殿の中を案内して欲しいの」
「わかりました!」
そう言うと、お燐とお空とこいしの三人は小町を地霊殿の
中を案内するため、映姫とさとりを残してどこかへ行った。
「さて、いなくなりましたね」
「場所を移すと言うのは……嘘ですか」
「そうでもしないと挨拶も何もせずに帰ってしまうでしょうから」
さとりは映姫に背を向けそう言った。
「覚妖怪と言うのは、他者に忌み嫌われてると聞きましたが……」
「………」
「あなた達姉妹やあの二人の妖怪を見ているとそうでもなさそうですね」
「でも、現実はそれほど生易しいものじゃありませんよ」
古明地さとりもまた嫌われていた。
それはさとりの持つ能力のせいで妖怪や怨霊などから嫌われているのは
自分自身でも自覚しており、それ故に……他者との接触を嫌い
この地霊殿に住んでいる。
「私も多少なりともあなたと似た様なものですから」
「説教好きがわざわい……してですか」
「説教好きといいますか……役所がらみたいなものですね」
四季映姫が通るたびにその場に居合わせた者からは逃げられたり
苦手意識を持たれている。
「それでも……小町が隣にいると落ち着くんですよ」
「私も……こいしやお燐とお空がいると落ち着きますね」
「似た者同士……なんでしょうか」
「そうみたいですね」
二人の表情からはいつしか笑みがこぼれていた。
「これからもよろしくお願いします」
「私の方こそ、よろしくお願いします」
そしてしばらく、そんな話が続いた。
映姫と小町が地霊殿から三途の川岸に戻る途中に
小町は映姫に尋ねた。
「四季様、少し聞いてもいいですか?」
「何ですか、小町?」
「古明地さとりは……地霊殿に住む者達はずばり?」
「ふふ、白ですね」
小町に尋ねられた映姫は、ふふっと笑いながら悔悟棒を
口元にあて、小町の質問に答えた。
終わり
こんな感じの小説を書いた漆黒です。
前作から時間が経っちゃってますね;