第5話
「ふぃ〜、つ、疲れた・・」
俺にしては珍しく弱音を吐いてしまった。
なんてったって宿に泊まれないせいで夜通し森の中を歩いているのだ。
木々はざわめき、葉は葉と重なり合い、僅かな月明かりすら隠してしまう。
足元に気を配り、前方に気を配り、精神力の消耗は凄まじいものとなっている。
サルになったからって森を歩くのが得意にはならないらしい。
(だらしがないぞ、ルーク。)
「そりゃお前は鞘におさまってるだけだから・・・」
枯葉を踏み鳴らす、乾いた音が俺らの会話を少なからず阻んだが、そんな事は気にならない。
(チャージを見ろ、チャージを。)
そう、チャージだ。あいつ盗賊とは言え、こんな暗い森の中を、同じペースでずっと歩き続けてる。
普段の様子を思うと・・なんだかスゴイんだかスゴくないんだか良く分からない奴だ。
「お、見えた見えた〜」
少し前を行くチャージが声を上げた。
どうやら、目的の「呪術師が住む村」とやらに到着したようだ。
俺は枯葉を踏み鳴らしながらチャージの近くまで駆け寄る。
「これが・・」
暗闇にぽっかり穴が空いたように、無数のたいまつに照らされているそれは、「村」
と言うより「キャンプ地」のようだった。テントをはったような簡素な住居が
段々畑のような地に軒を連ねている。
・・ん?
中央にはやけにデカい建物がある。
「あれは、エーテル教の神殿・・いわば総本山さ〜。ここの奴らは、年に何回か、何ヶ月かの期間
あの神殿の周りにキャンプを張って、邪念を払うんだ。」
俺が不思議そうにしているのを見てチャージが説明を始めた。
なるほど、今がその時期ってわけか。運がいいなぁ俺ら。いや、サルにされたんだから
運は悪いのか・・。しかし、
「チャージってすげぇ物知りなんだな〜。」
俺は思わず感心した。
「まあな。」
ん?素直に誉めたのに嫌味だとでも受け取られたんだろうか。何だかチャージの様子が一瞬違った
気がする。まぁいいか。
とにかく、ここじゃ村の細かな様子までは分からない。宿もとらなきゃいけないしな。
とりあえず村に近づこうと俺は一歩踏み出した。
するとチャージが信じられない事を言う。
「待て待て〜、今日はここで野宿だぜ〜。」
は〜っ??村はすぐそこなのにこんな森の中で野宿!?
気が触れたのか、こいつ。俺は当然文句を言う。
「いくらサルの姿だからってこんな森の中で野宿ってお前なぁ、すぐそこに村あるだろ。」
「まぁまぁ落ち着け。見張りなら俺がやるからさ〜」
アレだ、絶対アレだこいつ。
・・まぁ、もう足も限界だしな。俺は枯葉をかき集めてその上に座り込んだ。
サルっぽい、嫌になるほど今の俺はサルっぽい。
が、自己嫌悪の念よりも睡魔のほうが足は速いらしい。
俺はその場で横になると、目をつむった。