第11話
「よっと!」
辺りは暗闇に包まれている。
皮肉にもサルの身体であったことが幸いし、俺は身軽に塀を飛び越えた。
・・チャージの協力あってだが。
こいつ、どんな運動神経してるんだか・・ひとっとびで城の高い塀を越えてしまった。
(潜入開始か・・)
「犯罪への第一歩だよ・・はぁ・・」
勇者として称えられるはずである俺が何故こんな事をしているのか。
疑問に思うだけでバカバカしいよ、もう・・・。
塀を飛び越えたものの、唯一城内部へ潜入できそうな裏口まではまだはなれている。
芝生の敷き詰められた庭を、闇の衣を纏いながら俺らは音もなく走る。
・・潜入前にチャージにみっちり鍛えられたおかげで変な技術を身に付けてしまったようだ。
「でもよ」
俺は小声でチャージに話し掛ける。
「王家が厳重に管理している書物を・・盗み出すなんてやっぱり・・。」
「素人にゃ厳しいかもな〜」
チャージも小声で、だが明るく返す。
「おい、ちょっと待てよ・・」
「大丈夫だって」
毎度毎度こいつの自信には驚かされる・・。
俺はため息をついた。
(ム・・気配がする・・)
「そりゃそうだろ、見張りくらいいないとかえって不安だ」
(そうではない)
テュールの声は凛としているが、どこか、なにかを恐れているようでもあった。
(人ならざる気配だ・・気をつけろ・・)
!!ってぇことはま、魔物!?
面倒なのがでてきたもんだ・・まぁ勇者の実力をもってすれば他愛もない相手のはずだが。
「・・何で・・城の中に魔物が?」
「ここ、塀の外の警備手薄だったからな〜、俺らみたいに忍び込んだのかもしれないぜ〜」
「でも、何で魔物がエーテルの書物を・・。人と魔物では扱える術の種類が違うはず・・。」
(近づいてくる!)
何っ!?冗談じゃない!
俺はあたりを見回す。
・・と、チャージがすでに池のそばの茂みに隠れて手招きしていたので俺はそちらへ向かった。
城の庭ってのは広いぶん隠れるのにはベンリだなぁ・・。
「・・フ、我等に必要なものは・・優秀な生贄といったところか。フフフ・・」
「生贄に優秀もなにもあるのですか。」
「術の発動には、優秀な呪術師を生贄にささげ、その精神力を代償としなくてはならん。
なぁに、もうすぐやって来るだろう。飛んで火に入る夏の虫・・じゃな、ハハハハ」
低い声で高笑いをするその人物・・俺は目をこらしてよく見た。
が、チャージはもっと早く事実に気付いたようだ。
その人物の額に、世の闇の僅かな光をうけて輝く、紋章に。
「こ、国王・・!?国王と魔物が話しているぜー!?」
チャージも動揺を隠し切れなかった。
(ま、まさか・・)
テュールも焦りの色を浮かべる。
こ、これはどういう事だ!?