灰かぶり姫の生まれ変わり
私は、家族が嫌いだ
それは私が灰かぶりの生まれ変わりだから
血の繋がり?
愛してもくれない人間なんか、知ったこっちゃないね!
「ねぇねぇ、榛さん」
「何?」
「今日の掃除当番代わってくれない?」
「当番なんだから、ちゃんとやりなさいよ」
「え〜!ケチッ」
喧しい。
羊か兎と勘違いするなよ。
さっかーえろ!
ようやく独り暮らしになったんだから。
好きなこと一杯出来るんだから!
掃除して洗濯してご飯作って、本を読み耽るの。
え?家事は元々好きよ?
今日は何を読もうかしら。
「武弥、彼女は?」
「榛 灰琉実。灰かぶり姫………シンデレラだ」
「綺麗な人ね」
肩口に切り揃えられた艶やかな黒髪。
目鼻立ちが均整にとれた顔。
凛々しい立ち姿。
「水姫の方が綺麗だけど」
「………そりゃどうも////」
彼女の相手は誰だろう?
学校の隅に、ハシバミの木がある。
私はこの木がとても好き。
灰かぶりだった私の、本当のお母様の代わりだから。
「あれから五回………だったかしら」
五回も生まれ変わって、私は実の親に恵まれなかった。
片親だったり、両親のどちらかが酷かったり、そういえば兄弟姉妹も出来たことがあるけれど、家族という家族はほとんどが酷いものだった。
暴力・暴言は当たり前、家事を強制され失敗すれば食事を抜かれた。
現代では流石に問題ありとして、今は子がいない親戚の養子になった。
優しい人たち。
でも、私を持て余している。
だってね、五回とも実の家族に恵まれなかったんだもの、ひねくれもするわよね。
だから家を出させてもらった。
――――灰かぶりの時はよかった。
一目惚れだと言った王子は結婚後も優しくて愛してくれた。
今までの人生で一番の、唯一の幸せだった。
けれど五回の生まれ変わりで王子と会うことはなかった。
一度あることは二度ある、二度あることは三度ある、三度あることは………
正直、もう疲れた。
きっと今回も会えないでしょう。
だから私はこのハシバミの木さえあればいい。
お母様が願ったことを叶えれば。
『生きて幸せに』
私は知っている。
生きていること自体が幸せだということを。
世の中には生きたくても死んでしまう人がいる。
…………殺されてしまうことだってある。
だったら私は幸せだ。
生きているだけで、いい。
その中で趣味とか、心から許せる友人がいれば、これ以上ない幸せだろう。
ハシバミの木に頬を寄せる。
ここまでが私の日課。
こうして幸せの確認ができるのも幸せだから。
ああ、幸せね――――
「――――い、おいっ起きろ!」
目を開けると、だいぶ日が傾きかけていた。
あー寝すぎたなぁ。
どうせ帰ったら一人だし、いいんだけど流石に風邪ひくか。
「って、無視するなよ!」
「ああ、ごめん。起こしてくれて、ありがと。それじゃ」
寝起きでしぱしぱする目を起こしてくれた男の子に向けてみた。
うん、軽く逆光になっててよくわかんないや。
「だあっだから待てって!」
「何か用?」
ようやく薄暗闇に慣れてきた目が、男の子の顔を取り込んだ。
そして魂が、打ち震えた
「愛しい灰かぶり――――ようやく見つけた」
とある国に美しい娘がいました
娘にはめったに帰らない父と、意地悪な義母と義姉の2人が家族でした。
義母と義姉は美しい娘をいつも台所の灰のそばで働かせていたので、灰かぶりと呼んで召し使いのように扱っていました
それでも娘は、いつか父親の帽子に引っ掛かったハシバミの小枝を墓のそばに植え、毎日涙を流しながらお祈りをしその木を支えに、ネズミや鳥たちと慎ましやかに生きていました
そんなある日、お城から招待状が届きました
義母と義姉は早速綺麗に着飾りました
娘もお城へ行きたいと言いました
けれど意地悪な義母と義姉はヒラマメを灰にぶちまけ、時間内に拾い集めなければ連れていかないと言います
娘は鳩やキジバト、小鳥によい豆悪い豆をわけるようにお願いすると、あっという間に終わりましたが、娘が汚いからと置いていってしまいました
今度は娘はハシバミに金銀を落とすようにお願いすると、美しい銀色のドレスと金の靴を落とし、娘はようやくお城へ行けました
お城へ行っても義母や義姉は気づきません
王子様は一目で娘を気に入り、他の男が娘にダンスを誘っても自分の相手だと言うほどです
娘は王子様とのダンスを楽しみましたが、しかし夕方には帰らないと父親が帰ってくるのでバレてしまいます
三日三晩、娘は夕方になると逃げて帰りました
なので王子様は最後の三日目、いつも娘が降りていく階段の上からコールタールを流しました
そのせいで娘は金の靴を片方脱げてしまい、そのまま去らざるをえなくなりました
次の日、王子様は金の靴にぴったりあう娘をお嫁にすると言い、いつも逃げる娘が逃げ込んだ家に行きました
義母と義姉は大喜びで、まず一番上の姉がはくことにしましたが、指が大きくて入りません
義母は一番上の姉に、妃になったら歩かなくてもよいのだから切り落とせといいました
言う通りに切り落としたものの、鳩が「血にまみれた娘、本物の姫は家の中」と歌います
次に二番目の姉がはくことにしましたが、踵が大きくて入りません
義母は同じように切り落とせといいました
言う通りに切り落としたものの、鳩が「血にまみれた娘、本物の姫は家の中」と歌います
王子様はまだ娘がいるはずだと父親に言います
父親は、他は貧相な娘しかいないと言いますが、王子様はその娘にもはかせるように言いました
娘は顔を洗い、髪をとかし、王子様のもとへ向かいました
そして金の靴をはけば、当然ぴったりです
鳩も「血に濡れぬ娘、本物の姫は目の前だ」と歌いました
王子様と娘は結婚することになりました
娘の付き添いは意地悪な義姉たちです
結婚式にくる貴族を狙ってのことでした
娘の両脇に立ちましたが、王子様の姿が見えたとき、鳩が義姉たちの両目を突っつき始めました
こうして娘は王子様と幸せに暮らし、意地悪な義姉たちは一生盲目として暮らしました――――
パタン
………逃げてしまった。
びっくりしちゃったのよ。
何せ物語の王子様からはまず逃げの姿勢だったから。
………仕方ないと思う。
だって、怖いのよ。
私たちから探しにはいけない。
おとぎ話の私たちは王子様に見つけてもらわないとだれが王子様だなんて、わからないのだから。
いつだって待っていなくちゃいけない。
だから、私は王子様を恨んでいる。
ん、と。
とりあえず一日経って、今はお昼休み。
私はというと、昨日の男の子とご対面。
あのハシバミの木の下でね。
彼は宮武 探。
ちなみに同い年で二つ隣のクラスだった。
「ほんと、逃げんの得意だよな」
「逃げなきゃ、生きていけなかったもの」
「そりゃそうか………そうさせてきたのは、俺か」
「親兄弟に縁がないだけよ」
「そうやって逃げて諦めてきたんだな………俺のことも」
「…………」
本当のことだから、なおさら私の口から言うことはできない。
「見つけてくれたことは嬉しいわ。やっと会えたことも。………それだけだわ」
「五回も見つけられなくて、悪かった。だが、だから、俺を諦めるな!」
肩を掴んでこようとする手を避ければ、背中がハシバミの木にあたった。
いつもこの木は私を支えてくれる。
「宮武君、私ね………今とても幸せよ?」
「生きているだけで、ってか?――――そんなの、俺は認めねぇ!」
だって、生きたくても死んでいかなければならない人にしてみれば、私は幸せ者だ。
さらに、好きなことを好きなだけやれている。
これ以上な幸せはない。
「ふざけんな!――――幸せに基準なんか、ねぇんだよ!!」
気が狂いそうになった。
いつまでたっても見つからない妻。
なぜか親兄弟の縁が薄い彼女が、悲しんでいないか、泣いていないか、苦しんでいないか、発狂しそうなほど心配した。
彼女を最も愛せるのは自分しかいないからだ。
愛しているのに、受けとるべき彼女がいない。
それがどれだけ苦しかったか………
「だから、諦めないでくれよ――――愛しているんだ」
「どうして――――私たちは探しに行けないのかしら」
最初の私は、自ら行動を起こした。
別に王子様の目に留まりたかったなんて思っていた訳じゃなかったけれど。
行ったらきっと楽しくて、幸せな気持ちになれると思ったから。
そこで、その幸せよりも大きな幸せを見つけた。
なのに生まれ変わった時にどうして一番の幸せの為に動くことができないのだろう。
悲しくて、苦しくて。
「諦めるしかなかった………」
愛されたいのに愛したいのに、与えてくれる受け取ってくれる人がいない。
「見つけられなくて………ごめんな」
「………見つけてくれて、ありがとう」
「「誰よりも、愛してる――――」」
End