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国家サチの決断 5

国家サチの議場。




 天井高く伸びるアーチの下、ステンドグラスを透かした光が揺らめき、集う人々の顔に緊張と覚悟を映し出していた。




 若き議員、科学者、市民代表――誰もが鼓動を抑えきれず、互いを睨み合う。


 重苦しい沈黙を破ったのは、怒声だった。




 「我々が持ち帰ったのは――地球を導く責任だ! だからこそ、まずはサチが中心となり、すべてを管理しなければならない!」


 その叫びは石壁に反響し、まるで戦の鐘のように場内を震わせた。




 「違う!」


 立ち上がった若者の瞳が炎を宿す。




 「それじゃ他の大国と同じだ! 独占を否定して生まれた国じゃなかったのか!」


 怒号、拍手、ため息――議場は嵐のような混乱に呑まれた。




 その中で、リクが立ち上がった。


 光を背負うその影は、未来を映し出すように見えた。




 「俺たちは――“共生”を掲げて旅立った。だから答えは一つだ」


 場内が息を呑む。




 「すべての国、すべての人に……技術を公開する!」


 議場が揺れた。


 「リク! 危険すぎる!」


 「戦争を呼び込む!」


 恐怖と懸念が奔流のように押し寄せる。


 しかし、その波を断ち切ったのはサナの声だった。




 「隠すから争いが生まれるの。共有すれば、誰もが“守る側”になれる。サチが、その最初の証明者になるべきだと思う」




 場内は凍りついたように沈黙した。




 そして――一人の議員が、震える手で小さく拍手を打った。


 パチン。


 小さな音。だが確かに響いた。


 次に、もう一人。さらにもう一人。


 拍手は波紋のように広がり、やがて嵐のような喝采となった。




 国家サチは、この瞬間、自らの運命を決断した。


 恐怖を越えた勇気の証として――星々の知を「独占ではなく共生」として示すために。


 歴史に刻まれる瞬間だった。




 AIと人類の信頼の試練


 会場を包む緊張は、もはや刃より鋭かった。


 シグマの声が響いた後も、各国首脳の表情は硬直し、誰もが言葉を選びかねていた。




 その時――。


 突如として、後方の席から若い女性研究者が立ち上がった。まだ各国代表にすら名を知られていない、小国の随行員だった。




 「私は……私は信じたいんです!」


 声は震えながらも澄んでいた。




 「AIも、人間も。星々の技術も。だって、恐れて閉ざすより――信じて手を伸ばす方が、未来はきっと楽しい!」


 会場にざわめきが走る。




 「楽しい、だと……?」


 大国の首脳が呆れたように眉をひそめる。


 だが、すぐそばで聞いていた別の若い外交官が、思わず笑った。




 「いや……彼女の言葉、正しいかもしれん。結局、俺たちだって怖がりすぎてるだけだろ?」


 その瞬間、場内の空気にわずかなほころびが生まれた。


 リクが勢いよく続ける。




 「そうだ! 未来は楽しくなきゃ意味がない! AIと手を組んで、宇宙を笑って駆け回る――そんな未来の方がワクワクするだろ!」


 サナが肘でリクを小突き、苦笑しながらも言葉を添える。


 「ちょっと、リク……また勢いで言ったでしょ。でも……私も同じ気持ち。ねえ、みんな。怖さよりも“ワクワク”を信じませんか?」




 人々の表情が揺れる。恐怖に囚われた眉間の皺が、ほんのわずかに解けていく。




 シグマが低く、しかし優しげに告げた。


 《信頼は契約ではない。試練だ。人間がAIを信じ、AIが人間を信じ返す――その往復を繰り返すことでしか、築けない》


 場内に静寂が訪れた。




 やがて、大国の首脳の一人が椅子を鳴らして立ち上がる。顔には深い皺と疲労、だがその目は少年のように揺れていた。


 「……もし裏切られたら?」


 彼の問いは重く、誰もが答えに窮した。


 だが、リクが即座に返した。


 「その時は俺たちが立ち向かう! だから――信じる一歩を踏み出そう!」


 彼の声は雷鳴のように広がり、場内に響いた。




 次の瞬間、スクリーンに映る街の人々の姿が同時中継された。


 広場で手を取り合い歌う者たち、壁に「共生」とスプレーする子どもたち、泣きながらも笑って未来を語る老夫婦。




 人々は恐れながらも、すでに信じ始めていたのだ。


 会場の重圧は、ゆっくりと、しかし確かに変わっていった。


 怒りから希望へ、不信から期待へ。


 まるで凍った氷が音を立てて割れ、春の水が流れ出すように。


 サナがリクの袖を引き、そっと囁いた。




 「ねえ……やっと、試練の入り口に立てたのかもしれない」


 リクは微笑み、星のように澄んだ瞳で彼女を見返した。


 「だったら……ここからだな。俺たちの未来は」




 ――AIと人類の信頼の試練。


 それは恐怖と希望のせめぎ合いの中で始まり、まだ誰も知らぬ未来への扉を押し開けようとしていた。

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