宇宙の叡智 4
技術の公開から、すでに数週間。
地球は――眠りから覚めた巨獣のように、熱と混乱に揺れていた。
夜の街角ではランタンのような喜びの灯が踊り、テレビのスタジオは討論の火花で燃え、広場には抗議と歓迎の群衆が入り乱れ、互いの声をかき消し合っていた。
「国家サチが持ち帰った技術を、すべて全世界に開放すべきだ!」
若い研究者がマイクを握り、目をぎらつかせて叫ぶ。その声は、未来を渇望する者たちの胸に電撃のように突き刺さった。
「いや、それを公開すれば再び戦争になる!」
別の街角では、戦火の記憶を抱えた老人が声を震わせて反論する。彼の手は止まらぬ震えに覆われ、皺だらけの唇は固く結ばれていた。
「AIに接続するインターフェイスだと? それは支配の道具に過ぎん!」
専門家らしき人物が論旨を畳みかけ、背後のモニターには煌めく未来都市の映像が流れ、その下で人々の期待と恐怖が渦巻いていた。
街の空気は、これまでにないほどの緊張で張り詰めていた。
各国政府の会議室もまた、嵐の中心地だった。
ドアの向こうで閣僚たちの声がぶつかり合い、机の上のコーヒーカップが小刻みに震える。
「サチが技術を独占すれば、国際秩序は崩壊する!」
「監視下に置くしかない!」
書類を叩きつける音が、金属音のように響き渡る。映像はニュースで繰り返し流され、解説者の声と政治家の空虚な言葉が交互に世界を揺らし続けた。
一方で、国家サチの若者た、、、空と星を渡って帰還した英雄たちの胸は、縄の上を歩くかのように揺れていた。
「英雄」と呼ばれる一方で、「触れてはならぬ火薬庫」として恐れられる。矛盾する眼差しが彼らに注がれていた。
その夜。
リクは屋上に立ち、星空を仰いでいた。
「俺たちは、みんなの未来のために持ち帰ったはずなのに……」
声は掠れ、夜風に溶けて消える。
その背に、そっと寄り添う気配。
サナが隣に立ち、月明かりに照らされた横顔を硬く引き締めていた。
「ここで諦めたら、叡智を授けてくれた人たちの思いを裏切ることになる」
彼女の声は震えていなかった。けれどその目の奥には、揺れる炎と鋼の決意が共に宿っていた。
「リク、私たちにしかできないことがある。逃げたら……約束を破ることになる」
リクは黙って頷き、拳を握りしめる。胸の奥で砕けるような痛みと、新たに芽吹く火が同時に走った。
遠くから、群衆の怒号と歓声が波のように押し寄せてきた。
街では掲示板が燃え、SNSは炎上し、ラジオは何度も中断を繰り返す。
「守れ!」と叫ぶ者もいれば、「共有しろ!」と訴える者もいる。
答えはどこにもなく、ただ恐怖と希望が入り交じるだけ。
リクは夜空を仰ぎ、低く、しかし確かな声を放った。
「仲間の想い……命を懸けて託された未来……ここで怯んだら、絶対に許されない」
サナは彼の手を握り、囁くように言った。
「なら、一緒に考えよう。奪い合いじゃなく、分かち合いに変える方法を」
二人は互いに視線を交わす。
夜風が髪を揺らし、星々の瞬きがほんの少しだけ温かく見えた。




