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第五話:奇跡なんて信じてないけれど

PC画面に、イベント開始の告知が表示された。


【期間限定ボスモンスター討伐イベント】


選択肢はふたつ──

【参加する】/【待機する】


リカは一瞬だけ迷った。前回のイベントでなすすべもなくやられた苦い記憶がよみがえる。だが、みるちんの熱量に背を押され、マウスをそっと【参加する】へと動かす。


「……うん……みるちん。大丈夫かな?」


すると、みるちんがニヤリと笑い、腕を組んで宣言した。

『へへ、燃えるね! 師匠との名コンビならなんだっていける☆彡』


だが、ダイの表情は不安に染まっていた。

(迷コンビの間違いだろ……このふたりじゃ、無謀すぎる)


その思いが通じたのか、リカの指もいったん【待機する】に揺れかけたが──


躊躇なくみるちんが【参加する】を実行した。


「心の準備ってものがー!!」


リカの抗議もむなしく、問答無用でイベントフィールドへの転送が開始され、画面が切り替わる。

 

***


イベント開始の合図とともに、空に真紅の稲妻が走った。いくつもの専用フィールドが用意され、期間限定ボスモンスター「オーガ」が降臨する──それが今回のイベント内容だ。


(よりによってオーガ!? なんでまた……!)


ダイは、己の不運を呪った。


オーガはレベル30推奨の高難度ボス。今のリカとみるちんのレベルは19。二人がかりでも到底勝てる相手ではない。


『わー、でっかーい! あたし、こういうの燃やしたい☆彡』


(ダメだ……テンションが間違った方向に高い!)


巨体のオーガが、轟音とともに突進してくる。その速度は見た目に反して驚異的で、即死級の踏みつけ攻撃グラウンドインパクトまで持っている。


本来なら、上級タンクを含めたフルパーティで挑むべき敵。それなのに、周囲には援軍もいない。


(……やるしかない、か)


ダイは覚悟を決め、グレートソードを構えた。


戦闘が始まると、リカは緊張して操作がほとんどできなくなる。今もキャラクターはほぼ硬直状態だった。


『師匠、援護いくよー☆彡』


そう叫んだみるちんが、《メテオ》の詠唱を開始する。


(だから! この距離でメテオは……!)


バシュゥゥゥウン!


火球が空を裂き、オーガの背中を焼く。が、案の定、ヘイトがみるちんに向く。


グォォオオオ!!


咆哮とともに、オーガが突進してきた。


『師匠ぉ!? タゲ取ってー!!☆』


ダイはみるちんの前に跳躍し、剣を振る。


《パリィ》発動──成功。


オーガの棍棒をギリギリで弾き、攻撃を無効化する。だが衝撃は大きく、ダイのHPがじわじわ削られていく。装備の耐久も限界寸前だ。


(くそっ……タイミングが完璧でも、確率発動じゃ限界がある……!)


再び突進──

《パリィ》──成功。

《パリィ》──成功。

《パリィ》──成功。


(……今の俺、なんか……いつもと違う?)


ラックだけでは説明できない。なにかが違う。けれど、今は考えている暇などなかった。

ダイは《庇護の盾》を発動。みるちんへのダメージを肩代わりする。


『師匠、やばいってば! 回復もアイテムも切れかけじゃん!★』


「いやぁぁ! 撃って!! 撃ちまくってー!!」リカはパニックを起こしている。


みるちんが最後のマジックポーションを飲み干し、渾身の詠唱を完了させる。


《メテオ》──発動。


巨大な火球が再び降り注ぎ、オーガの頭上に炸裂した。

だが、オーガも最後の力で棍棒を横薙ぎに振るう。


(パリィしても、衝撃だけで死ぬ──!)


覚悟を決めたその瞬間。


リカのマウスが、コップにガタンと当たった。


その誤操作で発動したのは──

《ジャンプ斬り》。

偶然にも、横薙ぎの攻撃を飛び越え、頭上からの一撃がクリティカルヒットとなる。


オーガのHPゲージがゼロに沈み──

空が晴れ渡った。


フィールドに勝利のファンファーレが鳴り響く。

 

***


「や、やった……」

『いえーい!! あたし、初オーガソロ討伐かもー! 師匠すごすぎwww』


 (ソロって単語の意味、辞書で引いてこい……)


呆れたように、しかしどこか満足げに、ダイはそっと剣をしまった。

 

*** 


その頃。


管理AI「シャル」は、イベントログを開いていた。


【ふふん、四連続でパリィ成功なんて……人間が偶然でやれる確率じゃないよ?】


猫耳型のUIがぴくりと動く。

興味を引かれたように、ダイの過去一週間分ほどのログを何度も再確認する。

驚くことに、リカが操作していない状況での行動が散見される


【これは、もしかして……。】


【もうちょっとしたら、“会いに”行くべきかしら……?】


期待と不安の入り混じった表情で、シャルは静かに呟いた。

──夜のフィールドに、星がまたたく。


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