第三十話:天才軍師りばいばる☆彡
火力UP大作戦、開始から四日目。
弾道計算くんは、ついに作った。
寝る間も惜しみ、構成と数値に命を削って完成させた渾身のデータ資料。
その名も──
《職業別:最大効率ダメージ構築理論》
文書数十ページ、補足グラフ付き、スキル回しの実例あり。
《これでようやく、まともな構成が浸透する……はず》
そう信じて、彼はデータを“ぶっちぎり極大火力ちーむ”の掲示板に投稿した。
──が。
『にゃー! これ、三行以上あるっ☆彡』
「メテオ以外の魔法が書いてあるとか時代遅れよね★」
『あー、無理無理☆ 長文は燃やすしかないっ☆彡』
「はい、燃えろ☆ ばっちこーん!☆彡』
──数分後、多数の“メテオ中毒患者”により、“焚き火”のスタンプでコメント欄が埋まっていた。
弾道計算くんは、無言で目を伏せた。
《……火力だけじゃなくて、文章理解力も鍛えろよ……》
* * *
だが、全員が全員、“残念な子”ではなかった。
「これ、読みました。めちゃくちゃ参考になります……」
「うちのパーティー、タンク役が死にすぎてたんですけど、バフ回しとスキル回避の記述で大分マシになりました」
「これ公式のチュートリアルに置くべき」
少数派ながら、真面目に資料を読み込み、反映させるプレイヤーたちもいた。
──そしてその変化は、確かに火力ログに現れていた。
全体ダメージの上限が、徐々にだが、上昇してきている。
弾道計算くんの目が、わずかに光る。
《これは15億にとっては小さな一歩だが、ちーむにとっては大きな飛躍だ》
彼はくさいことを言いつつ、更なる資料作りに思いを巡らす。
* * *
「というわけで〜〜っ☆彡」
ゲーム内の巨大拡声器に、みるちんの元気な声が響いた。
『次のお目当てはコレっ! モンスター【殺意のドッペルゲンガー】狩り大作戦〜☆』
空中に投影された紫のホログラムは、次第に不気味な“のっぺらぼう”の人型の影を形作る。
『超絶経験値もらえるって噂だよっ☆ なんと! 戦いを挑んだ人数が多いほど、分身が増えるから──』
『経験値が割れない! 減らない! むしろ増えるっ!?』
『つまりっ! 全員で行けば行くほどお得っ!!☆彡』
──理論:ゼロ。勢い:無限大。
「待て、それは単に分身が強くなるだけで……」
弾道計算くんが止めようとしたその時、リカが言った。
「なるほど。それってつまり、うちのチームが今どれくらい強くなってるか、試せるってことだよね?」
『うんうん! 今の“ぶっちぎり極大火力ちーむ”でどこまで通用するか、テストだよ☆』
【殺意のドッペルゲンガー】ただの分身ではない。プレイヤーよりも少し強化された分身が襲い掛かってくる強敵で、挑む者はほぼ居ない強敵だ。
……それは、テストではなく、火葬の予感しかしなかった。
* * *
ドッペルゲンガーがいるとされる薄暗い森林エリア。
数百人規模で押しかけた“ぶっちぎり極大火力ちーむ”の足元に、濃い影が広がった。
地面から這い出すように、次々と現れる無数の人影──
そのどれもが、プレイヤーたちの姿そのままだった。
「うわっ!? これ、俺!?」
「私のドッペルちゃん、かわいい!!」
「メテオマン出てきた!!」
敵の行動は、戦いを挑んだ者のビルドとスキル回しを完全に模倣する。
つまり──火力特化したキャラほど、雑に強い敵になる。
『きゃー☆彡 私のドッペル、めちゃ火力高いんだけど!☆ さすが私っ☆』
「……いや褒めてる場合じゃない! こいつ、絨毯爆撃かってくらい撃ってくる!!」
だが、ここまで来るともう開き直るしかなかった。
「リカさんのドッペル、回避もせずに突っ込んできてクリティカルだけ狙ってるんですけど……」
「私の意志を感じるね!」
弾道計算くんは、目を細める。
《これは……混沌。だが、データ取りにはなる》
誰もが、己の強化版コピーと戦う。
そのスキル回し、構成、装備の穴──
すべてが剥き出しになる試練。
ここから、強くなるための“気づき”が生まれるかもしれない。
それが、彼の静かな期待だった。
この戦いの果てに、
誰もが何かしらの“自分”を、乗り越えることになる。
成長とは、そういうことだ。
──と、その背後から。
『にゃは☆ 自分のドッペルが強すぎて倒せなかったら、ある意味自分が正しいってことだね〜☆』
みるちんの声が、明るく響く。
……少なくとも、反省という言葉を知ってなさそうなのが一人いた。
* * *
──初戦のドッペルゲンガー戦は、惨敗だった。
「ひぃぃ! 自分のメテオで燃やされるの、精神的にキツい!!」
「俺の分身、俺より強いんだけど!? 装備の使い方うまくない!?」
「なんでラック特化の私が、一番最初にクリティカルでやられるの……?」
“ぶっちぎり極大火力ちーむ”は総崩れになり、辛うじて撤退に成功した。
燃えたのは空ではなく、メンバーの心だった。
* * *
その翌日。
『大丈夫っ☆ 策はあるよぉ〜〜〜☆彡』
と、みるちんはまったく懲りた様子もなく笑っていた。
弾道計算くんは、無言でお茶を飲んでいる。
『今度の作戦名は……《MP枯渇・大作戦☆彡》! つまり──』
『長期戦は愛と根性で乗り切れ!キャンペーン☆』
《……ちょっと待って》
『ん?☆』
《それ、自分たちの弱点そのまんま言ってない?》
──みるちん式:火力全振りの浪費魔法スタイル。
数分でMPが空になり、ポーション連打でどうにかしてる現状を棚に上げた発言である。
『でもでも! 相手ってモンスターだよ? MPポーション持ってるわけないじゃんっ☆彡』
『MP回復の精霊魔法使える人いないし!』
『だからさ! 回復手段があるうちらが勝てるに決まってる☆』
言ってることはめちゃくちゃだ。
だが、**“その理屈、通るかもしれない”**と思ってしまったのが悔しい。
弾道計算くんは額を押さえながら、呻いた。
《……理論破綻してるのに、勝機がある。何なんだよこの感覚》
《こっちにまともな魔法陣を使えるシャーマンや精霊使いが居ないからこそ、相手もMP回復できないのは一理ある…》
《いや待て、考えるな。負ける気がしてきた》
だが、引くわけにはいかない。
全員でリベンジを誓った以上、ここは何とかするしかない。
《準備は……万全にするぞ》
* * *
二度目の挑戦は、まるで別の戦いだった。
装備欄は、蘇生薬、MP・HP回復アイテムでぎっしり。
課金組はもちろん、無課金組も倉庫を漁ってまで回復剤を詰め込んだ。
分身たちは、またもプレイヤーを模倣して襲いかかってくる。
だが──今回は違う。
“本物”たちは、相手のMPを尽きさせるため、耐えて、耐えて、耐え抜いた。
死んでは蘇生薬を使ってもらい、ゾンビの如く蘇り続ける。
これではどっちがモンスターなのか分からない。
そして。
『今だよっ☆彡! メテオ一斉発射ぁぁ〜〜〜〜っっ!!☆』
空を覆う無数の紅蓮の隕石。
アイテムでMPを回復し、息を吹き返した火力集団が、まさに火の嵐を降らせた。
HPが尽きたドッペルゲンガーたちは、次々と崩れていく。
「やった……!」
「倒した、倒したぞおおおお!!」
「自分に勝ったぁあああ!!」
* * *
直後──
《レベルアップ!》
《レベルアップ!》
《レベルアップ!》
ログが滝のように流れる。
一人また一人と、まばゆい光に包まれ、歓喜の声が沸き起こる。
“ぶっちぎり極大火力ちーむ”は、まさに全体で進化(?)を遂げた瞬間だった。
* * *
《……信じられない》
画面の前で弾道計算くんは呆然としていた。
《あんな作戦が、通るんだな……》
理詰めの戦術が通じないときもある。
こっちがまともな編成じゃないからこそ通る作戦もある。
──ポンコツ軍団ゆえの勝利。
『ま、結局のところ☆メテオが、すべてが解決するっ☆彡』
《……いや、いろいろ間違ってる》
弾道計算くんは、こっそり次なる攻略資料を書いていた。
※だがまた燃やされる運命である




