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8 朝 裏庭

 ユキに呼び出されたのは校舎の裏側だった。

 裏庭と呼ばれるほどのものはなく、砂利道の両側に木が何本も植わっているだけのわびしい場所だ。奥には物置と職員用の駐車場があるだけ。

 朝っぱらからこんな場所に用のある人間などおらず、あたりに人気はない。


 ユキは色の変わり始めたイチョウの木の下に立ってスマホを触っていた。

 俺の姿に気づくなり、小さく飛び跳ねながら手招きしてくる。


「こっちこっち、おはよーナイトくん」

「その呼び方やめてくんない?」

「なんで? いいじゃん」


 昨晩のLineのやりとりで名前のことを聞かれた。どうせバレると思ってとっとと白状した。そしたらこのざま。


「えっと……ゆき?」


 ついさっき見たのと瓜二つの顔を見つめる。

 一見ではすぐに見分けがつかなかった。注視していくと細かいパーツの違いが読み取れる。一番の違いはやはり髪の長さか。ユキは首まで。ミキは肩まで。


 こっちの顔の目のあざは健在だった。といっても実際そこまで目立つようなものではない。あざのある母親の顔を見ることがあったから、俺がそういうのに敏感なだけかもしれない。


「どうしたの? 急に名前で。なんか恥ずかしいなぁ」


 ユキはうれしそうに口元をにやつかせていった。

 白い頬にわずかに赤みがさす。

  

「お前、双子だったんだな」


 そう言うと、持ちあがったユキの口角はすぐにおりた。目を細めてくる。


「そうだけど。それが?」

「あっさり言うなぁ。まったく、早く言ってくれよな」

「なんで? わざわざ自分から『わたし双子です』って言う必要なくない? 双子とかそんなの、別にカンケーないじゃん。双子だったらなに?」


 怒涛の反論ラッシュ。一瞬にして機嫌を損ねたらしい。何がスイッチになるのかよくわからない。

 けどまあ、間違ったことは言ってない。


「はいはいすいませんでした。にしてもなんか、おかしいなとは思ってたんだけどさ」

「それってわたしのこと、ミキだと思ってたってこと?」


 うん、と言いそうになって、さすがの俺もそれはまずい返しだと踏みとどまった。

 というかすでにユキの目がギラついている。

 

「いやその、やっぱ違うなって。ほら、その……目のあざとか?」

「それがどうしたって?」


 さらに言葉尻が強くなる。

 焦ってごまかそうとして墓穴をほってしまった。普通に考えたら顔のあざなんて、触れられたくない部分だろう。


「ほら、なんかさ……全部が全部完璧っていうよりも、どっか欠点みたいなのがあったほうが、かわいげがあるじゃん?」

 

 同意を求めるように言うと、俺を睨む目から毒気が抜ける。

 ユキは顔を赤らめながら目を伏せた。


「……そんなこと、はじめて言われた」


 なんとか落ち着いたようだ。

 けれど今のはとっさに口からでまかせを言ったわけではない。

 俺自身が完璧とは程遠い人間だから、そっちのほうがずっと親しみがある。


「あの……ごめんね? 強く言って」


 ユキはまるで怒られたあとの子供のように俺の顔色をうかがってくる。

 これはこれで気まずい雰囲気。今度は俺が目をそらす番だった。ここは一度、話を仕切り直す。


「まあいいよ……俺も悪かったから。そういえば指、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「他に痛むところは?」

「大丈夫だよ」


 ユキはにこりと口元をほころばせた。体を前に少しかたむけて聞いてくる。


「ナイトくんも大丈夫?」

「俺? いや俺はもとからなんも問題ないけど」

「そっか。うふふっ」


 姫はすっかりご機嫌のようだ。昨日とはうってかわってフレンドリー。

 というかこっちは双子の偽物か。となると学園の姫でもなんでもないことになる。


「で、なに? いきなり呼び出して」


 本題に入るまでが長かった。

 裏庭来てといきなり電話口で言われて、わざわざ来たのだ。これで何もない、とは言わせない。

 ユキはこれでもかというほど上目づかいをすると、胸の前で両手を組み合わせて、腰をくねらせた。


「あのね、ユキね。ナイトくんに今日ちょっとお願いがあるの」

「急にぶりっ子かよ」

「聞いてくれる?」

「断っても押し通してくるんだろ」

「さっすがわかってるぅ」


 俺の肩をとん、と押して、ぱちりとウインクをする。とてつもなく嫌な予感がした。

 ユキは肩にかけたカバンに手を入れると、中から膨らんだ茶封筒を取り出した。


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