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学園の姫を助けたつもりが病んだ双子の妹に責任を取らされるはめになった  作者: 荒三水


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43/48

43 昼休み

 その翌日の昼休みも、俺はユキと同じ場所に集まっていた。

 今日は一転して晴れ。正午の陽射しがまっすぐ降り注ぐ。湿った土のところどころにある小さな水たまりが、光をちりばめながら乾き始めていた。


「そしたらユキには関係ないでしょって。だから、あーはいはいそうね、って」


 ユキが箸を宙に踊らせながら言う。今日は俺から誘ったせいか、ユキは出会い頭から気持ち浮かれていた。

 

 姫ロワとやらの件について、ユキも家でミキと話をしたという。

 けれどあんたには関係ないでしょ、の一点張りだったそうだ。じゃあ知らない、とユキもやり合うことなく終わったらしい。


 その話は広げることもなく、話題を変えて昼食を済ませた。

 コンビニで買ってきたおにぎりとパンのゴミを、丸めて袋に突っ込む。

 今は少しだけ懐が温かい。この前うちに帰ったときにだいぶ多めに小遣いをもらった。あのときはみんな機嫌がよかった。


「それ飲まないの?」


 弁当箱をしまったユキが、レンガの上においてあるペットボトルを指差す。

 これは俺がさっき自販機で買ってきたものだ。まだ蓋を開けてない。


「あげる。いつももらってばっかで悪いからさ」


 ユキは少し驚いた顔をする。

 物に限らず俺がなにかあげる、というのは初めてかもしれない。別に俺はそんなケチというわけではない。施しを受けてばかりの気がするのは、お礼とかご褒美、という形を取ることが多かったからだろう。これは最初からあげるつもりで買ってきた。

 

「くれるなんて珍しー。でもなんでいちごミルク?」

「んー……ユキはなんかいちごミルクって感じ?」

「え? やだ下ネタ?」

「違うっての」


 ユキは笑いながら、蓋を開けて口をつける。

 一口二口飲み下したあと、そのままペットボトルを手渡してきた。


「こんなに飲めないから飲んで」


 もはや間接キスがどうたら、というくだりすらなくなった。

 逆らわずに受け取って、ペットボトルを口にかたむける。上を向いた拍子に、二階渡り廊下の窓が、光を反射しているのが目に入った。

 中身を半分ぐらいまで減らすと、ペットボトルをレンガの上に置いた。


「ここだとやっぱギリ見えるな」

「ん?」

「ちょっと立って、そっち行って」

「え、なに?」


 不思議がるユキを誘導して、壁際に移動させる。

 壁を背に立たせ、俺はその正面に立った。また上を見上げる。渡り廊下の窓は、高く伸びた木の陰に隠れた。今度こそ死角。

  

「よし、ここだな」

「なに? どしたの?」

「いやほら、イチャイチャタイム」

「へ?」


 細い両肩をつかんだ。間の抜けた顔に、ぐっと近づく。

 驚いたユキはあごを引いて片足を一歩下げた。が、かかとが壁にぶつかったようだ。さらに一歩詰めた俺は無言のまま、目を見つめて合図をする。

 ユキは一瞬面食らったような顔をしたが、何も言わずに表情を消すと、薄く目を閉じた。

 

 唇を吸う。舌を絡ませる。

 甘い香りが鼻を抜けていった。口の中は多めに水分を含んでいた。一度唇を離して言う。

  

「ほら、いちごミルク味」

「うわなにそれ、それやりたかったの? ヘンタイじゃん」


 ユキは口元をにやつかせながら軽く俺の胸元を小突いた。「わ、けっこう腹筋ある」とそのままベタベタと触れてくる。

 やり返すような形で、俺はユキの胸に手を触れた。

 

「あ、触った~」


 いたずらをとがめるような目で見上げてくる。ユキは俺の二の腕を握ってきたが振り払うことはしなかった。

 体に手を触れたまま、再び口づける。

 

 口の中はずっと粘り気が強くなっていた。粘性の柔らかいものが絡みつく音が頭に響く。

 吸いつきながら手を動かすと、ユキは顎を引いて唇を離した。俺の両肩に手を置いて、上目遣いに待ったをかけてくる。

 

「……ねぇ、やばいよ、誰か来たら」

「ん、嫌?」

「嫌じゃないけど、ん……」


 言い終わる前にまた唇を押し付ける。

 ユキは後ろによろめいて、壁に背中をついた。逃げられなくなった体を、さらに追い詰める。


「んっ……」


 苦しそうな吐息が漏れる。

 一度唇を離してやると、ユキは短く呼吸をしながらいった。


「どうしたの? 急にこんな……」

「いや思ったんだけどさ。いつ死ぬかわからねーんだから、先のことばっか考えてもしょうがねえなって」

「な、なに? 急に死ぬとかなんとか……」


 自分でもおかしなことを言っていると思う。精神が不安定なのは、俺も人のことを言えない。そんなやつに頼ろうとするのが、そもそもどうかしている。


 昨日のミキとのこともあってか、やけに胸騒ぎが……というかむらむらとする。売り言葉に買い言葉で、半ば怒りに任せての発言だったが、もし本当にあのまましていたら……などという考えが今になって頭をよぎる。 


「胸、大きくていいよな」

「う、うぅん……」


 恥ずかしそうに身をよじらせる。ここにきてユキは俺の手を押さえようとするが、もう片方の手で頭を撫でてやると、抵抗は弱まった。

 さんざん誘惑まがいの発言をしていたわりに、いざやられると弱い。ユキの挑発なんて、からかって面白がるフリみたいなもんだろう。

  

「も、もうだめだって、変な気分になっちゃうから……」

「それってどんな?」

「そ、それはぁ……」


 ユキは顔を赤らめてうつむく。 

 ミキには脅しでいったが、こんな場所でこんなことをしていると本気で変な性癖に目覚めそうだ。まあ変態だろうがなんだろうが、この際どうでもいいか。


「確かめてみていい?」

「だ、だめ。は、恥ずかしいから……」

「恥ずかしくないよ、かわいい」

 

 ユキの肌がさらに赤らんでいく。困った表情が可愛い。上ずった声も可愛い。

 太ももに触れて、スカートの中へ手を滑らせていく。指先がなめらかな肌をたどって、熱を持った部分に行き当たる。感触を確かめようとすると、上から押さえつけてきたユキの手に阻まれた。ここはミキとは違った。


「ほ、ほんとに、だめだってば、こんなとこで……昨日みたいに人、来るかもしれないし……」

「そっか、ごめん。じゃあさ、どこだったらいい?」

「そ、それは、ちゃんとしたとこで……」


 場所さえわきまえればいいらしい。 

 

俺は目の前の潤みを帯びた目をじっと見つめていった。

   

「今日さ、おれんち来る?」


 少しだけ間があって、目をそらされた。けれどユキは、はっきりとうなずいた。

 優しく頭を撫でながら、俺は彼女の体を離した。


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